仮想通貨“イーサリアム”を創った24歳「コインチェック流出」を語る —— ヴィタリック・ブテリン直撃

ヴィタリック・ブテリン

3月28日、ヴィタリックが登壇したイベントには約400人が詰めかけた。

くすんだ灰色のTシャツ姿、ペタンコの黒いバッグを肩にかけて、彼はふらりと現れた。

ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)、24歳。ブロックチェーンを使ってスマートコントラクト(契約)を構築できるプラットフォームであり、仮想通貨としての側面も持つ「イーサリアム」を19歳の時に考案。5年後、彼の作ったイーサリアムの価値は時価総額約4兆3700億円(2018年3月29日時点)にまで膨れ上がった。

3月28日、世界中が注目する仮想通貨業界を代表する若き“怪物”がBusiness Insider Japanに語った。

ヴィタリック・ブテリン

ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)、24歳。19歳で仮想通貨「イーサリアム」を考案。インタビューは日本初開催のイーサリアムのコミュニティのミートアップでの基調講演登壇の直前に行った。

日本政府も注目、経産省・外務省・金融庁とも会談

住居:キャセイパシフィック航空、宗教:クリプト、職業:It's complicated(複雑)」—— 彼のプロフィールには、そう書いてある。実際に会った彼も極めて多忙で、小刻みにスマホに目を落としていた。

ひとたび彼と会話をすれば、頭脳の圧倒的な回転の速さはすぐに分かる。あたりを頻繁に見回しながらマシンガンのように繰り出される言葉の羅列に、一瞬でも気を許せば、あっという間に置いていかれる。

昨日(3月27日)は、経済産業省、外務省、金融庁と、3つの政府関係のミーティングがあったんだ

今回の訪日の目的は?と聞くと、ヴィタリックはそう切り出した。 「(河野太郎外相は)数年前クラーケン(仮想通貨取引所)のオフィスを訪れたこともあり、長い間ブロックチェーン技術のサポーター」だと言う。河野外相とはイーサリアムとは何かや、ブロックチェーン技術がどのように社会に影響するかなどについて話したそうだ。

彼を追いかけるのは日本政府だけではない。3月28日に登壇した東京大学での技術者向けのイベントには約400人が詰めかけた。翌日の29日にはイーサリアムのインフラの整備や分散型アプリ(Dapps)の普及を目指す新ファンド「イーサリアム・コミュニティー・ファンド(ECF) 」の発表イベントでもスピーチをした。

「コインチェック流出」は技術的に解決できる?

ヴィタリック・ブテリン

イーサリアム・コミュニティ・ファンド(ECF)での報道陣向けのフォトセッションでなぜかいきなり「ダブルピース」をしたヴィタリック。

撮影:西山里緒

仮想通貨の世界で、いろいろな意味で日本は「特別な国」だ。580億円という巨額流出を起こした「コインチェック流出問題」に何を感じたのか? 単刀直入に投げかけた。ヴィタリックは言う。

「多くの日本人が仮想通貨を怖がっている理由はよく分かるよ。ヘンな新しい技術だし、(東京・渋谷に拠点を置いていた仮想通貨取引所の)マウントゴックスの破産があって、その3年後にはコインチェックがあった

彼は、コインチェックの巨額流出は“(分散化している)ブロックチェーンそのもの”の問題ではないが、“取引所(サービス)そのものが非常に中央集権化している”ために起こった問題ではないか、とも指摘する。

「僕らは分散型のお金をつくったけれど、その5%をフラペチーノ好きの頭のおかしなヤツ(a crazy guy who likes Frappuccinos)が運営している取引所に置いて(盗られて)しまう、ということもあり得る」(“フラペチーノ”の意味は不明。彼のスピーチでも見られた、独特の世界観のジョークかもしれない)

その解決策について、取引所を規制することも当然1つだが……と前置きした上で、多くの問題は技術的に解決できる、とも語る。

その一例が、ヴィタリック自身が現在取り組んでいる技術、「Plasma」だ。

Plasma(プラズマ):元々はイーサリアムの「スケーラビリティ(拡張可能性)問題」を解決するための技術。1秒あたりに処理できるトランザクション(取引)量を増やすことなどができるとされる。

