「女性専用車両は“男性差別”」という声に鉄道会社はやれることはある——「毅然と対応」できない理由を聞いた

新学期、新年度になって、新たに電車で通学・通勤を始めた人も多いだろう。混んでいる満員電車に乗ることは誰でも憂鬱だが、特に女性の中には“恐怖”と感じる人もいるだろう。各路線とも女性専用車両を備えているが、この専用車両を巡ってもトラブルが起きている。

2月16日午前8時38分ごろ、東京メトロ・千代田線の国会議事堂前駅で電車が12分遅延した。女性専用車両に男性数人が乗車してトラブルとなったからだ。その現場に居合わせた女性は言う。

「周りの女性客が反対していたにも関わらず男性たちは降りませんでした。 駅員も彼らを降車させることはなくそのまま発車させたので、車内には男性グループと女性客のみが残されて、大きな恐怖を感じました。明らかにトラブルになっていて、男性グループが他の女性客に危害を加える可能性もあったのに……。せめて駅員には同乗してほしかったです」

女性専用車両に男性は絶対に乗ってはいけないという法的強制力はない。そのため女性専用車両に反対する男性グループが、拘束力がないことを確認するため「任意確認乗車」という名目で乗り込む事例が数年前から起きている。中には、女性が注意するとその様子を動画で撮影してインターネット上に掲載するケースもある。

SNSでも「女性専用車両は男性一般を痴漢予備軍扱いする不条理な存在」、だから「女性専用車両を尊重する男性に感謝の言葉を示し、女性専用車両のある時間帯には男性の運賃を割引くべき」「 間違えて乗ったとき恥ずかしいので位置などを工夫して欲しい」など不満の声が多く上がっており、痴漢被害から女性を守るために設置されたはずの女性専用車両が、一定の男性たちの憎悪の対象になっているのが現状だ。

東京メトロ

女性専用車両は“ずるい”ですか?“男性差別”ですか?

撮影:今村拓馬

「ご協力いただくよう促す」だけの鉄道会社

Business Insider Japanでは2018年3月〜4月にかけて関東や関西の鉄道会社17社に女性専用車両についてのアンケートを行った。回答があった7社のうち、冒頭のように男性が女性専用車両に強制力がないことや任意乗車であることを確認するなどの目的で乗り込んできたことが「あった」と回答したのは、東京メトロ、京王電鉄、東武鉄道、西武鉄道、JR西日本の5社。

その場合の対応は「降りるよう注意する、促す」「特に何もしない」「その他」のうち、降りるよう注意するのは2社、ただし強要はせず協力してもらえるように促していると補足があった。ほかの3社は「その他」でいずれも「理解と協力をお願いする」ということだった。

このような男性の行為を不安・不快に思う女性へのケアが必要だと思うかという問いに「必要」と答えた会社はなく、男性と同様、女性へも理解と協力を求めるにとどまった。

また、女性専用車両に痴漢防止の効果があると思うかという問いには、被害件数を把握していないため回答できないとした会社が多かった。

女性だって女性専用車両をなくしたい

痴漢抑止バッジ

痴漢抑止バッジ。この2年半で約6000個が配布・販売されている。

提供:痴漢抑止活動センター

一般社団法人「痴漢抑止活動センター」代表の松永弥生さんは、 2016年からデザインを学ぶ学生から公募して「痴漢抑止バッジ」を作ってきた。埼玉県・浦和麗明高校の生徒70人を対象に調査したところ、94.3%が効果を感じたという。現在はインターネットや南海電鉄のコンビニ「アンスリー」をはじめ、小田急線や相模鉄道沿線の売店、大阪府のあべのキューズモール店内の東急ハンズなどで販売している。自身も痴漢被害の経験者だという女性バイヤーが共感してくれて販路が広がった一方で、「痴漢が多い路線だと思われる」という理由から売店に置くことを断られることもあった。

「鉄道会社が今まで以上に痴漢対策に真剣に向き合い始めたという意識の変化は感じています。飲食店なら、分煙や禁煙に協力しない方の入店は断るでしょう。鉄道会社も、女性専用車両を設置した趣旨と目的を伝えた上で、毅然とした態度で協力を求めてほしいと思います」(松永さん)

