IBM iXのオフィス
IBM
2017年3月、調査会社のガートナー(Gartner)は、世界のデジタルマーケティングエージェンシーのトップとして「IBMインタラクティブ・エクスペリエンス(IBM iX)」を選んだ。スピード感、コラボレーション、クリエイティビティ、そしてデータと分析における専門知識を高く評価した。
IBM iXは現在、世界最大のデジタルマーケティングエージェンシーへと成長した。スタッフ数は1万人以上。世界中で事業を展開している。
IBMの取り組みが広告業界に波紋を呼んだのは2016年のこと。一週間の間にEcx.io、リソース/アミラティ(Resource/Ammirati)、アペルト(Aperto)といったデジタルエージェンシー3社を買収した。
IBMロンドンオフィスでのBusiness Insiderとのインタビューの中で、IBM iXのアソシエイト・パートナーであるアリソン・クラーク(Alison Clark)氏は以下のように語った。
「我々は一部の領域においては、従来の広告代理店とある程度、肩を並べて競合している。だが、我々は他のエージェンシーとは違った動きをしている」
IBM iXは、ネスレ(Nestle)、ユニリーバ(Unilever)、アウディ(Audi)、ゼネラルモーターズ(General Motors)などを主要顧客としている。IBM iXは、広告代理店と同じような仕事をするつもりはなく、ITとクリエイティブを組み合わせて展開していく意向だ。
「我々が何かを構築し、解決し、設計する方法には他社とは大きな違いがある。なぜならIBMは動きの激しいビジネスIT領域において実績と知見を持っている。この分野には、多くの場合、広告代理店やクリエイティブ・エージェンシーは参入できない」とクラーク氏は述べた。
また、それは多くのクライアントがIBM iXを選んだ理由でもあると同氏は語った。IBM iXのクライアントの多くは、IBMの他部門を通してクライアントになっている。
コンサルティング会社のデロイト(Deloitte)やアクセンチュア(Accenture)も、同じ動きを見せている。クリエイティブ部門を拡大し、既存クライアントにさらなるサービスを提供している。同時に、インターパブリック・グループ(Interpublic Group)傘下のR/GAのようなエージェンシーは、コンサルティング部門を急速に拡大している。
IBM iXアソシエイト・パートナーのアリソン・クラーク氏
IBM
クラーク氏は、自身の部門がIBMのコンサルティングチームやシステムアーキテクチャチームと日常的に一緒に仕事をすることについて、「ビジネスの進化に伴う当然のこと」と語った。
「テクノロジーはマーケティングに不可欠な要素になった」
この変化はクライアントにとって大きな利益になると同氏は語る。全ての広告表現は、ビジネスの他の領域と関連し、IBM iXなら統括的にマネジメントできる。
「我々は広告代理店と違うやり方をしている。我々は個々のクライアントを追い求めてはいない。我々が仕事をしたいと考え、かつうまく行っていない領域を狙っている。うまく行っていない領域を改善するチャンスを探している」
同氏は、IBM iXがしばしば従来型の広告代理店と競合することを認めた。IBM iXは、基本的にIBMのITサービスを利用しているクライアントと仕事をしている。広告業界によくあるコンペを避けるためだ。
IBMにとって、クリエイティブエージェンシー領域の強化は、自然の流れだった。同社は、2010年にユニカ(Unica)を4億8000万ドルで買収したことで、すでにマーケティングクラウドソフトウェアの主要プロバイダー、かつCRMソフトウェアの主要プロバイダーとなっていた。
さらにIBMは今年の初め、同社のAI「ワトソン(Watson)」を活用した、広告出稿のマッチングと自動化ソリューションを発表した。
IBMにとって唯一欠けていたものはクリエイティブワークだが、それは今やIBM iXが担っている。
これまでのIBMとは違う
「我々は最先端にいる。多くのIBM社員がクライアントに『新しいIBM』を見せようと、ここにやってくる。そしてクライアントを連れてきて、こう言う。『今までとは違います。違ったやり方があります』と。そして、クライアントもIBM iXを見て、実感する。これまでのIBMとは違うと」
また、IBM iXは、従来IBMが採用していたような人材を採用していない。IBM iXは、大手代理店傘下のエージェンシーやデザイン会社からクリエイティブ畑の人材を引き抜いた。クラーク氏自身も、以前は大手代理店WPPグループ傘下のRAPPに在籍しており、その前は有名なクリエイティブエージェンシーで経営の一端を担っていた。
もう1人、広告業界の大物がIBMに入社した。ボブ・ロード(Bob Lord)氏だ。ピュブリシス(Publicis)傘下のレイザーフィッシュ(Razorfish)を経営していた同氏は、IBM初のチーフ・デジタル・オフィサー(CDO:chief digital officer)に就任した。
IBMのチーフ・デジタル・オフィサー、ボブ・ロード氏
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Business Insiderとのインタビューでロード氏は以下のように述べた。
「今、ビジネスを成功させる唯一の方法は、テクノロジーとマーケティングを一緒に考えることだ」
広告代理店のトップとしての経験が、IBMに新しい戦略的な視点をもたらしたと同氏は語る。ロード氏はIBMのCDOとして、CEOのジニー・ロメッティ(Ginni Rometty)氏と協力して、同社をAIに注力した新しい方向へと導いた。
「AIとコグニティブ・コンピューティングを駆使すれば、マーケティング分野では多くのことが実現可能で、消費者に高い価値を提供することができる」
同氏はレイザーフィッシュ時代にすでに「クリエイティブワークと広告ターゲティングの分野で、さまざまなテクノロジーが活用されるようになってきた事実を目の当たりにした」と語った。2013年、同氏はAOLに移り、広告領域を統括する「AOL Platforms」のCEOに就任した。
IBMのようなIT企業はマーケティング領域において大きなチャンスを持っているとロード氏は考えている。
「現段階では、マーケティングはテクノロジーをうまく活用できていない」
[原文:This is how IBM iX is cutting out traditional advertising agencies (IBM)]
(翻訳:Wizr)