日本企業の「爆買い」続けるRIZAP、M&Aのプロが指摘する「二つの死角」

破竹の勢いで拡大を続けるRIZAPグループが、新たなM&A案件を発表した。今度はプロサッカーチーム、湘南ベルマーレだ。この勢い、どこまで続くのか。規模拡大以外に、確固たる戦略はあるのだろうか。M&Aなどの企業活動に詳しいコンサルタントの桂木英一氏に分析してもらった。

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中期経営計画でスポーツとフード分野に集中的に投資すると発表したRIZAPグループの瀬戸健社長(左)。隣は湘南ベルマーレの眞壁潔会長(中央)と三栄建築設計の小池信三社長(右)

撮影:川村力

個別指導のトレーニングジム運営を中心に、美容や健康、アパレル分野などで急拡大を続けるRIZAPグループが、サッカーJリーグ1部(J1)湘南ベルマーレの経営権を取得すると発表した。

現在筆頭株主の三栄建築設計(東京都杉並区)と合弁会社を設立し、ベルマーレの第三者割当増資を引き受ける。RIZAPグループは合弁会社を通じて、ベルマーレの株式を議決権ベースで50%保有し、連結子会社とする。

同グループは、2015年に策定した中期経営計画で、スポーツとフードの両分野に集中的な投資を行い、2021年3月期までに売上高1000億円超を目指すと発表。計画に基づき、2017年3月からボクシングの村田諒太選手、ゴルフの森田遥選手らトップアスリートのサポートを開始、12月にはスポーツ用品販売「ビーアンドディー」を買収するなど、取り組みを加速させてきた。

今回、湘南ベルマーレを傘下に収めることで、ジム運営などのボディメイク事業を通じて蓄積してきたデータを活用し、併せて最先端のテクノロジーを導入することで、選手の強化育成をサポートする。また、スタジアム観客数やサポーター層の拡大、チームの地元・湘南地域に根付いたクラブ運営などを進めるために、3年で10億円以上の投資を行い、2020年までにタイトル獲得とスタジアムの収容(満員)率ナンバーワンを狙うという。

「何でもかんでも買収」とは違う

RIZAPグループは、2018年2月に音楽・映像ソフト小売大手「新星堂」などを展開するワンダーコーポレーション、3月末には主婦向けフリーペーパーを発行するサンケイリビング新聞社の株式取得を発表し、大きな話題になったばかりだ。

カネの力にモノを言わせて何でもかんでもグループ化しているように感じるが、決算説明会資料などをしっかり読めば、買収した会社の大半が営業利益を大きく改善させていることがわかる。

数社の収益体質を改善することくらいなら、市場のトレンドやタイミング次第でできるかもしれない。しかし、ほとんどの会社の収益改善に成功しているとなると、明確な戦略をもって買収した上で、「買収後統合戦略(PMI=Post Merger Integration)」を徹底して行っているとしか考えられない。

それはどんな戦略なのだろうか。

「最初の顧客を獲得する」広告戦略がうまい

ライザップ瀬戸社長

瀬戸健社長は福岡県出身。2003年に健康食品を通信販売する「健康コーポレーション」を設立。2006年、札幌証券取引所(アンビシャス)に株式上場を果たす。2016年に現在の商号に変更。「部活動などでサッカーの経験はない」という。

撮影:今村拓馬

ポイントは2つある。ひとつは、彼らの最大の強みであるマーケティング力と顧客基盤を活用できることだ。

RIZAPグループの前身は「健康コーポレーション」。現在もダイエット食品や美容関連の商材を通信販売やECサイトを通じて販売している。「豆乳おからクッキー」や「どろあわわ」「元源黒酢」などが主力商品だ。

ダイエットや美容関連の通販は、20〜50代の女性をターゲットにしたものが多い。ビジネスモデルとしては、商品単価は高くなくても、継続率やクロスセル(関連商品を追加で購入すること)率が高くなるのが特徴だ。広告コストはかさむものの、長く使ってもらったり、他の商品を買ってもらったりすることで、顧客1人当たりの生涯価値(LTV=Lifetime Value)が高まる。

このようなビジネスモデルにおいては、経営戦略上、最初の顧客を獲得する集客・マーケティング力がきわめて重要になる。印象的なCMで知られる「やずや」のように、健康食品を扱う企業がこのモデルを採用している。実際、健康コーポレーションの札幌証券取引所(アンビシャス)上場時の決算資料を読むと、売り上げの90%近くが広告費に回されており、それ以降も年間30億円超の広告投資が10年以上に渡って続いている。

