激化する「Kaggle人材」データサイエンティスト争奪戦 —— DeNA業務時間でもコンペ参加OKの新制度創設

DENA

AI分野の事業に欠かせない、データサイエンティスト採用強化に乗り出すDeNA。

提供:DeNA

ディー・エヌ・エー(DeNA)は、データサイエンス人材の採用強化を目的に、データ分析や機械学習の世界的なコンペティションへの参加に業務時間の20〜100%を使うことを認める新制度を、4月から始めることを明らかにした。

対象となるコンペは「Kaggle(カグル)」と呼ばれるアメリカ発のプラットフォームで常時開催されている。マイクロソフトやフェイスブックなど、名だたる企業がデータ分析や機械学習の課題を出し、世界各国のデータサイエンティストが、その分析モデルを競い合う場だ。

Kaggle:世界中の企業や研究者がデータを投稿するプラットフォーム。2010年にアメリカで設立された。現在では60万人超のデータサイエンティストや研究者が登録しているとされ、最適モデルを競い合っている。参加者の「モデル」は採点され、ランク付けされる。最適モデルを提示した参加者には、企業や研究者から賞金が支払われる。賞金は数百万円から億単位のものまである。

関連サイト:Kaggle公式サイト

ここでの実績は、世界的な企業への就職パスとしても使われ、データサイエンス人材のグローバルな評価基準となっている。業務の一環としてKaggle参加を認めることで、データサイエンティストのキャリア形成支援にもなる。AI分野の事業開拓を視野に、DeNAは新制度でハイスキル人材の確保を狙う。

AI分野に欠かせないデータサイエンス人材は、世界的な争奪戦となっている。日本でもDeNAはじめ、クラウド名刺管理サービスのSansanやヤフーなどのIT企業が獲得に乗り出している。中でも、最先端のデータサイエンス人材が集まる場であるKaggleで腕を磨いた“Kaggler(カグラー)”に、各社が熱い視線を注いでいる。

Kaggle

Kaggleのホームページより。参加は、無料登録すれば誰でも可能だ。

最高レベルは「Kaggleが仕事」

DeNAが4月から実施する、データサイエンス力強化のための新制度は「Kaggle社内ランク」。Kaggleでの実績に応じて、採用時にランクBからSSまで4段階に分類する。このランクにひもづく人材は、最低でも業務時間の20%は、Kaggleに充てることができる。世界でも数人という最高ランクになれば、業務の全ての時間をKaggleでのコンペに使うことが認められるという。

DeNAのKaggle社内ランク制度

RankSS‥Kaggleでトップ入賞5回(I回は単独)/累計成績→ Kaggle業務許可100%
RankS‥ゴールドメダル5個(I回は単独)→Kaggle業務許可50%
RankA‥ゴールドメダル1個→Kaggleg業務許可30%
RnakB‥シルバーメダル3個→Kaggle業務許可20%

DeNAがKagglerの採用強化に乗り出す先には、AI分野の事業開拓がある。同社は2010年にデータ分析の専門組織を立ち上げ、現在はゲームを中心にAI分野に約50人が従事している。データサイエンティストの採用拡大によって、得意のゲーム分野に限らず、ヘルスケアや自動車などで応用できる、高度な分析モデルをつくる狙いがある。

DeNAの山田部長

データサイエンティストにとって、報酬以外にも大切なのは「魅力的な環境」と話す、DeNAのAIシステム部長I山田氏。

制度創設に携わった、DeNA・AIシステム部長の山田憲晋氏は「AI人材の採用は非常に困難になっている。給与を釣り上げてマネーゲームをするよりも、彼らにとっていかに魅力的な環境を用意できるかが大事」と話す。

同社では報酬面でも、AI人材は新卒で600万円〜1000万円というレベルが提示されているが、それだけでは人材をつなぎとめられないという。

日本語でコミュニケーションのできる、ハイレベルなデータサイエンティストは、まさに希少人材。DeNAなどによると、Kaggleマスターと呼ばれるレベルは、日本に数十人。グランドマスターに至っては数人だという。

