再生可能エネルギーを日本の「主力電源」へ。政府は2050年に向けたエネルギー長期戦略で新たな方針を打ち出し、*パリ協定が目指す脱炭素社会の実現に政府として取り組む。
一方、日本に先んじて世界では再生可能エネルギーの普及が目覚ましい勢いで進んでいる。再生可能エネルギーの方が経済的合理性が高いという理由で。なぜ日本は再生可能エネルギーで出遅れたのか。
パリ協定:2015年12月、パリで開かれた第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された、温室効果ガス抑制に関する多国間の協定。
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「再生可能エネルギーは豊富で安く、CO2も出さない」「再生可能エネルギーの方が火力発電よりも安く、企業にとっても経済合理的な選択だ」
2017年11月、ドイツのボンで開催されたCOP23のイベントで、欧米の政策担当者や企業が相次いで上記の発言をしていた。それは日本でよく聞かれる「再生可能エネルギーは不安定で、価格も高く、エネルギー源としては頼りにならない」という論調とは全く違う内容だった。
再生可能エネルギー(以下、再エネ)は世界でどれだけ普及しているのか。
経済産業省資源エネルギー庁の資料によれば、2016年には水力を含む再エネは、工業国ドイツで30.6%、日本と同じ島国のイギリスでも25.9%もの発電電力量比率を占めている。一方日本は、15.3%にとどまり、水力を除いた再エネは7.2%しかない。現状日本は再エネの導入で世界の後進国となっているのだ。
出典:「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題と次世代電力ネットワークの在り方」、経済産業省、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会資料第1回資料.
では、コスト面はどうか。
再エネの導入が進んだ先進国では、火力発電と比較して再エネが競争力を持ちつつある。下記表は各国における電源別の発電コストを比較しており、火力発電によるコストは灰色、陸上風力や太陽光は青色とオレンジで示されている。この表を見ると、中央のドイツでは、火力発電が約7~10セント/kwhとなっているのに対し、陸上風力や太陽光によるコストは、火力と同じかやや下回る水準となっている。
世界の主要国における発電コスト*の比較 (2017上期)
出典:Bloomberg New Energy Finance (2017)*均等化発電原価(Levelized Cost of Electricity)
このように再エネのコストは下がりつつあり、今後はさらに安価になると見られている。International Renewable Energy Agency (IRENA)によれば、太陽光・風力などは導入量が増加するに従ってコストが低減する学習曲線が見られ、現在見通しが出ている2020年までのコストも、そのトレンドが継続することを示唆している。
世界の集光型太陽熱発電、太陽光発電、陸上風力、洋上風力の発電コスト*の学習曲線
出典:IRENA(2018),『Renewable power generation costs in 2017』注:Y軸はコスト、X軸は累積導入量。CSP=集光型太陽熱発電、PV=太陽光発電、Onshore wind=陸上風力、Offshore wind=洋上風力。*加重平均均等化発電原価 Weighted average levelized Cost of Electricity
阻まれた電力自由化
では、なぜ日本はここまで再エネの導入で遅れてしまったのだろうか。それは、戦後日本の電力システムを支えた地域独占供給体制から、電力自由化と再エネを基幹電源としたネットワークの構築への政策転換が、ヨーロッパに比較して約10年遅れているからだ。
電力自由化と再エネの導入の経緯を理解するために、歴史を振り返ってみたい。そもそも日本の電力産業の勃興は、明治初期に遡る。当時は富国強兵と産業育成に伴い、電力会社が多数設立され、小規模乱立状態となっていた。その後第二次大戦開戦に伴い、政府は電力国家管理政策をとり、全国の発電・送電を一手に担う日本発送電を設立。配電に関しても全国を9つのブロックに分けそれぞれを掌握する配電会社を設立し、電力統制国家管理体制を構築した。
敗戦後は電力再編成が政策テーマとなり、日本発送電を解体し、9つの地域独占電力会社が発電から送配電までを一貫管理する9電力体制をとった。電力会社は戦後の経済成長を支えるため大規模発電所の建設を進め、水力、火力、原子力などの施設を全国に配備した。費用に関しては、電力会社は総括原価方式により、建設などの費用を全て電力価格に計上し、その投資を回収した。こうした日本の電力システムは電力の安定供給を可能にし、全国に配備された送電網とともに日本の経済成長を支えた。
しかし、その後世界的に電力自由化の流れが進み、欧米ではイギリスが先陣を切って1990年に国営電力会社を分割・民営化し、独占市場を開放した。一方日本でも、自由化の議論は起こるものの、既存電力会社の反対が強く、1990年代に進められた自由化は部分的な制度変更にとどまった。
大量導入でコストが下がった再エネ
電力自由化と並行して欧米のエネルギー政策に大きな影響を与えてきたのが、気候変動問題である。火力発電によるCO2の排出増加が問題となり、2000年頃からゼロエミッション電源として原発と再エネが注目された。再エネは初期投資がかかるものの、発電のための燃料費用が発生しないため、大量導入を進めることでコストを下げつつ、長期的にコスト回収が期待できる電源とされた。
