保険適用で真価問われる「オンライン診療」—— スマホで医師とつながれば何が変わるのか

医師と対面してでないと原則受けられなかった診療が、スマートフォンやパソコンを通じて気軽に受けられるようになる。

Yadocスマホ画面

インテグリティ・ヘルスケアが提供する「Yadoc」のオンライン診療システム。

撮影:古川雅子

使うのはスマホやパソコンのビデオチャット機能。2018年4月から、インターネットを介して医師が診察を行う「オンライン診療」に健康保険が適用されるようになった。

医療法人社団「鉄祐会」理事長で、オンライン診療システムの開発を手がけるスタートアップ「インテグリティ・ヘルスケア」(東京都中央区)の会長も務める武藤真祐氏(46)は、外来診療や在宅(訪問診療)など医師と患者が対面で行う「オフライン」の医療を「オンライン」の医療が補完する形で、医療の質や価値が向上する時代になると見ている。

YaDoc

予約時間になると、医師から患者のスマホにコールが入り、ビデオチャットによる診療が始まる。

提供:インテグリティ・ヘルスケア

日本の医師法は「医師は自ら診察をせずに治療をしてはならない」と定めている。離島やへき地に限らず、都市部においてもオンライン診療は広まりつつある。にもかかわらず、対面しないオンライン診療の位置付けはあいまいだった。厚生労働省が「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を公表したのは、2018年3月末のことだ。

オンライン診療の伸びしろは、思いのほか大きい。今回の診療報酬改定により全国の標榜診療科数のうち約74%でオンライン診療に対して診療報酬を算定できるようになった(インテグリティ・ヘルスケアの概算)。対象となる診療科数は、18万4911(同一医療機関で重複あり)にものぼる。

厚労省「平成26年医療施設調査・病院報告の概要」診療科・および施設数よりインテグリティ・ヘルスケア作成

対面診療以上に「面と向かう」側面も

医療の「オンライン化」は、診療所まで通いにくい患者にとっては朗報だ。一方で、医療を受ける患者の視点に立てば、オンラインでどこまで医師とのコミュニケーションが取れるのか、という不安もあるだろう。

武藤さんと園田さん

医療法人社団鉄祐会理事長の武藤真祐氏(右側)とインテグリティ・ヘルスケア代表の園田愛氏。2016年から政府系投資会社「REVIC」から出資を受け、オンライン診療システムの開発に乗り出した。

撮影:古川雅子

2017年4月から福岡市医師会、福岡市、九州厚生局、医療法人社団「鉄祐会」、インテグリティ・ヘルスケアが始めた実証事業「ICTを活用した『かかりつけ医』機能強化事業」では、オンラインならではのコミュニケーション上の利点もあることがわかった。武藤氏によれば、実証に参加した医師、患者・家族から次のような利点が挙げられたという。

◆医師

  • 画面を通じて患者や家族の生活の様子が見える。
  • 2週間に1回の訪問診療の合間にオンライン診療を補ったことで、患者の状態変化を早めに把握できた。

患者・家族

  • 画面で医師の顔が見えて相談できることで、安堵感がある。
  • 生活の場から話ができることで、医療者に気軽に相談しやすい。

多数の証言から浮き彫りになったのは、あまりにも多忙な現代の医療現場のジレンマだった。混み合う外来、待合室で長時間待機する患者、診察のためのバイタルチェック(体温、血圧、脈拍など健康状態を客観的に数値化し観察する行為)やカルテへの書き込みなどで忙しい医師、限られた診療時間……。

「医療現場の証言を聞くうちに『ああ、そうか』と気づかされたのは、外来の方が案外、患者さんの目をしっかり見て、しっかり話すタイミングが少ないということでした」(武藤さん)

一方、オンライン診療システム「Yadoc」では、患者が取る体温や血圧などのデータをかかりつけ医と共有し、システムで同期。問診はオンライン入力で事前に済ませることができる。医師はグラフ化したデータで患者の状態が一目で把握できる。診療の時間は、双方がスマホやパソコンの真正面に向かい、画面に映し出された相手の顔をしっかり見て会話をする。場合によっては、むしろオンライン診療の方が日常の医療現場で不足しがちなコミュニケーションを補う可能性すらある、と武藤氏は言う。

「さすがに、お互いの顔が画面に映った状態で医師がよそ見をするわけにもいかない。だから、自然と面と向かう。短い時間でも思いのほかしっかり話せることで、医師と患者お互いの満足度も高まるんです」

もちろん、便利であるがゆえに患者や医師が対面診療を軽視し、安易にオンライン診療に流れれば、診療の質の低下を招きかねない。これからの医療機関は外来、在宅、オンラインそれぞれの良さを生かし、患者の疾患や生活環境、経済環境に応じて出し入れ自在な「引き出し」のようにさまざまな診療の組み合わせを用意することが大切だと武藤氏は説く。

通院負担と治療離脱を減らせるか

出典:ICTを活用した『かかりつけ医』機能強化事業実証報告会アンケートより

疾患を抱える人が治療から脱落するのを防止する手段としても、オンライン診療への期待は高まる。前出の「ICTを活用した『かかりつけ医』機能強化事業」で実施したアンケートで、医療機関側がオンライン診療を利用したいシーンとして期待が高かったのは、「通院困難者への対応」や「治療離脱防止」だった(図参照)。特に、仕事や育児などで定期的な通院が困難な「勤労世代」の場合、受診の壁と治療継続の壁と「二重の壁」に阻まれがちだ。

この実証事業では、ある40代の高血圧症の男性のケースが報告されている。その男性は企業管理職で多忙を極めていた上、勤務先が変わって通院に2時間近くかかるようになったことから、「かかりつけ医を変えずに通院負担を軽減するため」オンライン診療を組み入れたところ、治療を継続できたという。

「勤労世代」で通院が困難な人たちこそ、オンライン診療と親和性があると見られている。

“ひよっこ”医療を育てていけるか

にもかかわらず、4月からの保険適用は、勤労世代の患者群にスポットは当たらなかった。オンライン診療の算定対象になるのは、基本的には慢性疾患で長期管理が必要な患者であり、算定基準は厳しめに設定され、特定の病気や通院期間など細かい条件が定められている。初診では算定されず、対面で初診を受け、半年以上対面での診療を受けてやっとオンライン診療に点数がつくという枠組みでは、医療機関にとってはオンライン診療を導入するインセンティブが沸きにくい。そもそも通院が困難な患者にとっても、治療継続のハードルが高い。

武藤氏は、今回の診療報酬改定でオンライン診療が新たに保険診療に組み入れられた意味合いは大きく、「歴史に残る改訂と言える」と評価する。一方で、制約が多く、実態としてはまだ多くの人には使えない制度にとどまっている点について、「現時点では、オンライン診療は医療としては発展途上であり、“ひよっこ”みたいなもの。これからは、皆で育てていく段階だ」と語った。だからこそ、こう付け加えた。

「オンライン診療が拙速に広まって、不適切な使われ方をするようになれば、オンライン診療の(診療報酬)制度そのものを否定する動きが出てくるかもしれない。これから、きちんとした医療としての使われ方を示す具体的なケースを積み上げていくことが大切だと思っています」

(文・古川雅子)


古川 雅子:上智大学文学部卒業。ニュース週刊誌の編集に携わった後、フリーランスに。科学・テクノロジー・医療・介護・社会保障など幅広く取材。著書に『きょうだいリスク』(平山亮との共著)がある。

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