「融資52億円を返して」PEZY関連会社が巨額返金を要求された理由

ExaScaler社の公式サイト

ExaScaler社の公式サイト。

科学技術振興機構(JST)が3月30日、産学共同実用化開発事業(NexTEP)にからみ、ExaScaler社に開発費52億円の全額返還を求めている問題。Business Insider Japanの取材で詳細が明らかになった。ExaScaler社はスパコン開発の補助金詐欺容疑で逮捕・起訴されている齊藤元章被告が経営していたPEZY Computingの関連会社だ。

産学共同実用化開発事業(NexTEP):開発リスクを国(JST)が負担し、企業単独では困難な開発を推進する目的でつくられた支援制度。採択されると原則10年以下の期間で無利子の融資が受けられ、開発が失敗した場合はそのうち90%の返済が免除される。支援金額は原則として1億円以上、50億円以下。

そもそもこの問題は、JSTの産学共同実用化開発事業(NexTEP)で、2017年1月に採択したExaScaler社の課題「磁界結合DRAM・インタフェースを用いた大規模省電力スーパーコンピュータ」に関して、2018年3月29日づけで開発中止を決定したことに端を発している。開発費52億円の全額返還要求は、これに伴った対応だ。この課題では、プロセッサーとメモリーとを先進的な高速転送技術で接続し、またシステム全体に液浸冷却技術を使うことで、世界有数の性能をもつ小型省電力スパコンを作り出すことを目指している。

JST広報によると、3月29日付けで開発中止を決定、翌30日にExaScaler社に通知が到着したことを確認した上で、公表したという。

JST「30年6月までの計画が大幅に縮小されていた」

科学技術振興機構(JST)の公表文

科学技術振興機構(JST)が公表した開発中止と全額変換要求。

公表文によると、JSTはその理由として「調査の過程において提出された書類等を検討した結果、採択時のものから大幅な計画変更となっており、本課題を採択した前提を欠くに至ったものと判断せざるを得ないことなどから、第三者による評価をも踏まえ、本開発を中止すべき相当の理由があり、本開発の継続が適切でないと判断するに至りました」としている。

「前提を欠くに至った」とは具体的にはどういう意味なのか。

JST広報はBusiness Insider Japanの取材に対し、「数字などの詳細の説明は開発にかかわるため差し控えたい」としながらも、その主な理由を以下のように説明する。

「1つは、開発期間が平成30年6月までの課題について、大幅に延長する計画が提出された。2つめは当初採択した際の規模感、開発内容が大幅に縮小されていた」

経緯として、PEZY Computing元社長 齊藤被告の逮捕・起訴にからんで今後、開発を継続できるのかヒアリングするなかで、ExaScaler社側から大幅な変更の提示があったという。

JSTとしては「Exa社側の都合ということになるが、計画どおりの進捗ができない、前提を欠いている」(JST広報)と判断し、今回の52億円の返還要求に至った。開発期間の「大幅な延長」のニュアンスについて確認したところ、6月の予定が7月になるというレベルの延長ではない、という回答をえている。

ExaScaler社は「答えられない」

ExaScaler社に問い合わせたところ、「広報の連絡先は回答できない」としている。

スパコン導入企業や研究機関への影響は?

ExaScaler社の技術について、業界では一定の評価を得ておりさまざまな企業や研究機関が導入している。

たとえばYahoo! JAPANの社内スーパーコンピューター「kukai」には、ExaScaler社の液浸冷却技術が使われており、2017年6月づけのリリースではスパコンの省エネランキングGreen500で世界2位の成果を出している。

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また理化学研究所のスーパーコンピューター「Shoubu(菖蒲)system B」にもExaScaler社の液新冷却技術やPEZY Computingのメニーコアプロセッサ「PEZY-SC2」など、PEZYグループの技術が採用されている。「Shoubu(菖蒲)system B」は2017年11月、Green500で世界第1位を獲得している。

国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が横浜研究所に設置したスーパーコンピューター「暁光(Gyoukou)」も同様。ExaScaler社とPEZY Computingの技術が採用されている。

永田町と霞ヶ関に幅広い人脈を誇っていたトップの逮捕で、今回の事業だけでなく、グループ全体の経営の継続性を懸念する声もある。そうなれば、Yahoo! JAPANや理研が導入した技術の保守などに幅広い影響が出かねない。一連の騒動が、高速な計算資源を活用する技術開発や先進研究にブレーキをかけるようなことは避けなければならない。

事態の推移は慎重に見守る必要がある。

(文・伊藤有)

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