「今は単に政治家の奴隷でしかない気がする」「公務員に対しては政治家が残業の根源になっている」。官僚たちの回答は、切実な内容だった。
Business Insider Japanが2018年3〜4月に、官僚の働き方のアンケートを実施したところ、9割の職員がほぼ毎日残業をしている実態が明らかになった。残業の原因(自由記述)は、回答者の半数近くが「国会議員対応」を挙げ、9割が政治家からの要求が働き方に影響しているという回答している。
ある官僚は「役人は政治家の犬じゃない」と記述欄で訴えた。
働き方の原因は政治家からの要求
Business Insider Japanでは、森友学園への国有地売却に関する決裁文書改ざん問題で、“忖度”の言葉が象徴するように官僚の仕事のあり方が注視されていることを受け、官僚の労働環境を取材した。その結果、メンタルヘルスを理由に1カ月以上休職している国家公務員は、民間企業と比較すると、約3倍だった。
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さらに、「官僚の働き方」をアンケートを実施したところ、70人から回答があった。
週の残業時間を聞いたところ、「20時間以上」(月に換算すると、過労死ラインの月80時間以上)が54.3パーセントと過半数を占め、官僚の2人に1人が、1日に4時間以上の残業をしている結果となった。
残業の頻度は、「必ず毎日」「おおよそ毎日」を合計すると、9割を超え、日常的に残業をしている現状が明らかになった。
残業の原因(自由記述)を聞くと、32人のうち17人が「国会対応」と答え、回答の中で最も多かった。このほか、「業務量が多い」「規則がITに対応していない」「災害対応」「人員が少ない」などという意見があった。
国会議員の対応をする「国会対応」は働き方に大きく影響し、「政治家からの要求が働き方に影響している」と答えた人は、9割近かった。
この結果、政治家との付き合いに6割の人がストレスを感じていた。退職を考えたことが「すごくある」「少しある」と回答したのは、8割近く。
ストレスや退職を検討する理由を聞くと、「役人は政治家の犬じゃない」(厚生労働省)「(政治家は)残業時間を減らせと国会で政府に求めておきながら、公務員に対しては自分たちが残業の根源になっている」(農林水産省)と切実な思いを回答した(カッコ内は所属)。主な回答をまとめると、以下のようになる(自由回答をBusiness Insider Japanが分類)。
1. 政治家の理不尽な要求
回答の中で、特に目立ったのは、「国会対応」と呼ばれる国会議員への対応だ。
「政治家対応は何よりも優先、突発的に発生すると通常業務ができなくなる。無理なスケジュール、理不尽な要求、失礼な態度が散見される」(防衛省)「理不尽かつ意味不明な議員対応、政治がらみの幹部対応」(経済産業省)
「(業務の)半分以上利益誘導」(経産省)
2. 上司が政治家目線
政策を滞りなく実行していくためには、行政にとっても政治家との調整は重要、また、職員が無理な「国会対応」に慣らされれば、いつしか政治家の方向を向いてしまうのか、次のような意見があった。
「若手職員から見ると、上司が政治家にへりくだる姿はプレッシャーになる」(国土交通省)
「幹部が官邸と政治家ばかりを向いていて、守りの仕事が常に最優先事項となる」(内閣府)
3. 間違いは許されない
政治家からの目線を気にするあまり、“些細な”仕事にまで過度な気を使ってしまう現状も浮かび上がった。
「与野党問わず、議員案件は対応を誤ると役所組織として大きなダメージを受けることになるため、非常に神経を使う」(内閣府)
「特に野党の議員については説明の際に言葉尻をとらえられることが多い。理解を得られないと国会で質問されるため非常に気を使う」(法務省)
4. 拘束時間が多いのに安い給与
このような国会対応の結果、労働時間は長くなるものの、残業代は予算の範囲内で支払われ、待遇面での不満も回答の中で表れた。
「ストレスフルで時間拘束が多い割に、給料が安い」(内閣府)
「100時間残業しても2、3割しか残業代がつかない職員もいる一方で、組織は予算を使い切って終わりである。月300時間残業しても、誰も幸せになっていないことが非常に辛い」(経産省)
長時間労働により、以下のような弊害も発生した。
「大変すぎて、実際に体調に異変が起きた」(文部科学省)
「私生活の人間関係が崩壊した」(外務省)
以上ような国会対応をせざる得ない職場、長時間労働の常態化により、次のような理不尽な要望がまかり通る現状を、経産省の職員は記述した。
「政府のビラを地元の講演で使うから、1000部印刷して事務所まで持ってこい、といった要求を断れず、役所のコピー機で印刷している。その議員の選挙対策のために税金を使っているようなもの。本来の業務を止めて印刷して持っていく。
通常個別企業にいちいち政策の説明などには行けないが、議員案件だと個別に説明したり補助金の審査状況を伝えるのは、不公平」(経産省)
どうしたら政治家との関係を改善できるか
国会議員ばかりが悪いわけじゃない、「劣悪な働き方の半分は霞ヶ関内部の問題」とする声もあった。
官僚の働き方を変えるために必要なことを聞くと、政治家との関係性を見直す仕組みのほか、霞が関内部の生産性をあげる必要性も意見としてあ挙がった。
1. 政治家と行政の対等な関係
「(行政と政治家の)お互いが相互依存し過ぎて、もう少しドライな関係性が良い」(文科省)
「内閣による幹部人事は廃止すべき」(内閣府)
「森友事件のように政治家の中には私利私欲の為に働く者がいるため、意思決定された事項が国民に忠実で公正であるかを官僚が判断し、意見を言える風土にすべき」(外務省)
2. 情報公開で無茶な要求を防ぐ
「役所への資料要求等は全て内容を公表すべきである。人に見られて困るようなものを役所に要求していなければ、何も問題がないはずだ」(経産省)
「国会の質問通告の実態(何時に通告したか。持ち時間に比して質問数が多すぎないか等)を見える化する」(外務省)
「個々の議員からの資料要求やレク依頼が何ら制約なく認められるのを改める」(外務省)
3. 霞が関の意識の問題
一方で、行政の組織内の問題点を指摘する意見もあった。
「アナログな業務、縦割り、無謬性を担保するため決裁ルートに何人も管理職が並んでいたり…と。
例えば、財務省との予算折衝の際も、深夜2時に財務省に呼び出されて説明を行ったりしている。法律の改正のために、法制局に深夜3時に呼び出されて議論を行なっている。
霞が関内のことなのだから、役人たちでどうにでもできるはずだが、リソースも足りないし、計画性も足りない。 残業代や人の時間、健康はコストだという意識が霞が関には足りなすぎる」(経産省)
現状の働き方を変えないと、「優秀な若手が中央省庁に来てくれなくなり、日本が崩壊する」(防衛省)と危機感を持つ人もいた。
Business Insider Japan編集部は、さらにアンケートの回答者たちに取材を進めた。彼らが証言したのは、「マクドナルドよりも安い時給」という賃金や省内の「割りもめ」という独特の慣習に対する疑問。この証言は、別の記事で報じます。
(文・木許はるみ、撮影・今村拓馬)