日本企業は「超円高」の再来に備えよ——トランプ政権の外交・通商政策が招く災厄

2018年に入り、トランプ政権は次々と保護主義とみられる政策を採っている。1月にはソーラーパネルへの関税(最大30%)、3月には鉄鋼とアルミに対する関税(それぞれ25%、10%)を課した。そして今回は、中国がアメリカの知的財産権を侵害しているとして通商法301条を適用し、中国からの輸出品に最大600億ドル(約6.4兆円)相当の高関税をかけるという中国狙い撃ち政策を発表した。

これらは、全てトランプ大統領が、選挙運動中に同氏の支持基盤である「ラストベルト」(製造機械がさび付いた中西部から北東部の地帯)に対して公言してきた「貿易赤字の削減」のための手段である。トランプ大統領の考え方は、「貿易赤字がアメリカの雇用を奪い、アメリカ経済に悪い影響を与えている」というものだ。

トランプの経済・外交政策が招く円高メカニズム

トランプ大統領は2月5日にオハイオ州で税制度について会見を行った

中間選挙を見据えて矢継ぎ早に保護主義政策を打ち出すトランプ大統領。

REUTERS/Jonathan Ernst

しかし実際には、アメリカ経済は、好景気となれば消費を押し上げ、輸入が増える。そして、当然だが雇用も増える。また、アメリカ企業はかなり以前から生産や調達をグローバル化しており、輸入部品により国際競争力を保っているのが実態である。

よって、前述のような輸入品に高関税をかけることは、自国の経済に好影響をもたらすものではない。実際、これらの政策が発表されるたびに、アメリカの株価は下落している。すなわち、関税は景気にマイナスと市場は見ているわけだ。よって、景気減速→アメリカの金利低下と予測されることから、ドルと円との金利差が縮まり、円買いが進むため「円高」となる。

さらに、昨今のトランプ政権の外交・安全保障関係の人事の変更にも注目したい。

この3月には大きな変化が起きた。国務長官が、バランスを重視したティラーソン氏から強硬派のポンペオ氏に交代、安全保障の大統領補佐官をマクマスター氏から強硬派のボルトン氏に代えるなど、いずれも「強硬派」へと大きく舵(かじ)を切っている。ポンペオ、ボルトンの両氏とも、北朝鮮、中国、イランに対して、軍事力を生かした外交を唱えている。地政学リスクが高まると「リスクに強い円」ということから円買いが進み、こちらでも円高となる。

こうした経済、外交から「円が買われる」という傾向は、トランプ大統領がこのポジションにいる限り続くと考えても良いだろう。そして、2018年11月のアメリカ中間選挙にかけて、この動きは加速する。高関税政策は、この後も矢継ぎ早に打ってくるものと思われる。中国も黙ってはいないだろう。報復関税やアメリカ国債買い控えなどの手段で対抗すると思われる。

日本には二国間の貿易協定締結で圧力

チリで行われたTPPの署名式の様子

チリで行われたTPPの署名式。議論を途中までリードしてきたアメリカの姿はない。

REUTERS/Ivan Alvarado

日本に対しては、二国間の自由貿易協定の締結を強く迫ってくるだろう。これは、トランプ大統領が決めたTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱により、他のTPP参加国に対してアメリカが対日貿易で不利になることを避けたいからだ。いずれにせよ中間選挙に向けて、トランプ大統領が保護主義政策を採り続けるのは間違いないだろう。

今後の日程を見てみよう。5月に北朝鮮との首脳会談が予定されている。さらに同月、イランの核合意について、延長か破棄かの判断がトランプ大統領に迫られる。今回、新任として指名された2人の強硬派側近とも、北朝鮮に関しては軍事面での対応を含めたアドバイスを大統領に行うとみられている。

さらに、トランプ政権発足直後に起きた台湾問題が再発しそうな気配がある。アメリカは3月16日に台湾とアメリカの政府関係者の交流促進を行う「台湾旅行法」を成立させている。それに対し、中国は強い不満を示し、台湾海峡に空母「遼寧」を派遣している。

一方、アメリカ国内に目を転じると、ロシア疑惑が大きな転換を迎えようとしている。先日、トランプ大統領の筆頭弁護士が辞任した。トランプ大統領の周辺が次々と聴取を受けていることから、いよいよ、本人への直接聴取も近いとみられている。この話題が国内で大きくなればなるほど、トランプ大統領は、対外的に強硬に出る傾向がある。

手段選ばぬアメリカ中間選挙対策が世界を混乱に

1ドル104円の為替を示す電光掲示板

REUTERS/Toru Hanai

11月の中間選挙に向けて、トランプ大統領はあらゆる選挙対策を打ってくると思われる。トランプ大統領の信念は「戦いには絶対に勝つ」ということだ。そのためには手段は選ばない。その目標に向けて、トランプ大統領の信念が、世界を巻き込み、混乱と不安定が連続するだろう。そうなれば、前述の保護主義と相まって、日本にとって為替が「超円高」の時代へと突入することが想定される。

2008年のリーマンショック以降(2012年まで)、日本の製造業を長年悩ませた「超円高」の再来は、日本企業の実力を試すことになる。その時に備え、各企業とも真の競争力とマネジメントのリスク対応能力を高めておく必要があるだろう。

(文・土井正己)


土井正己(どい・まさみ): 国際コンサルティング会社「クレアブ」(日本)代表取締役社長/山形大学特任教授。大阪外国語大学(現:大阪大学外国語学部)卒業。2013年までトヨタ自動車で、主に広報、海外宣伝、海外事業体でのトップマネジメントなど経験。グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

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