ファーウェイが発表したP20シリーズの上位モデル「HUAWEI P20 Pro」。
- 本体デザインは「iPhone X」を強く意識しているが、差別化されている点もある
- 「AI手ぶれ補正」により、手持ちでも夜景が美しく撮れる(数秒レベルの遅いシャッタースピードでも手ブレを軽減)
- 日本では実売価格10万円以下で登場するかが肝だ
世界のスマホ市場で出荷台数3位のファーウェイが、最新のフラグシップスマートフォン「HUAWEI P20」シリーズを発表した。海外の一部地域ではすでに販売が始まっており、日本市場でも発売を予定している最新機種だ。
ファーウェイのPシリーズは、同社がもうひとつのフラグシップとして展開する「Mate」シリーズに並ぶ最上位の製品ラインで、カメラとデザインにこだわった点が特徴。
その最新モデルは、果たして現行スマホ最高峰のiPhone Xを超えたのだろうか。上位モデル「HUAWEI P20 Pro」の実機レビューをお届けする。
単に“iPhoneと似ているスマホ”ではない
2017年11月発売のiPhone Xから、スマートフォンの正面をほぼすべてディスプレイで覆う「フルビュー」が業界のトレンドになっている。このデザインでは、正面カメラやセンサー部に「切り欠き」(ノッチ)が残ることが特徴で、ファーウェイもP20シリーズで採用してきた。
画面中央がP20 Proの「ノッチ」部分。iPhone Xの登場で、このデザインはアリ、という認識が広まった形。
とはいうものの、P20 Proは、iPhone Xの単なる後追いではない。中国メーカー各社がスマートフォンのカメラ性能を向上させる中、ファーウェイは老舗カメラメーカー・ライカと共同開発を進めてきた。その成果は、センサーやレンズの評価を行う「DxOMark」において、iPhone Xなどのライバル機に対して10ポイント前後の大差を付けたことに現われている。
そして、P20 Pro最大の見どころはカメラにおける人工知能(AI)の活用だ。ファーウェイは今回、AIによる画像処理を駆使することで、数秒間の露光撮影を手持ちで可能にするなど、従来のカメラの常識を覆してきた。この進化が続けば、やがて一眼レフに追いつき、追い越していく可能性を示したという意味でも、他のスマホカメラとは一線を画す存在になるかもしれない。
ファーウェイがP20シリーズを発表したパリは、芸術の都として知られてきた。だが最近では技術系のスタートアップが林立しており、発表会場となったギャラリーでもアートとロボットを融合した展示が催されていた。AIの力でカメラ性能の飛躍的な向上を狙うファーウェイが、その最新成果を披露する舞台としてパリを選んだことは偶然の一致ではなさそうだ。
デザインを一新、本体カラーも独特
P20シリーズを発表する、コンシューマー事業部門CEOのリチャード・ユー氏。
発表会に登壇したコンシューマー事業部門CEOのリチャード・ユー氏は、前モデルの「P10」から、P11ではなくP20へと大きくジャンプしたことに触れ、「中身が劇的に進化したからこそ、こう名付けた」と自信を見せた。
実機を手に取って、最初に目を引くのは本体の外装だ。前モデルのP10が「iPhone 7」を踏まえていたのに対し、P20はiPhone Xを強く意識したデザインではある。
iPhone X(左)とHUAWEI P20 Pro(右)。
iPhoneと明確に違うのはカラーリングだ。P20シリーズは、見る角度によって色合いが変わるグラデーションを「トワイライト」と「ピンクゴールド」の2色で採用してきた。ただし、実際に発売される色は市場によって異なるのが通例のため、日本市場向けのカラー展開がどうなるかはまだわからない。
緑から青、さらには紫へのグラデーションが美しい「トワイライト」。
一方で、やや残念なのはカメラの形状だ。P10までフラットだったリアカメラは、P20シリーズではiPhone Xのように、“しっかりと”出っ張る形になった。卓上に置いて安定させるには、カバーを装着する必要がありそうだ。
HUAWEI P20 Pro(左)のカメラは、iPhone X(右)のように出っ張る。
だが、カメラの中身はこの出っ張りを補って余りある進化を遂げている。順に見ていこう。
AIでカメラが進化、暗所でもブレ知らず
最近のスマホはカメラの性能向上が著しく、新製品が劇的な進化を遂げることは減っている。
そんな中でP20 Proでは、焦点距離違いの2つのカラーセンサー搭載カメラと、1つのモノクロセンサーという3眼カメラを搭載。さらにスマホを手持ちした状態で最大6秒のシャッタースピードで夜景を撮影できるという、驚くべき撮影機能を搭載してきた。ファーウェイは、この強力な手ブレ補正にAIを活用していると説明している。