「Plasma」を取引所に適用して「分散型取引所」をつくれば、中央集権的な“誰か”ではなくユーザー個人にお金を留めておくことができる。

「ユーザーは、取引所がたとえハッキングされたとしても、ハッカーは取引所を1週間ほど停止させることはできるがお金を盗むことはできない、という保証が得られる」

すでに複数のチームが「Plasma」の実装へ向けて動いているという。ヴィタリック自身もいくつかの取引所と話し合いをしており、彼らも導入に意欲的だそうだ。

今のICO規制には問題がある

では、取引所に対する規制についてはどう考えているのだろうか。ヴィタリックは「規制する側の今までのやり方と、仮想通貨・ブロックチェーン界にとって本当に意味のあるやり方との間でミスマッチが起きている」と語る。

「例えば、今までの金融のあり方では、“ライセンスを持っているか?”、“信頼できる人たちか?”、“犯罪歴がないか?”などが重要で、(それを証明するために)登録制度が採られた。

一方で仮想通貨取引所の世界で重要なことは“彼らがコインを保有しているのなら、安全な方法で(本当に)コインを保有しているのか?”、“彼らがお金を持って逃げてしまう可能性はどの程度のものか?”といったことだ」

ビットコイン

仮想通貨にとっての「いい規制」とは?

さらに、今のICO(イニシャル・コイン・オファリング)の規制には問題がある、とヴィタリックはいう。彼の主張はこうだ。

「例えば、アメリカを始めとする国々ではICOの規制があり、ユーティリティトークンは良いもので規制は必要なく、セキュリティトークンは悪いもので規制が必要だ、とされた。

セキュリティトークンとして登録すると長い時間がかかることになり、誰もやりたくないという状況になってしまった。

そこで起こったことは、(サービスを提供する)みんなが法律家を探し、自分たちのプラットフォームがユーティリティトークンモデルに分類されるように取り計らうことだった」

はるか昔につくられた法制度に従うのではなく、経済的に理に適っているトークンモデルはどのようなものかなど、仮想通貨界で実際に起きた経験を考慮した法律の枠組みが必要だ、ともヴィタリックは主張する。

「すでに新しい(法制度の)モデルを採用して、実験している政府もある。そういうケースが増えればいいと思う、大恐慌時代につくられた法律のもとで“違法か”、“違法じゃないか”と考えるのではなく

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仮想通貨の浸透に「時間がかかるのはいいこと」

ヴィタリック・ブテリン

「ユーザーがテクノロジーを受け入れるのに時間がかかるのは実際、いいことだとも思う」。

規制もセキュリティーも、技術をベースにして解決策を考える。

彼の考え方は私のような一般人からすればあまりに過激で、テクノロジー至上主義的だ。そこには、価値観の大きなギャップがある。同席者の「世界とあなたのような存在のギャップをどう埋めれば良いと思うか?」という質問に、ヴィタリックはこともなげに答える。

「ユーザーがテクノロジーを受け入れるのに時間がかかるのは実際、いいことだとも思う。だって時間があればテクノロジーを向上させて、より安全でスケーラブルで速いものを作ることができるし、みんなが僕らのプラットフォームやアプリケーションを使う頃には、もっといいクオリティーになっていると思うから

そして彼は実際、それを実現させようとしている。

彼が現在取り組んでいるイーサリアムの「スケーラビリティ問題」の解決にはいくつかのアプローチがあり、どれかが機能すればイーサリアム上のアプリがより多くの人に使えるようになる。先ほどの「Plasma」は、2018年内には実装可能だと思う、と淡々と語った。

ものすごいスピードで全ての質問に答えきった24歳のインタビュー時間は、あっという間に終わった。時間を知らせるスタッフと共に席を立ったヴィタリックは、飄々とした様子で、400人の聴衆が待つ基調講演の会場へ入って行った。

(文・西山里緒、写真・今村拓馬)

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