通販企業の広告は、テレビCMなどの大型案件だけでなく、折込チラシやフリーペーパー、カタログ、交通広告などさまざまなメディアが使われる。そのため、メディアを活用して顧客にアプローチし、獲得するノウハウが蓄積されていく。通販企業の強みとは、そうやって磨かれたマーケティング力なのである。

RIZAPグループのM&A案件に多い(ジーンズメイトなどの)アパレルは、まさに彼らの得意分野である生涯価値(LTV)を重視したビジネスであり、マーケティングと顧客基盤を活用する戦略が機能する分野だ。

そして、スポーツビジネスである湘南ベルマーレの経営についても、まったく同じことが言える。

Jリーグが公表している各チーム運営会社の収益状況は押しなべて芳しくないが、RIZAPグループの場合、スポーツやダイエットに興味のある自社の顧客を流入させることで、観客数を増やすことができる。逆に、湘南ベルマーレのファン層に「RIZAP」や「RIZAP GOLF」などのサービスをクロスセルすることも可能となる。

買収後の統合を「買収前に」用意する戦略

2つ目は、「買収後統合戦略(PMI)」を実行できる体制が整っていることだ。

RIZAPグループの決算資料を振り返ると、過去には(投資回収が見込めなくなり)減損処理をした失敗の経験がある。その反省を活かして、最近では買収候補企業のデュー・デリジェンス(価値を適正に評価する手続き)の際に、買収後統合戦略の舵取りを誰が行うのか、舵取りをする人が最後まで責任を持って取り組めるかどうか「あらかじめ」明確にしているようだ。

日本企業によるM&Aの場合、買収を完了したところで満足してしまうケースが多い。本来はその先を見据えて、社内の誰がどのように買収先を管理し、成長させていくのかを決め、本社やグループ各社との連携も含めて、コスト管理やマーケティングの最適化などを行わなくてはならない。

投資ファンドなどの専門業界では「100日プラン」と呼ばれ、買収後の100日間で何をやるべきかを考え、実行するのが一般的な戦略だ。RIZAPグループのように、買収を行う前の段階から関係者を巻きこんだ上でM&Aを実施する戦略は、私がアドバイザーを務める企業では採られていない。先進的かつ徹底的な手法と言えるだろう。

快進撃の行く手を阻む二つの「死角」

湘南ベルマーレ

スポーツに関心の高いRIZAPの顧客を、湘南ベルマーレのファン層として取り込むことができるだろうか。

Getty Image

ここまで、RIZAPグループのM&A戦略に高い評価を与えてきた。しかし、手放しで賞賛しているわけではなく、実際には2つの死角があると私は考えている。

ひとつは、彼らがこれまで得意としてこなかったIT・WEB分野への投資の遅れだ。2018年2月、ゴルフ事業を通じてソニーと提携することを華々しく発表したものの、RIZAPグループ内でITやWEB関連サービスを開発した経験は、豊富とまでは言えない。

では、そうした経験や技術を持つ企業をこれまでのように買収できるかと言うと、実はそれはかなり難しい。

近年脚光を浴びている人工知能(AI)やビッグデータ、仮想通貨、拡張/仮想現実(AR/VR)に関連する企業の株式価値は非常に高いため、RIZAPグループがこれまで買収してきた企業の株式評価ルールは通用しない、もしくは買収後統合戦略が上手くいかない可能性が高い。

もちろん、さらなる提携を進めていくことでカバーできる部分もあるだろう。しかし、IT大手のDeNAが横浜ベイスターズの経営を手がけ、成功させてきたように、スポーツとゲーム、その他のITサービスとの連携を図りながら、自社内で有機的にサービスをつなぎ合わせることは難しいだろう。

もう一つの死角は、海外展開の遅れである。RIZAPグループは(「同じ船に乗る」資本提携であることなど)M&A戦略を固く定義しており、やむを得ない面もあるが、国内の人口減少によって市場縮小が急激に進むなか、海外進出の遅れは中長期的に大きなデメリットをもたらすに違いない。

リクルートホールディングスも、2012年にアメリカの求人サイト「インディード」を買収するまでは、国内企業の買収がメインだった。しかし、インディードの買収と買収後統合戦略に成功してからは、海外での市場シェア拡大が急激に進んでいる。

結論めいたことを言えば、RIZAPグループのM&A戦略はミスが少ない分、大きなリターンも生み出しにくいと言える。同グループがこれから飛躍的発展を遂げるためには、失敗しない実績を増やすだけでなく、失敗するリスクを負ってでも、IT業界や海外市場での買収戦略に乗り出していく必要があるだろう。


桂木 英一(かつらぎ・えいいち)M&Aコンサルタント。大企業からベンチャーまで、M&Aや事業承継など企業活動・戦略に詳しく、企業や投資ファンドのコンサルティングに携わってきた。

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