「データサイエンティストは、平日は会社の仕事をしながら、夜や週末に、寝る間を惜しんだりプライベートの時間も削ったりして、Kaggleに取り組んでいる。会社の業務としてKaggle参加を認めることで、本人のスキルアップにもなるし、会社としても採用や育成面でフィードバックが期待できる」と、山田氏はその意図を説明する。

DeNAには現在、4人のKaggleマスターが在籍しているが、同社は今後1年間で、10人程度までの拡充を目指す。

1年でデータサイエンス人材倍増

クラウド名刺管理サービスのSansanも、Kaggler(カグラー)の採用に積極的だ。

2016 年に、データサイエンティストや機械学習の専門家を集めたDSOC(Data Strategy & Operation Center=ディーソック)を立ち上げ、中でも専門性の高いR&Dチームは20人と、1年間で人員を倍増させた。

そこには、日本で数人しかいないKaggleグランドマスター2人を始め、Kagglerが複数名在籍している。多くは、他社や研究機関からの引き抜きだ。京都在住のリモートワーカーもいる。

DSOCセンター長の常楽論氏は「Sansanがこれまで、画像認識に加えて人の手も使って蓄積してきた膨大なデータを分析することで、新たな成長に持っていけると考え、2017年春からデータ分析のできる人材を集める方針に転換した」と説明する。

Sansanディーソック

Kaggle人材を豊富にそろえた、SansanのDSOCメンバー。左は常楽センター長、真ん中が黒柳さん。

撮影:滝川麻衣子

Kaggleマスターでもある、黒柳敬一研究員はフィンテック企業を経て2017年7月にSansanに入社。黒柳氏は「例えば過去に何度転職をしているか、勤務先の離職率、友人の転職行動などを分析して、モデルに反映することで、転職する気があるかどうかも予測できないか取り組んでいます」と、名刺データの新たな可能性を探っている。

争奪戦の様相を帯びているデータサイエンス人材の採用だが、DSOCセンター長の常楽氏は「我々に関しては、それほど困難を感じていない。理由は、優秀な人材がすでにいること、量も質も豊富なデータがあること、研究だけにとどまらず、ベンチャーゆえに研究成果を事業や製品に反映させるサイクルが早いことが、データサイエンス人材にとっても魅力なのでは」とみる。

AI技術を駆使し「次に出会うべき人」をレコメンドする機能を3月に発表するなど、すでにデータサイエンスの研究成果を反映させたサービスを世に送り出している。

賞金総額1000万超のコンペも開催

ヤフーも2015年から、エンジニアスペシャリストコースとして、初年度から年収650万円以上と、通常の採用(高校や学部卒などで約425万円)よりも高年収の採用を進めてきた。アプリ開発の経験や起業経験と並んで、Kaggleでの上位10%入賞者が条件に組み込まれている。同社の広報担当者は「エンジニア全般の採用に力を入れているが、今後、さらに採用は難しくなる」と、需給の逼迫を感じている。

メルカリは2017年11月、日本企業では数少ないスポンサーとして、Kaggleで賞金総額10万ドル(日本円で1000万円超)のコンペを開催。ビジネスにKaggleの知見を積極的に取り入れている。

ITメガベンチャーを中心に、データサイエンティストの需要は高まりを見せる中、4月には、Sansan、ヤフー、DeNAの3社合同で、Kaggle経験者や興味を持つ人を対象にKaggleイベントを開催。中長期的なデータサイエンス人材の育成や普及を仕掛けている。

データサイエンス人材のニーズの高まりとあいまって、主催のSansanが語るように「今年はいよいよ、日本でもKaggle元年」となるか。人材市場の行方が注目される。

(文・撮影:滝川麻衣子)

編集部より:初出時、DeNAの「AI人材は成果に応じて680万円〜1000万円」としていましたが、正しくは「AI人材は新卒でも600万円〜1000万円」です。また、社内ランクの説明で年度成績としていたのは、累計成績です。お詫びして訂正致します。2018年4月3日11:45

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