「煮込みハンバーグ出勤停止」辞令!「おかず3品」呪縛は世代でこんなに違う

ある日の夕食

夫婦で、早く帰った方が作るルールの食卓。

提供:取材協力者

共働きの妻に3品以上のおかずを求める夫のエピソードをきっかけに、共働き家庭のおかず問題を取り上げたBusiness Insider Japanの記事には、Yahoo!ニュース上で4100以上のコメントがつくなど、大きな反響があった。多くは何もしない夫への不満、ワンオペ家事をしていることへの怒りだった。

Business Insider Japanでは、「共働きの家事分担アンケート」も実施。結果は、妻と夫の家事分担は、妻が6割から全てを引き受けるという家庭が8割弱を占め、「共働きでも家事は主に妻」という実態が浮き彫りになった。

だが、どうも筆者が取材している実態とは違う。アンケートの回答者の属性を見ると、40代が6割以上。実際取材したのはミレニアル世代の共働きカップル。20代30代共働きでは「夫もかなり家事をする」という意見も続出している。共働きの家事分担には、アラフォー境界線がありそうだ。

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「煮込みハンバーグ部に辞令」

都内在住でメーカー勤務の玲奈さん(30、仮名)が朝起きると、キッチンにこんな貼り紙があった。

「3月27日付けで以下のとおりとする。
《組織改称》鍋事業本部煮込みハンバーグ部→鍋事業本部ハヤシライス部
冷蔵庫事業本部 野菜室 玉ねぎ→鍋事業本部 ハヤシライス部
冷蔵庫事業本部 野菜室 しめじ→鍋事業本部 ハヤシライス部‥‥(続く)

《懲戒》
以下のもの連続出勤の違反により以下のとおりとする。また2日間の出勤停止とする。
鍋事業本部煮込みハンバーグ部 ハンバーグ→冷蔵庫事業本部 冷凍室

玲奈さんは、IT企業勤務の夫(35)と共働き家庭。保育園に通う3歳の娘がいる。週末に夫と大量に作り置きしたハンバーグが、週明けから夕食メニューに続いたことについて、「そろそろ別のメニューにしようか」という夫側からの提案だった。

「家にはプリンターがないので、(自分と子どもが)寝ている間に作成して、コンビニでプリントアウトしてきたのかと思うとおかしくて」、玲奈さんは、朝から笑い出してしまった。

玲奈さん夫婦の家事分担は、ほぼ半々。料理は週末に作りだめするのに加え、帰ったらすぐに温めて食べられるよう、前日の夜に翌日分を準備しておく。玲奈さんの帰宅は保育園経由で午後6時半、夫は午後9時半と時差がある。前日の準備は夫、当日の温めは玲奈さんがすることが多いが、基本は全て「できる方ができる時に」。

おかず辞令

玲奈さんのキッチンに貼られた「辞令」の実物。夫はコンビニまで走ってプリントアウトした模様。

提供:取材協力者

煮込みハンバーグの「連続出勤」は、玲奈さんの夕飯担当の日が続いた週のこと。

「他のおかずの日をはさむつもりが、子どもの相手で手が回らず作りそびれて」、ストックのハンバーグに頼る日が連続した。この事態を受けて「辞令」が出た。

「そろそろ別のものを食べたい」というメッセージは、一つ間違えば、作り手を責めることになりかねない。しかし、普段から料理する夫に、作り手の立場を慮ったユーモアで伝えられるのなら、イラっとしない。

料理していない人には、冷蔵庫にある食材を組み合わせる『異動』は考えられませんよね」と玲奈さんはいう。

これが、妻だけが家事をやる家庭で、食べる専門の夫からの「辞令」であれば、話は全く変わってしまう。

先に帰った人が作る

「平日は、先に帰ってきた人がご飯を作っています。特にルールはありませんが、自然と今の形になりました

そう話すIT企業勤務の葵さん(32、仮名)夫婦も、家事の分担は当たり前だ。平日はだいたい午後7時半から8時半に作り始める。葵さんが仕事で遅くなったり休日に出かけたりした日は、帰宅すると夫(45、IT企業勤務)の手作りご飯がある。

「作ってもらった側が、食べ終わった後に片付けと洗い物をしています。休日は2人で作ることも多いです」

現在、結婚2年目。周囲には、夫が料理を積極的に作る家庭はそれほど多くないので、「自分は恵まれている方だなとは思います」。

朝ごはん。

葵さん夫妻の食卓。作るのは夫と妻で半々。花もあしらって、生活に心のゆとりを持ちたい。

提供:取材協力者

こうしたミレニアル夫婦を追うと、日本も家事分担が進んでいると感じるが、一方で回答者の6割以上が40代以上となったアンケートでは、依然として妻の負担が重いのも事実だ。

夫婦の家事分担は「夫2割、妻8割」が最も多くて4割程度、「夫4割、妻6割」が約2割と、夫も家事参加はするものの、妻の比重の大きい家庭が大半だ。妻が100%家事をやり、夫は全くしないという夫婦も2割弱いた。

家事分担比率のアンケート

あなたの家庭では、日常的に夫婦(もしくは同居者。以下同)どれくらいの割合で家事を分担していますか?

