H&Mはその競争力を失いつつある。
Business Insider/Mary Hanbury
- H&Mの2018年第1四半期の営業利益が62%減少した。同社をめぐっては、2017年第4四半期の売り上げが過去最悪の低下を経験したばかりだ。
- ZARAやASOSといった競合他社が、サプライチェーンのスピードを速めることで流行の最先端を追い続ける中、H&Mはその競争力を失いつつある。
- 40億ドル(約4200億円)相当の商品が売れ残るなど、同社は在庫をめぐる大きな問題を抱えている。
かつて「ファストファッションの王」と考えられてきたH&Mは、おしゃれな衣料品を大量生産で安く消費者に届けることで人気を得た。2000年代前半には、その売り上げはまさにうなぎのぼりで、世界各地で数千店舗をオープンさせるなど飛躍的な成長を遂げた。
しかし、潮目は変わり始めた。H&Mはここ2年、ZARAのようなよりファッショナブルなブランドに後れを取り、ASOSのようなオンライン中心のブランドに出し抜かれてきた。ASOSは、そのサプライチェーンのスピードを最速で1週間まで縮めている。
こうしたプレッシャーはH&Mの決算にも表れている。同社の売り上げは2016年から低迷し始め、2017年第4四半期には過去最悪の売り上げ低下を記録した。株価も下落し、主要な投資家たちは株を売り始めた。
創業者の孫で現在のCEO、カール・ヨハン・パーソン(Karl-Johan Persson)氏は3月27日(現地時間)、H&Mの最新の決算発表の中で、同社の抱える問題を認識しているとしたが、経営陣が問題解決のために具体的に何をしているのか、投資家たちは分からないまま取り残された。
「年初めは厳しいものだった」パーソン氏は言う。「H&Mグループにとって2018年は変化の年だ。急速なデジタル化によってもたらされる機会をいかすべく、我々は変化を加速させていく」
何が悪かったのか?
アナリストたちは、H&Mがブランドの問題を抱えているという。飛び抜けて安いわけでも質が良いわけでもなく、おしゃれなわけでもない。だからこそ、後れを取り始めたのだと指摘する。
「品揃えが問題の中核にある」H&Mの株主でもあるSkandiaのファンド・マネジャーErik Sjostrom氏は2月、ブルームバーグに対し、同社が相当量のH&M株を売却したと語った。
「ファッション性、価格、流通……彼らはファッション性と価格で間違っているのだろう」Sjostrom氏は言う。
ASOSやBoohooといったトレンドに敏感なオンラインストアは、その価格とスピードでH&Mに勝っている。彼らはサプライチェーンのスピードを1~8週間に速め、トレンドの最先端を追い続けている。同様に、実店舗を伴うZARAのようなライバルもそのスピードを5週間に速め、品揃えはファッション性の高さで知られる。一方で、H&Mの商品の入れ替えは6カ月を要する。
オンラインで買うという消費者の行動変化も、追い打ちをかけている。
「1990年代にオンライン・ショッピングを導入したH&Mは、当時としては早かった。だが、既存のマーケットで伝統的なインフラから逃れられなかった。ITを導入することで事業をサポートしようとしたが、時間がかかり、うまくいかなかった」RBCのアナリスト、リチャード・チェンバレン(Richard Chamberlain)氏は1月、投資家向けのメモに書いた。
H&MのパーソンCEOも自社の弱点を認識していて、その復活にはデジタル・ビジネスの成長が欠かせないと考えている。同氏は過去の決算発表で何度か、2018年にはオンラインの売り上げが25%伸びるとの見方を示している。
ニューヨークのソーホー地区にあるH&Mのセール品コーナー。
Business Insider/Mary Hanbury
在庫、その事実
ファッションに関心の高い顧客が最新のデザインを求めて他のブランドへ向かうにつれ、H&Mの店舗では値引きセールのコーナーが目立つようになった。
2017年第3四半期には、パーソン氏は夏のセールを積極的に行ったことで利益率は低下したが、在庫を一掃し、次のシーズンに向けて良い準備ができていると述べた。しかし、クリアランス・セールは2017年の第4四半期を過ぎて2018年に入った今も続いている。
「第4四半期の売り上げの低迷は、H&Mブランドの品揃えのバランスの悪さが影響している。それが結果的に第1四半期のクリアランス・セールにつながった」パーソン氏は3月27日、投資家向けのメモの中で述べた。
同氏は加えた。「例年以上に寒い冬の天候とハイレベルなクリアランス・セールがあいまって、春物の売り上げに打撃を与えている」
しかし、これらの売り上げも同社の増大する在庫危機からH&Mを救い出しはしないようだ。その売れ残りは今や40億ドル相当を超え、アナリストたちはH&Mがこの在庫をどう処分するのか、疑問を抱いている。
「更なる値引きをせずに、この在庫の山をH&Mがどう処分するのか、依然として分からない」クレディ・スイスのアナリストは2月、投資家向けのメモに書いた。
「H&Mには、売り上げの低迷、更なる値引き、余剰在庫の悪循環から抜け出す具体的な戦略はなさそうだ」同じクレディ・スイスのアナリストは、3月のメモに書いている。
H&Mの広報担当者はBusiness Insiderに対し、売れ残りの在庫は主に新しい春物と夏物のアイテムであり、季節外れの寒さによって出遅れていると語った。あとは「季節を選ばない」アイテムで、「1年を通じて売れる」ものだと言う。
「在庫には出荷を待つ多くの新商品が含まれていて、配送センターや補充センターにある。実際、店舗にあるのはごく一部だ」同社は加えた。
ニューヨークのソーホー地区にあるH&Mの店舗をBusiness Insiderが訪れたとき、店内では複数の陳列棚をセール品が占めていた。タンクトップやスカート、ウールのジャンパーといった異なる季節のアイテムが混在していて、セール品のコーナー以外でも、75ドル以上購入すれば20%オフになるキャンペーンが行われていた。
「H&Mは在庫一掃のため、積極的なセールを続けていて、こうしたプロモーションを続けることで、同社が売り上げを伸ばす力を失うリスクがあると我々は考えている。H&Mというブランドが棄損される危険性もあるのではないか」RBCのチェンバレン氏は3月、投資家向けのメモの中で書いた。
未来に向けて
H&Mの成長戦略は、歴史的に新店舗をオープンし続けることだった。しかし、その出店スピードも落ちているようだ。2017年、同社はこれまでにない数の店舗を閉店すると発表、成長の可能性がある国で店を増やす戦略に注力すると述べた。アナリストたちはこうしたH&Mの姿勢を評価した。
また、COSのような姉妹ブランドの成功も更なる成長につながる可能性がある。COSの店舗数はH&Mに比べ95%少ないが、その収益性は引けを取らない。
加えて、同社は競合他社に対抗すべく、サプライチェーンをより速く、より柔軟なものへと改善しようとしている。
H&Mにとって、目下最大の課題は売れ残りの在庫の一掃だ。同社は2月、自社製品をディスカウントして販売する「アファウンド(Afound)」という新たなコンセプトの店をスウェーデンで立ち上げると発表した。これは、同社のメイン・ブランドであるH&Mのイメージを壊すことなく、セール品コーナーを店舗からなくす賢い方法となり得る。しかし、より大きな規模でやる必要があるだろう。
「(H&M)グループが余剰在庫を一掃すべく、取り組みを強化していくと仮定すれば、これはプラットフォームに新たな、フレッシュなスタートを提供するだろう」マッコーリーのアナリストは12月、投資家向けのメモに書いている。
(翻訳、編集:山口佳美)