「頑張っても成功できないなら省エネで」中国で「仏系青年」大流行 ——由来は日本の「仏男子」

電車の中国人

中国では競争と距離を置き、自分の世界に閉じこもる「仏系青年」が注目されている。

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中国市場に進出している外資企業にとって最も恐ろしい日の一つが「3月15日」だ。世界消費者権利デーのこの日、中国国営中央テレビは毎年、消費者の権利保護をテーマにした特別番組を放送し、企業の「不誠実な行為」を断罪する。これまでアップル、ニコン、無印良品など外国の著名企業がターゲットとなり、商品の交換や経営者の謝罪に追い込まれることすらあった。

2018年はフィンテック、医療美容、シェア自転車などが取り上げられるのではと注目されていたが、ふたを開けてみると、批判されたのはほとんどが無名企業。シェア自転車に至ってはすでに経営破たんし、事業停止している企業だった。

拍子抜けした消費者たちは、次々にSNSに書き込んだ。

「315まで仏系になってしまった」

経済成長鈍化、現代社会の産物

中国では2017年12月、1990年代生まれの“低欲望”な若者を意味する「仏系青年」という言葉がネット上に突如現れ、大流行している。「仏系生活」「仏系動物」「仏系恋愛」へと用途が広がり、穏健化した3月15日のテレビ番組まで「仏系」の列に加えられた。

人民日報は2017年12月13日の記事で、仏系青年を「こだわりもやる気もない。何か聞くと『何でもいい』と答える若者たち」と説明し、現代の速すぎる生活リズムや激しい競争、プレッシャーで疲弊した90後(1990年代生まれ)の、社会に対する一つの対処法でもあると分析した。

仏系青年は具体的にどんな若者を指すのか。大学4年生の尚麗麗さん(22、仮名)は「典型的な仏系青年」として、クラスメートの肖勇さん(22、仮名)を挙げた。尚さんによると、肖さんは大学の授業以外はほぼ寮のベッドに寝転がり、スマホゲームをしているという。尚さんが寮の部屋を訪ねても、体を起こすことなく「あ、来たんだ」とだけあいさつする。

中国の人込み

90後世代からは「社会の競争は激しくなり、成功の機会は減っている」との声も多い。

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肖さんは何に対しても“省エネモード”で、「期末テストのときも、(成績に加算される)平常点がどのくらいあるかを事前に調べて、テストで何点とれば最終成績が(合格ラインの)60点を超えると計算し、最小限の努力で単位を得ようとする」(尚さん)。

肖さんのような「仏系青年」は、数年前には考えられないほど増えているという。

由来は日本語、数年経ってSNSで拡散

中国メディアによると、「仏系青年」の由来は、日本で2014年に登場した「仏男子」という言葉だという。「草食男子を通り越し、草も食べない一人が大好きな男子」という意味で、日本ではそれほど流行しなかったが、中国メディアは同年、日本の女性ファッション誌の特集ページ「イマドキ仏男子を攻略せよ‼」を写真付きで紹介し、「日本に新しい属性の男性が登場した」と報じた。その後3年余りを経て、「中国でも仏系男子が現れた」とSNSでつぶやかれ、流行語になったというわけだ。

「リケジョ(理系女子)」「港区女子」「ガテン系」「狩猟女子」……。日本ではしばしば、メディアや学者、企業が人のライフスタイル、得意分野に着目し、属性として名称を付けるが、中国ではSNSの普及とともに、ネット発で人の“タグ付け”が流行するようになった。日本から入って来る言葉も多く、「草食男子」「婚活族」などは、ネット辞書に掲載されるほど浸透している。

消費市場で最重要ターゲットの90後世代

特に最近、90後世代は、分析対象として人気を集める。仏男子の他に、以前は給料を丸々使い切る「月光族」(月給を使い果たすという意味)という言葉も流行した。

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90後は2017年に全員が成人(中国の成人年齢は18歳)を迎え、消費者としての存在感が急速に高まっている。一人っ子として、かつ上の世代に比べると物質的に恵まれた環境で育ち、テクノロジーもいち早く取り入れてきた彼らは、モバイル決済、配車アプリ、シェア自転車、出前アプリなど、既存の経済システムを打ち砕くようなサービスの普及においても鍵となった世代だ。経済力、消費能力が今後さらに増し、家庭を形成していく90後は、企業にとっても最重要ターゲットであり、彼らを一言で言い表す分かりやすい“タグ付け”があっという間に拡散する。

「頑張っても成功保証されないけど、生きることもできない」

人民日報をはじめ多くの中国メディアが「仏系青年」を取り上げ、社会背景を分析しつつも、「こうした傾向は、社会の成長にはマイナス」「若者は戦闘心を持つべきだ」と批判のニュアンスを加えた。

尚さんはこれに対し、「中国のGDP成長率は7%を切った。二けた成長を続けていた10年前に比べると、チャンスが少なくなっていると皆思っているし、格差の固定化も進んでいる。皆が大学に行き、留学するようになり、就職や出世上の価値も薄れた。がむしゃらに努力しても以前ほど成功のチャンスがないなら、消耗したくないと思うのは当然だし、幸せの形も一つじゃなくなる。やる気がないように見えても、私たちはいろいろ考えている」と話す。

一方で、同級生に「典型的な仏系青年」と呼ばれる肖さんは、「やる気がないわけではない」という。

「大学入試も頑張ったし、就職活動も頑張るつもり。普通の家に生まれた人にとって、頑張っても成功は保証されないけど、頑張らないと生きることもできないから、その時が来たら頑張りますよ」

と淡々と語っている。

(文・浦上早苗)

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