起業家輩出し続ける早稲田大学高等学院の“あえて”放置する教育とは?

早稲田大学直属の附属校として最初に設立された早稲田大学高等学院、通称「学院」。

ソニー創業者の井深大氏、同じくソニー元会長の出井伸之氏、カドカワ会長の角川歴彦氏、NPO法人TABLE FOR TWO International代表の小暮真久氏、リブセンス社長の村上太一氏など、数多くの起業家・経営者を輩出してきた。

歴代OBに話を聞けば、全員が口をそろえて「自由」で「自治」のある校風だと言い、学院の卒業生で、株式会社サイバーセキュリティクラウド社長の大野暉氏は「あの自由な校風は絶対に起業に向いているはず」だと語る。

そうした校風はどこから来ているのか、またなぜ起業家を輩出し続けられるのか。本杉秀穂学院長に話を聞いた。

大隈重信

東京都練馬区にある中高一貫の私立男子校、早稲田大学高等学院。政治家や起業家を数多く輩出してきた。

「答え」のない授業

まず大きな特徴の一つが、教師だ。

学院には86人の専任教員、約90人の非常勤講師(2017年度)がいるが、早稲田大学との兼任で、博士課程を修了している研究者も多い。

教員自身が研究テーマを持っているからこそ、ただ教科書を教えるのではなく、今研究しているテーマは何が問題でなぜこうなっているのかなど、『答え』がない題材を扱っている」(本杉学院長)

そうした教師たちの姿勢を見ているからこそ、生徒も積極的に探究し、疑問があれば教師に突っかかっていく。

本杉秀穂

民間企業や他校での教員経験を経て、学院の教員に就任。本杉学院長も学院の出身だ。

本杉学院長が環境問題の授業で京都議定書の内容を解説した際、授業終了後に生徒が廊下に出てきて、「先生、解説だけの授業だったら何の意味があるんですか?」と聞いてきたという。

解説は本や新聞を読めば自分たちで理解できる。これにどういう意味があって、日本や自分たちがどうすべきなのか、それが一番大事。そういう授業に変えてほしい

その後、「環境問題は大人だけではなく、高校生の問題でもある。だから自分たちの意見を発信したい」と、生徒たちが高校生環境フォーラムを主催。全国の高校に招待状を出して、参加者を集めた。

生徒によって生まれた動きは、今では「プロジェクト活動」という形で学院の課外活動の重要な部分になっている。「模擬裁判プロジェクト」や「教育プロジェクト」など生徒たちは興味のあるテーマごとに集まり、1年間活動する。

2年かけて卒業論文を作成

「答え」のない授業という意味では、2年生から取り組む論文作成もそうだ。

2年ではまず自分で課題を見つけ解決策や主張の仮説を立て、エビデンス(証拠)を集めて論証する。それらを1200字程度の小論文にまとめ、みんなで批評し合う。

3年次は、教師1人につき10人の生徒でゼミを作り、1万2000字程度の論文にまとめていく。必要であれば、大学の教員にアドバイスを求めることもできる。最終的には翌年度に卒論に取り組む2年生の前で卒業論文を発表するなど、大学のような環境で学ぶ。

また、学院では1年生から第二外国語が必修科目として存在し、海外の姉妹校への短期留学も積極的に行われることから、生徒が新しい考えに触れ、授業の議論も活発化する。

学校の校則は半ズボンと下駄の禁止だけ

そして、もう一つの特徴が「自治」だ。生徒が自分たちで考え、やりたいことを突きつめる。教師から見たら「寛容」になるが、こうした姿勢は至るところで見られる。

  • 学校の校則は半ズボンと下駄の禁止、という以外に何もない。
  • 専門コーチがいる部活もあるが、基本的には自分たちで練習を考え、戦略も練る。
  • 部活の予算は生徒会が配分する。
  • 学園祭では生徒が企画書を作成して、予算を確保する。学園祭に女子高生を呼ぶために女性誌に広告を載せるなど、生徒が中心となり積極的に企業とも連携。教師は安全面など、最低限しか関与しない。

70号館

学院の校舎だが、早稲田大学の建物と続き番号になっている。

生徒からすると、放置されているという感覚があると思う。でも、だからこそ自分たちでやる。(学院には)そういう伝統があるんだ、という認識がある。自分たちで何とかしなさいよ、という雰囲気があるんです」(本杉学院長)

一方で、生徒に任せているからこそ、学年によってはおとなしい年もあるという。普通ならそこで介入したくなるが、生徒を信頼し、“あえて”放置する。

我々教員は生徒が切磋琢磨して自立していく力があると信じて、自由を保障する

ただし、進級に関しては厳しく、毎年ある程度の人数が留年するという。

自己推薦でエッジのきいた学生が集まる

自由な学院には集まってくる生徒たちは「かなり個性的」(本杉学院長)だという。

その理由の一つが入試の仕組みだ。学院の入試は大きく2つ、一般入試と自己推薦入試がある。

一般入試では英語、国語、数学に加え、小論文がある。 小論文で、ただ学校で覚えた知識を再生するだけの人ではなく、自分の頭で考えそれを他人に伝えられる人を選抜しようとしている。

総合学習

生徒の服装も自由で、たまに違う学校の制服を着ている生徒もいる。

提供:早稲田大学高等学院

さらに特徴的なのが20年前(1998年)に導入した自己推薦入試だ。1学年480人中100人もこの形式で選抜する。

中学校3年時2学期の成績が9教科合計(5段階評価)で40以上が出願資格となるこの試験は、学院に入って何がしたいのか、中学校3年間でどんなことをやってきたのかを志願者がペーパーにまとめた上で、教師と約30分間の面接に臨む。

「自己推薦で入ってきた生徒は、入学してすぐに生徒会の役員になろうとしたり、何かしようとする。一般入試で入った生徒はそれを見て刺激を受ける。『自分はどこで頑張ればいいんだ?』と。そうしてお互いに刺激し合い、切磋琢磨する。(こうした意欲の高い生徒が)ごく一部ではないからこそ意味がある」

寛容な環境とアカデミックなサポート

本杉学院長は、2016年9月に学院長に就任。旧制高校の伝統を大事にしながら、より生徒に「リアル」な体験をしてもらおうと、新しい取り組みを進めている。

2017年度から、学院の卒業生である佐藤オオキ氏のデザインオフィス「nendo」にインターンする「nendo留学」を実施。佐藤氏らの面接を経て“留学”した生徒たちは実際にものづくりの現場に入って学ぶ。

起業家を輩出しているとはいえ、特別に起業に向けたプログラムがあるわけではない。しかし、自分で問題を発見し、行動を起こす姿勢はまさに起業家に必要な要素だ。

学院が目指す人材像について、本杉学院長はこう語る。

「失敗を恐れずに、自分から問題を見つけてチャレンジする。ダメだったらまた考えて勉強してもう一度チャレンジする。そのためには、身体をただぶつけるだけではなく、知的な、アカデミックな裏付けを持ってチャレンジする。そういう姿勢を持った人になってほしい。学院では寛容な環境とアカデミックなサポートによってその挑戦を応援します」

(文、写真・室橋祐貴)

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