楽天はなぜ「経済圏」拡大に走るのか?携帯、損保、ネットスーパー…新規参入の勝算と焦燥

EC事業大手の楽天が、M&A(企業の合併・買収)や新規事業参入によって事業領域を広げている。今なぜ「経済圏」拡大に走るのか。勝算はあるのか。

楽天三木谷氏会見

携帯電話事業に乗り出す楽天。三木谷浩史会長兼社長描く勝算は?

Sergio Perez/reuters

携帯電話事業への投資は十分か

まず経済界を驚かせたのは、自らが回線を保有する携帯電話事業への参入だろう。

2018年2月26日、総務省が新たに割り当てる携帯電話向け電波の取得を申請。認可が下りればNTTドコモやKDDI(au)、ソフトバンクに次ぐ第4の携帯電話事業者になる。2019年から新サービスを始め、約10年後をメドに1500万人の顧客獲得を目指すとしているが、サービス開始前から評判が芳しくない。

最大の理由は、2025年までに基地局などの整備に6000億円を投資するとしている点だ。

屋外基地局に3000億円、屋内基地局に800億円、基幹回線網に650億円、ユーザー増対応に800億円などと内訳も明確。設置に向けて東京電力や中部電力などが保有する電力設備を活用するとしており、かなり具体的なのだが、大手通信会社は一様に「そんな少額投資で全国にネットワークを張り巡らせられるわけがない」と口をそろえる。

携帯電話事業者として全国にネットワークを張り巡らせるには数兆円の設備投資が必要となる。6000億円という規模はドコモやKDDIがネットワークの維持で毎年投じている額でしかない。

三木谷浩史会長兼社長は「勝算がなかったら始めない」とした上で、設備投資が少なくて済むのは、構築する通信インフラが「第四世代(4G)と呼ばれるもので、すでにNTTドコモやKDDI、ソフトバンクが整備を終えたものだからだ」と強気の姿勢を崩さない。しかし、楽天が向こう7年で投じる金額は、ドコモの1年分だと言われれば、通信関係者ならずとも首をかしげるだろう。

6000億円では済まないとみられる理由は、そればかりではない。

総務省が開放する周波数帯は防衛省などが使用している1.7ギガヘルツ帯と3.4ギガヘルツ帯。これは大手3社が活用している「プラチナバンド」と違って使い勝手が悪い。プラチナバンドは例えば建物などの障害物があっても電波が回り込むといった特徴があるが、楽天に割り当てられることになる電波はまっすぐしか飛ばない。繋がりやすさを確保しようとすると、それだけ基地局の数を増やさなければならないのだ。6000億円で全国ネットワークを作るというのは至難の業だ。

相次ぐ事業参入の背景にあるアマゾンの攻勢

楽天ロゴ

事業領域を広げ、着々と経済圏拡大を図る楽天。

Kim Kyung Hoon/reuters

もっとも、楽天の足元の業績は好調といっていい。2018年2月13日、楽天が発表した2017年12月期連結決算は、純利益が前期比2.9倍の1104億円と3年ぶりに過去最高となった。

ところが、この日の記者会見に出席した三木谷氏が業績について触れることはなく、発言のほとんどは新規事業の狙いに割かれた。その意味では、三木谷氏の関心事は、将来の事業展開をどうするかに移っているように見える。

実際、ここにきて楽天は新規事業参入を相次いで打ち出している。

野村ホールディングス傘下の損害保険会社、朝日火災海上保険を株式公開買い付け(TOB)で完全買収すると発表、2018年春にはビックカメラと家電の通販サイトを立ち上げ、2018年9月までにはアメリカ流通大手ウォルマート傘下の西友ともネットスーパーを立ち上げる。決算記者会見で三木谷氏は「インターネット革命が一段落したときに生き残れるように、この局面では経済圏を拡大していく」と語ったが、「経済圏の拡大」とは携帯電話事業だけではないのだ。

なぜ今、それを急ぐのか。

楽天の決算をひもとけば理由は見えてくる。2017年12月期は連結売上収益が前期比21%増の9444億円、連結営業利益は同90%増の1493億円。先に触れた純利益なども並べてみれば、一見、好決算を背景として一気に経済圏の拡大に乗り出したように見えるが、注目しなければならないのは米アマゾン・ドット・コムとの競争で生じている国内EC事業の低迷だ。連結営業利益は746億円を確保したものの、前期比では3.8%減と頭打ち。代わって、存在感を増しているのが売り上げの35%を占める金融事業。連結営業利益は国内EC事業に匹敵する728億円だが、前期比では11%増と勢いがあり、楽天を支えているのが実情だからだ。

「楽天が始めた海外事業は撤退が相次ぎ、ホームグラウンドである日本で成長するしかない。しかし現状維持ではアマゾンの攻勢をかわせない。そこで経済圏の拡大に乗り出した」と楽天関係者は言う。つまり背水の陣を敷いたわけだ。

座して死を待つことはできない。だから打って出るという戦略は間違ってはいないだろう。しかし問題がある。

「損保買収は穂坂(雅之・副会長執行役員)氏の案件、携帯電話事業は山田(善久・副社長執行役員)氏の案件といった具合に、一部の経営幹部が成長戦略を掲げ、突っ走り始めている」(楽天幹部)

「それぞれ他の幹部が何をやっているかに関心を持たない。三木谷さんのグリップが効かなくなりつつある」(別の幹部)という声もある。

相次ぐ新戦略は乾坤一擲(けんこんいってき)なのか暴走なのか。判断を下すには、しばらく様子を見る必要がある。

(文・悠木亮平)


悠木亮平(ゆうき・りょうへい):ジャーナリスト。新聞社や出版社で政官財の広範囲にまたがって長く経済分野を取材している。

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