エネルギー安全保障の面からも、輸入に頼らないエネルギー源の比率を高めることは望ましい。
こうした背景から再エネの導入を政策的に進めたのがEU諸国である。とりわけドイツは2000年に「再生可能エネルギー法」によって、再エネを20年の間同一価格で買い取ることを保証する「固定価格買い取り制度(FIT: Feed in Tariff)」を導入した。日本でも東日本大震災後の2012年に、ドイツの制度を参考にして、再生可能エネルギー全量買い取り制度(FIT)が始まった。
日本も電力自由化と再エネの導入を進めているものの、実際日本の取り組みは世界のトップランナーに比較して約10年は遅れている。EUの政策からの学びとして、再エネ導入には次の3点の政策転換が必要となる。
- FITのような新しい発電源の導入を促進する制度
- 独占市場から電力自由化への移行
- 政府の野心的な導入目標
とりわけドイツやイギリスはこうした取り組みを2000年前後から進めており、日本は2010年前後に取り組み始めたというスピードの差が、冒頭の再エネの発電比率の差の背景である。下記はドイツ、イギリス、日本の政策導入時期の比較だが、こうした政策転換が日本より早く進んでいることが見て取れる。
ドイツ、イギリス、日本の再生可能エネルギー関連政策の比較。注1:再生可能エネルギー義務制度(Renewable Obligation)。一定の再エネ比率を小売事業者に義務付ける制度。 注2:差額決済型固定価格買い取り制度。再エネを含む低炭素発電電力への投資を促進する制度。
出所:トマ・ヴェラン、エマニュエル・グラン(2014)『ヨーロッパの電力・ガス市場』日本評論社、植田和弘・山家公雄編(2017)『再生可能エネルギー政策の国際比較』京都大学出版会、高橋洋(2017)、『エネルギー政策論』、岩波書店等より筆者作成
電力系統の中立的な運用
では、10年後には日本は現在のドイツのように、あるいはそれ以上に再エネを導入できるのだろうか。鍵を握るのは、電力自由化の成否と導入目標の設定の2点だ。
なぜ電力自由化が再エネの導入に際して重要なのだろうか。
それは、電力系統の中立的な運用が求められるからだ。これまで電力会社は大規模発電所を建設し、そこから東京などの大需要地に電力を供給する送配電網を構築してきた。再エネも発電した電力を供給するためには既存の送電網を利用することになるが、送電網を運用するのが既存の電力会社である場合、新規参入者である再エネの事業者に対して不公平な運用や料金設定をする懸念が示されてきた。
実際に2014年には、FITの認定を受けた太陽光事業者が九州電力に系統への接続を申し込んだところ、回答を留保されるといういわゆる「九電ショック」が起こった。2017年には東北電力の系統接続申し込みに対して、再エネ事業者が「空き容量ゼロ」と回答されるケースが発生した。こうした問題は運用制度面で解決できる部分も多く、経済産業省は諸外国の制度を参考に既存系統を最大限活用するルールの検討を進めている。
こうした背景から、電力の発電部門と送電部門を分ける発送電分離が要請され、EUでは「EU電力自由化指令」の元ドイツでは1998年から実施され、日本でも2020年には導入される。系統ネットワークの中立的な運用には独立した監視機関が必要とされ、ドイツでは2005年、日本では2015年に設置された。再エネの導入は、独占市場から自由化への移行が必要となるため、欧米主要国は電力自由化と共に進めてきており、日本はこの電力システム改革の過渡期にあるのだ。
初めて再エネが主力電源に
2点目の再エネの導入目標の設定は、市場に対して大きな影響力がある。日本では2014年に制定されたエネルギー基本計画に基づくエネルギーミックスで、再エネの目標を2030年に22%ー24%と設定している。これはドイツやイギリスの現在の水準と同レベル。再エネ先進国は2030年に40%から50%の目標を掲げているため、仮に日本が目標通り進んだとしても2030年にはより一層の差が付いている可能性すらある。こうした低い水準の導入目標では将来の市場拡大の展望が描けず、推進する事業者の投資拡大とさらなるコスト低下に踏み込む姿勢の歯止めとなりかねない。
2030年における再生可能エネルギー比率(総電力比率)
出所:経済産業省資料等より筆者作成
経済産業省の審議会は2018年春をめどにエネルギー基本計画の議論を取りまとめ、今夏には政府決定を目指す。資源エネルギー庁はその議論のために提示した資料の中で、再エネを今回初めて「主力電源」と位置付け、エネルギー基本計画でもそれを明記する方向とされる。しかし、掲げた側を実現させるための具体的な施策の詰めはこれからだ。
そのために、経済産業省総合資源エネルギー調査会の下に「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」を設置し、政策の具体化に向けた検討を進めている。今後は国内外へ再エネ「主力電源」への強いメッセージを発信するためには、野心的な導入目標数値を示せるかが焦点となる。
2050年の将来を見据えて、世界ではエネルギーの大転換が進んでいる。 日本が再エネで世界水準に追いつけるかは、この数年が正念場だ。
梶原大試(かじはら・ひろし):地球環境戦略研究機関(IGES)研究員。 早稲田大学政治経済学部卒。P&G、Marsを経て現職。 テーマは気候変動とビジネス、再生可能エネルギー。