異例ずくめの開催だったアップルの新iPad発表、これは「スマートデバイス産業」の節目だ

ティム・クックCEO

アップル発表会の壇上に立つティム・クックCEO。

それは過去にない、異例ずくめの発表会だった。

3月27日、アップルはシカゴの高校でイベントを開催した。

通常、アップルのイベントと言えば、サンフランシスコ市内やシリコンバレー、クパチーノにある本社内ホールといった西海岸で実施するのが定番だ。しかし、今回は中西部にあるイリノイ州シカゴ。場所もホールなどではなく、高校の講堂に大型プロジェクターを持ち込んでのイベントだった。

会場となった高校

会場となった高校。講堂を借り切って発表会が行われた。

本物の学校での開催ということもあり、イベントの内容が開催前から「教育関係ではないか」という噂(うわさ)が流れた。実際、招待状には「Let’s take a field trip(社会科見学に行きましょう)」といったコピーが書かれ、さらに「生徒と先生に向けた新しい創造的なアイデアを聞きに来てください」とあった。

極め付きは、メディア向けにあらかじめ、会場のWi-FiのSSIDとパスワードが通知されてきたのだが、そのパスワードが「education」だったこともあり、「こりゃ、百発百中、教育関係だな」と確信に変わったのだった。

今回の発表がシカゴだったことにも理由がある。

実は2017年12月、シカゴの公立学校と私立大学がアップルとパートナーシップを結んでいる。50万人規模の生徒が、アップルのプログラミング言語「Swift」によるアプリ開発の授業を受けることに決まったという。

このプログラムが2018年春から始まる計画であるため、教育関連の話をするには最適な場所だと白羽の矢が立ったようだ。

分岐点を迎える「スマートデバイスの製品発表」の姿

異例なことはイベント当日も続く。

午前10時からのイベントスタートであったが、8時1分になると参加者に「時間割」がメールで届いた。9時に「オリエンテーション」、10時は「朝礼(General Assembly)」、11時に「クリエイティブラボ(Creative Lab)」があり、12時からは「クラスルーム(Classrooms)」といった具合だ。まさに高校生活を思わせる時間割だった。

発表会の時間割

アップルから届いた「時間割」。発表演目のスケジュールが事前に届くというのも、アップルのイベントとしては極めて異例。

「朝礼」では、ペン入力に対応したiPadの紹介、アップルの教育現場における取り組みなどが語られた。

本来のイベントであれば、新製品が発表されたあとは、世界中からやってきた記者たちが新製品を自由に触り、撮影できる「タッチアンドトライ」という時間がある。しかし、今回の発表会ではそんな時間は設けられていなかった。

代わりにあったのが次の“授業”の「クリエイティブラボ」。そこには、アップルのスタッフが新製品のiPadを持ち、朝礼で紹介されたARアプリやプログラミングを記者たちが体験できる場があったのだ。


ドローンを飛ばすデモ。

コードを書いてドローンを飛ばすデモ。タイトルには「Parrot Education Sample」とあり、コマンドでドローンの離陸をコントロールするというのが「課題」。


スフェロのIoTトイをコマンドで操作

こちらはボール型ロボット「スフェロ」のIoTトイをコマンドで操作する課題。


カエルの解剖

iPadの画面上で進むカエルの解剖。非常にリアル。

筆者も、Apple Pencilを使ってカエルの解剖をしてみたり、プログラミングをしてドローンを飛ばすといったデモを楽しんだ。

その後、「クラスルーム」の時間では教室で、アップルが提供する動画作成アプリ「Clips」を使って俳句ビデオを作ったり、プログラミングを学べるSwift playgroundsを使って、ロボットにダンスをさせるプログラミングを体験した。まさに、記者にiPadを使っての学びの場が提供されたのだった。

今回のアップルのイベントを見ていると、まさに新製品発表イベントの分岐点を迎えたように思う。

アップルが「教育」に狙いを定めるのは合理的だ

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実際のところ、発表されたiPadは、コストパフォーマンスは高く、かなりお買い得なモデルに仕上がっている。一方で、見た目は従来モデルと変わらず、目新しさに欠けるというのが正直な感想だ。

ペン入力などの新機能があり、スペックが一部向上しているが、飛び抜けて目立つような進化ではない。タブレットはすでに進化速度が鈍化していることを考えると、アップルが新製品を披露したというだけで、発表会イベントを盛り上げるのは相当、難しいはずだ。

アップルとしても、単に「iPadの進化版が出ましたよ」「こんなに性能が上がっていますよ」というのではメディアを呼ぶのは難しいと考え、教育市場の取り組みを熱心に語ることにしたのだろう。

とはいえ、単に「新製品にネタが不足しているから教育ネタを追加した」というわけではない。

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その教育市場への取り組みに関しても、アップルとしては40年の歴史があるだけに実にしっかりとしたものだった。生徒が使っているiPadを教師が遠隔でコントロールできたり、生徒の学習アプリの進捗状況を確認できたり、また生徒の想像力を育むツールを提供するなど、多岐にわたっていた。

多くのスマホユーザーが「スマホだけで充分」といまの状況に満足しており、タブレットまで手を伸ばさないとよく言われる。アップルが新しいiPadユーザー層を開拓するには、教育市場を盛り上げ、最初に触れる“コンピューター”として子どもにiPadを使わせた後、実際に使えるプログラムを書くためにMacBookデビューさせ、さらにiPhoneといったように、アップル製品を横展開で購入させたいという狙いがあるはずだ。

もはや、スマホやタブレットのハードウェア的な進化は限界を迎えている。メーカーとしては、いかに「うちの製品を使うと便利で楽しいか」という使い方を提案するメディア向け発表会がこれから求められていきそうだ。

(文、写真・石川温)

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