実写を見ていこう。P20 Proの「通常モード」で夜景を撮影したところ、シャッタースピードは1/50秒になった。ネオンサインは明るく、逆に夜空は真っ黒に、くっきりと写っている。iPhone Xを始めとする最新スマホなら、多少の差はあっても似たような写真を撮ることは難しくない。
シャッタースピード4秒でもブレない夜間モード
P20 Proの通常モードで撮影(シャッタースピード 1/50秒)。
iPhoneXを使って同様の構図でオート撮影したもの。明暗差がかなり強いシチュエーションということもあり、電光看板部分が白とびしている。
次に、P20 Proの「夜間モード」で撮影してみた。するとシャッタースピードは「4秒」になり、街灯に照らされる都会の夜空や電線を表現できた。スマホを手持ちで撮影しているにも関わらず、ほとんど手ブレしていない点に注目してほしい。
P20 Proの夜間モードで撮影(シャッタースピード 4秒)。
先に挙げた通常モード(左)と夜間モード(右)の写真から等倍で切り出した。
いったいどういう仕組みなのか。内部的には、P20 Proが搭載するSoCの「Kirin 970」が持つAIプロセッサーを活用することで、複数の画像を合成するように動作しているようだ。ファーウェイは「光学式手ブレ補正」(OIS)を超える「AI式手ブレ補正」(AIS)と呼んでいる。
実際にはスマホを両手でしっかりと構える必要があり、絶対に手ブレしないというわけではない。
とはいえ、従来のカメラでは三脚などによる固定が必要だったような状況でも、P20 Proなら手持ちで簡単に撮れてしまうのは驚きだし、非常におもしろい。これまでのカメラの常識を覆す機能と言える。
「ハイブリッドズーム」の望遠撮影をチェック
次に、望遠撮影はどうだろうか。P20 Proの3眼カメラのうち、望遠用のカメラが光学3倍相当のレンズを搭載しており、複数のセンサーを組み合わせて5倍のハイブリッドズームに対応する。
いずれのレンズも単焦点式で、従来のカメラの光学ズームとは仕組みが異なるものの、カメラアプリでは最大10倍のデジタルズームまで任意の倍率を指定できる。
P20 Proで、左から1倍(35mm換算27mm)、3倍(同83mm)、5倍(同135mm)で撮影し、中央付近を切り出した。
今後のアップデートでは、肉眼を上回るほどの高感度撮影を可能にするISO感度102400に対応するという。ファーウェイはここでキヤノンのフルサイズ一眼レフカメラ「EOS 5D Mark IV」を引き合いに出してきた。他社のスマホを上回るだけでなく、一眼レフをも射程に捉えたいという野心がうかがえる。
P20 ProはISO感度102400にも対応予定となっている。
UIなど共通点は多いが細かく差別化している
iPhone Xとの共通点として、P20シリーズでは画面上部には切り欠き(ノッチ)がある。ユーザーからは賛否両論だが、ファーウェイはステータスバーを黒塗りにする機能を搭載してきた。見た目の違和感を大きく軽減できる改善といえる。
P20 Proの画面上部には切り欠き(上)があるが、設定で目立たなくする(下)ことも可能。
また、本体前面には前モデルに続き、指紋センサーを兼ねたナビゲーションキーを搭載している。P20シリーズの顔認証はiPhone Xの「Face ID」ほど強固なものではないという事情はあるものの、卓上での利用時やマスク着用時など顔認証が使えない状況でも、P20シリーズなら指紋センサーを併用できるのは便利だ。
本体前面のナビゲーションキーに指紋センサーを搭載する。
日本登場時の価格は10万円前後? キャリア展開にも期待
P20シリーズの日本市場での発売はいつになるだろうか。
ファーウェイの日本法人が概ね1年周期でモデルチェンジを発表してきたことを踏まえれば、前モデル「P10」が日本で登場した6月頃を期待したい。
欧州での価格はP20 Pro(メモリー6GB/ストレージ128GB)が899ユーロ(約11万8000円)で、P10世代の同スペックモデルから100ユーロの値上げとなった。欧州では約20%の付加価値税を含む表記が通例のため、日本市場では税抜で10万円を切るかどうかがターゲットになるだろう。
対するiPhone Xは64GBモデルでも1159ユーロのため、単純比較では260ユーロ以上の優位性がある。とはいえ、10万円のSIMフリー端末をポンと買える人は限られるはずだ。MVNO各社の割引施策や、大手キャリアによる採用があるかどうかが焦点になりそうだ。
(文、写真・山口健太)