実は、女性専用車両に反対する男性たちと同じように、松永さんも女性専用車両がなくなればいいと思っている一人だ。

「だって、本来はどこにいても安全が保障されているべきですから。でも現状は痴漢などの被害でそれが難しい。女性専用車両は女性の人権が蹂躙されていることの象徴です。女性専用車両をなくしたいなら痴漢防止の活動をすべきなのに、痴漢被害者の女性たちを怖がらせるようなことをするのはおかしいですよ」(松永さん)

女性専用車両や痴漢の問題は被害者である女性の口から語られることが多かったが、男性にも声を上げる人が出てきた。

東京メトロ

男性だからこそ、やるべきことがある。

撮影:今村拓馬

“男性差別”と言う前にやるべきことがある

「【拡散希望】【ヘイトリポートのお願い】 女性専用車両の乗り込みに関して、証拠となる音声、映像などをお持ちの方がいましたら、ぜひご提供ください。社会的キャンペーン、鉄道会社への働きかけなど一緒に闘っていくことが可能です!」

そうツイッターで呼びかけているのが、反レイシズム情報センター・ARIC代表の梁英聖(リャン・ヨンソン)さんだ。ARICは政治家の言動やサッカーの試合会場での差別発言や差別的行為を監視・記録し、情報発信するヘイトウォッチ団体で、2017年の衆議院総選挙では「政治家レイシズムデータベース」を公開し、話題になった。梁さんは、痴漢被害のトラウマに苦しむ女性たちが大勢いるにもかかわらず、そういう人たちの唯一の拠り所になっている女性専用車両に男性があえて乗り込むのは「明らかな女性差別で、さらなる差別を扇動する行為です」と断言する。

「被害者に寄り添ったりエンパワーメントするアプローチはこれまでもありました。いま欠けているのは加害者へのアプローチで、これは男性こそやるべきです。鉄道はインフラ、つまり社会はどうあるべきかということの縮図。自分は関係ないという考えは通用しません。痴漢や女性専用車両に故意に乗り込む男性を見たら阻止する、駅員を呼ぶ、 鉄道会社・国・自治体に痴漢など性暴力対策を要求するなど、男性ができるのにやっていないことはたくさんあります。それもせずに『女性専用車両は男性差別だ』と騒ぐのは、被害が見えていないか、女性を差別したいかのどちらかです」(梁さん)

インターネットやSNSで繰り広げられる激しい女性専用車両バッシングにも、疑問の声を上げてきた。

被害者が声を上げなくてすむようなルールを

女性専用車両が導入されたきっかけの一つが、痴漢を注意した女性が強姦された「地下鉄御堂筋事件」だ。梁さんが懸念するのは、男性グループが彼らを注意する女性の動画を撮影しネット上に掲載しているのは、この事件と同じように「抗議した人を組織的に攻撃し揶揄することで、さらに女性が声を上げにくい環境をつくり出したいのではないか」ということ。いま必要なのは、被害者が声を上げなくてもいい仕組みだ。

今後は以下の要請書を鉄道各社に出す予定だ。そのための署名集めも始める。


1.女性専用車両への男性(介助者など特別な場合を除く)の乗り込みを禁止し、明文化したルールとして定め啓発に勤めること。

2. 1のルールに違反した者に対しては、駅員や乗務員が降車を求めるよう定めること。また、加害者が降車措置に従わない場合、各地警察機関と連携し、強制力を持った対応を行うこと。

3.人種、民族、性などあらゆる差別を禁止し、明文化したルールとして定め、その撲滅を社会的に宣言すること。

4. 1〜3を実行するにあたり、駅員や乗務員に研修を行うこと。また適切な処置を取らなかった場合、職務規定違反とすること。

(女性専用車両乗り込みへの対処に関する要請書より)

「鉄道会社は、こうした男性たちの迷惑行為も女性差別だと認識し、ルールをつくってほしいと思います。電車内や駅構内という公共空間で差別を防止することは、日本も批准している女性差別撤廃条約や人種差別撤廃条約で義務づけられています。東京オリンピックで問題になる前に対処すべきです」(梁さん)

(文・竹下郁子)

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