その一方で、理想の家事分担比率は「50:50」と答える人は半数強、「40:60」は3割という結果に。実際は「もっと平等に家事分担をしたい」と考える人が大半だ。

ちなみにつらいと感じる家事のトップ3は、複数回答で1位料理、2位掃除、3位買い物。料理の負担はやはり大きいようだ。

ヤフコメに殺到する悲鳴

その叫びは、Yahoo!上でも公開されたおかず問題の記事へのコメントに、はっきりと表れている。

もっとも共感を集めたコメントがこれ。

仕事やつわりがしんどくて惣菜・弁当が2-3日続いたとき、夫から「明日からはまともなご飯作れよな」と言われたこと、一生忘れない。(一部抜粋)

こういう夫の言動は、生涯、妻から忘れられることはない。

子供が1歳になって職場復帰したとき、夫に休みの日くらいちゃんとごはん作れと言われたことが、20年たった今でも、思い出すたびに悲しい気持ちになります。

「許す」とは、何様なのか。

主婦が働きたいというと、夫が「家事育児を手抜きしないなら許す」みたいなこと言うって話をよく聞いた。それで主婦が怒るどころか、仕方がないみたいな反応の人が多くて信じられなかった。主婦って奴隷か何かなの?って思った。

手作りで品数豊富な食卓がベストという、“常識”を疑う指摘も。

フランスの家庭の平日の夕食は、大きめにカットしたニンジン、玉ねぎ、ジャガイモ、お肉をさっと煮込んだスープと、パンだけってのが普通だったりする。後はチーズとか果物、デザートで完了。でも、栄養のバランスはとれてるよね。日本は、一汁三菜とか、毎食ごちそうすぎるかも。

そもそも家事全般がこの有様だ。

うちは○○してちょうだいってお願いすると、必ず「何で?」って質問される。ゴミ出し一つとっても、「ついでにお願い」はNGらしい。いちいち明確な理由が必要で面倒くさい。結局自分でやった方が早いからやるけど、腹は立つ。

世代間のジェネレーションギャップはかなりありそうだ。それは女性側にも大きく影響している。

専業主婦の母と姑の呪縛がすごい。せっかく意識改革しても、お盆と正月ですべて帳消しになる。男勢がどっかり居間に根を張って、女勢が台所に立ちせっせと食べ物を供給ふる(原文ママ)という構図を一人で逆らい覆すのは、難しい。

本当に時間を削るような自炊至上主義と弁当文化は心身を疲弊させるので、どうにかしてほしい。

「旦那と子どもはどうしてるの?」

日本では1990年代半ばに、専業主婦世帯の数を共働き家庭の世帯が初めて上回った。今では、共働き世帯が主流派となっている。

年功序列と引き換えに終身雇用が保障される夫は、盲目的に働き続ける。それを家で妻が支えるスタイルは、終身雇用神話が崩壊した現代には、得策とは言い難い。共働きでリスク分散をする方が安心だ。

共働き世帯と専業主婦世帯

共働き世帯と専業主婦世帯の数の推移。1990年代半ばには、共働き世帯が多数派となった。

出典:男女共同参画白書

この変化が起きた20年で、夫婦の家事分担をめぐる意識も、過渡期にあるのかもしれない。

確かにひと昔前は、夫がガッツリ働いて稼ぎ、妻がガッツリ家にいて家庭環境を支える方が得だったのでしょう。 でも今は、全てを半分ずつ負担した方が得だと思います。夫も妻もほどほどに働き、共に家事育児介護をする。 しかし、今の働き盛りの世代は、ひと昔前の考えの世代に養育されたので、なかなか考えを変えられないのかも知れません。

でも段々と価値観が変わって来ているとは思います。 あとひと世代くらい入れ替わると、こう言った手作り呪縛も薄まってくるのではないですかね。(Yahoo コメントより)

過渡期だからこそ、年代に寄る意識の差が出やすいのかもしれない。

Business Insider Japanの取材でも「会社の飲み会に出ると、旦那さんと子ども、今日はどうしているの?と聞いてくるのは40代以上の男性。家族のいる男性社員には聞かないのに」(29歳会社員女性)という声は、ミレニアル世代から漏れ聞こえてくる。

夫婦で話し合いした?

苦痛や負担を感じながらも「仕方がない」と、これまでの慣習に従っている面が女性側にもあるのは、否めない。

前出の家事分担アンケートでは「今の家事分担をどうやって決めたか」という問いには6割強の人が「結婚以来、特に話し合いもなく、ただなんとなく今の分担になっている」と回答。疑問を持ちつつ、しっかりした話し合いや議論がなされた訳ではなさそうだ。

「社会人を長くやっていると、不満を言って終わらず課題解決する思考回路ができているので、家庭運営にすごく生きているなあと思っています」と、冒頭の玲奈さんは言う。

共働き時代の、家事分担をはじめとする家族運営は、まだまだ交渉の余地がありそうだ。

(文・滝川麻衣子、アンケート担当・高阪のぞみ)


「共働きの家事分担」アンケート:2018年3月にBusiness Insider Japanで実施。回答数は359、回答者は77%が女性、22%が男性。年代はもっとも多かったのが40歳以上で64%、35〜39歳で20%、30〜34%で10%、25〜29歳で3%。既婚で子どものいる人が70%、既婚子どもなしが27%。会社員または公務員、教員が76%と大半を占めた。小数点以下切り捨て。

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