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- アップルは、PCのCPUをインテル製から自社製に切り替えることを検討していると報じられた。
- アップルがコア・テクノロジーをすべて自社製にしようとしていることは良く知られている。同社CEOティム・クックのそうした試みは2009年に遡る。
50年近く、インテルは「シリコン(半導体)」を「シリコンバレー」に提供してきた。同社はその強力なマイクロプロセッサーと巨大工場でPC革命を推進した。
だが4月2日(現地時間)、インテルの足元が揺らいだ。アップルがCPUの自社開発を検討していると報じられたからだ。もしそうなれば、インテルは数千億円規模の売り上げを失う。
アップルとのビジネスで売り上げを上げていた企業が、ある日突然、簡単に同社の犠牲者となることは過去にもあったが、恐らく今回が最大の事例となりそうだ。
ブルームバーグによると、アップルはPCに搭載しているインテル製CPUを自社製に切り替えることを検討している。そのメリットの1つは、インテルのCPU開発サイクルに縛られなくなること。切り替えは早くても2020年以降と伝えられている。念のために補足すると、アップルはインテル全体のビジネスから見れば、わずかな割合を占めているに過ぎない。
だがインテルの株主たちは動揺した。
とはいえ、アップルがCPUを自社開発するというニュースは驚きではない。むしろ、あなたが、アップル関連のアナリストたちが「ティム・クック・ドクトリン」と呼ぶものを知っているなら、驚きですらない。アップルは最終的に、自社製品に搭載するコア・テクノロジーをすべて自社で保有しようとしている。
アップルのCEOティム・クック氏が初めてこの方針を明らかにしたのは、2009年の四半期決算報告会でのこと。以来、様々な場面で繰り返し表明している。
あるアナリストによると、ドクトリンの重要な部分は以下。
我々は、我々の製品を支える主要なテクノロジーを自社で所有し、コントロールする必要がある。また大きな貢献が可能なマーケットにのみ関与する
以来9年間、アップルが「アグレッシブ」に取り組んできたことを紹介しよう。
- まず、初期のiPhoneに搭載していたサムスン製プロセッサーを自社製に切り替えた。これは2008年のP.A.Semiの買収によって可能になったこと。最近のベンチマークによると、アップル製のモバイル向けチップはインテル製のデスクトップ向けチップと同じくらいの性能を示している。しかもすでにより省エネルギー。
- 次に、アップルはAuthentecを買収。Authentecはアップルの指紋認証センサー「Touch ID」の元となる技術を持っていた企業。アップルがAuthentecを買収したことで、複数のアンドロイド・スマートフォン・メーカーが指紋認証センサーの搭載を一時、断念したと言われる。
- 2014年、アップルはSwiftを発表。アップルのデバイスに最適化されたオープンソースのプログラミング言語。
- より最近では、アップルはiPhone用のグラフィック・プロセッサーを作っていたイギリス企業、イマジネーション・テクノロジーズの息の根を止めた。アップルは同社からCOOを引き抜き、その後、同社とのライセンス契約を終了すると発表した。イマジネーション・テクノロジーズの株価は大幅に下落、中国のファンドが買収した。
- アップルがAirPods、Apple Watch、Beats headphonesに搭載している自社開発のW1チップは、もともとはアップルがブロードコム(Broadcom)から買ったもの。
- また最近では、アップルはスマホ用チップの開発に取り組んでいると伝えられた。アップルはこれまで、iPhoneにクアルコム製チップを搭載、同様にインテルからも購入していた。いずれにせよ、スマホ用チップの開発は確実だろう。だがこれは、知的財産権の侵害を巡ってクアルコムとの間で10億ドルの訴訟に発展する恐れが高い。
- さらにアップルは次世代テクノロジーを使ったディスプレイを開発中と噂されている。実現すれば、サムスンやLGからの部品購入が不要になる。
これがアップルのやり方、そして今、狙いはインテルだ。
もし強大なインテルがリスクに晒されているなら、アップルと取り引きしているすべての企業、特に小規模な企業は、今、大きな不安を感じているはず。ある日、アップルはあなたが何年も納めてきた製品を自社開発していると切り出し、あなたの製品より優れていると告げるかもしれない。アップルは現金を含め、2000億ドル(約20兆円)を超える流動資産を持っている。リソースはほぼ無限だ。
アップルが自社製品に使っている他のコア・テクノロジーについても、同様の取り組みを行うことは簡単に想像できる。次は何だろう? サーバー・インフラ? 素材や材料? コンピューター用のソフトウエア?
いずれにせよ、アップルのリーダーが「コア・テクノロジーだ」と考えれば、最終的に自社製になることは明白。「そんな話は聞いていない」と言うことなど誰にもできない。
(翻訳、編集:増田隆幸)