売れる営業と売れない営業はこんなに時間の使い方が違う

私は、以前ABM(Account Based Management)を実施している組織で働いていたことがあります。ABMでは、全従業員に何にどれくらいの工数(時間)を使っているのかを記録してもらいます。その記録したデータを上手に分析すると、業績向上のヒントが見つかります。

営業(イメージ)

売れる営業と売れない営業の違いはどこにあるのか。

Shutterstock / UNIKYLUCKK

せっかくデータがあるのに活用しないと宝の持ち腐れです。そこで、私はまず、営業組織に着目しました。

自分自身が営業担当だった時に、好業績(=目標達成)営業担当と低業績(目標未達成)営業担当は、時間の使い方が違うのではないかと仮説を持っていたからです。売れる営業が効率的に仕事をしているように見える一方で、売れない営業は、無駄な部分に時間を使っているように見えて仕方がなかったのです。

せっかくなのでこのABMデータに加え、定性情報を付加するためにインタビュー調査も行いました。

業績と総労働時間は関連性がない

この営業組織の概要を説明すると、顧客は法人、顧客数は1営業担当あたり数十社、取扱商品は無形物(サービス)、取引単価は取引1回あたり、100万円弱くらいから1000万円強、営業担当の評価期間は半年。

分析により、とても特徴的な結果がでました。売れる営業と売れない営業の違いは、私の仮説通り時間の使い方で顕著でした。加えて、商談の見極め力にも、顕著に表れていました。これらはABMを使っていない大半の組織の参考になると思います。

(1)好業績営業担当と低業績営業担当の月次労働時間の比較

グラフ1

グラフ1は営業の好業績者と低業績者の月別の労働時間の比較です。6カ月間合計の労働時間はほぼ同じ。つまり労働時間と業績は関係がないようです。一方で、特徴的なのは、初月の労働時間だけ好業績者の方が長く、他の月は低業績者の方が労働時間が長いということです。

(2)好業績管理職と低業績管理職の月次労働時間の比較

グラフ2

グラフ2は管理職の好業績者と低業績者の月別の労働時間の比較です。営業担当者と同様、6カ月間合計の労働時間はほぼ同じです。つまり、営業担当だけではなく、管理職で比較しても労働時間と業績は関係がないようです。

ですが、管理職でも好業績の人は初月から3カ月目までの労働時間が長いのです。これは好業績営業担当と同様の傾向です。つまり前半に時間を使っているのかが分かります。

(3)労働時間を何に使っているのか

業績と総労働時間には関連性がないこと、さらに好業績の人は期間の前半に時間を使っていることも分かりました。では、どのような活動に使っているのでしょうか。

まずは、営業活動と納品活動のそれぞれで比較をしてみました。

グラフ3-1

グラフ4

グラフ3は営業活動を行っている工数(労働時間)、グラフ4は納品活動を行っている工数(労働時間)のグラフです。この2つのグラフを対比して見ると、最初の2カ月の労働時間の使い方に違いがあるのに気づきます。好業績者は「営業活動」に時間を使い、低業績者は「納品活動」に時間を使っていることが分かります。また、好業績者は期末の5カ月目、6カ月目に納品活動に工数を使っているのも分かります。

ここから2つのことが想定されます。好業績者は、期末に納品活動を行っているので、翌期の期の初めには、営業活動に時間を使うことができる。一方、低業績者は逆で、期末に営業活動を行っているので、どうしても翌期の初めに、納品活動を行わざるを得ず、結果として期初めの営業活動に割ける工数にしわ寄せがきているということのようなのです。営業活動に工数を割けないので、商談が後倒しになり、また同じサイクルを繰り返すことになるのです。

企画書作成よりも情報収集に時間を

(4)営業活動の中身を比較してみる

次に営業活動の中身を比較してみることにしてみました。こちらもとても興味深い対比となりました

グラフ5-1

グラフ6

グラフ5、6は営業活動のステップのどこに時間をかけているのかを示したグラフです。

営業活動の前半のステップである情報収集(アプローチやヒアリング)と後半のステップであるプレゼンにどれくらいの時間を使っているのかを比較しています。好業績者は営業活動の前半のステップである情報収集に、低業績者は営業活動の後半のステップであるプレゼンに工数をかけているのが分かります。

このグラフからは分かりませんが、詳細データを確認すると、低業績者はプレゼン準備の「企画書作成」に時間をかけ、好業績者は顧客への「実際のプレゼン」に時間がかけているのが分かりました。また好業績者は「車内打ち合わせ」に時間をかけているのも分かりました。

これで何となく見えてきました。好業績者は、営業活動の前半である情報収集に時間をかけます。当然顧客の課題も把握できます。これをもとに商談化するための「社内打ち合わせ」を行い、他の社内の専門家の力も借りて、企画を作っていけます。

一方の低業績者は、情報収集が十分ではないので、顧客の課題把握があいまいになります。結果、さまざまなケースを想定せざるを得ず、企画書作成に時間がかかることになります。また、課題把握があいまいなので、商談が実現する可能性も下がり、社内の協力も得にくくなっているのです。これによりさらに受注確度が下がり、悪循環が起きるのです。

大きな商談になる可能性があるかどうか

(5)商談の見極めが重要

営業(イメージ)

売れる営業は、情報収集を通じて「商談の見極め」を行なっている。

Shutterstock / dwph

好業績者と低業績者へのインタビューも実施しました。これもABMデータ分析の考察を裏付ける結果となりました。その中でも興味深かったのが、「商談の見極め」です。これは、好業績者インタビューのみから出てきた言葉で、低業績者のインタビューでは誰も触れなかったのです。

「商談の見極め」とは、その商談が大きな商談になる可能性があるのかどうか見極めることです。

好業績者は、情報収集を通じて、顧客課題を探り、その課題の大きさにより商談が大きくなるのかどうか見極めようとしているのです。自分だけでは判断できない場合は、管理職である上司の同行を依頼し、見極めようとします。ABMデータ分析でも、上司の同行は商談初期であるというこの発言を裏付ける結果が出ています。そして、商談初期で商談の大きさを見極め、それが大きくなる可能性があれば、社内の専門家とミーティングを行い、その企画提案精度を高めていきます。上司や専門家の協力も得ているので、受注確度も高まります。これにより社内の信頼も高まり好循環が起こります。

また、商談が大きくなる可能性が低いと判断した場合は、定型やパッケージサービスの提案に切り替え、営業工数や自分以外の社内工数を最小限にしようとします。

一方、低業績者の行動は異なります。商談の見極めが不明確なのです。顧客の情報収集が少ないので、顧客の課題把握も不明確です。当然、上司や社内の専門家の協力も得にくくなります。上司には、営業活動ステップ後半のプレゼンやクロージングで同行を依頼します。結果、受注になるケースもあるのですが、強引なケースも少なくなく、受注後の納品に時間がかかってしまいます。結果、翌期が始まっても納品にパワーを取られてしまうのです。

まとめ

私がいた組織はABMを導入していたのでさまざまな分析が可能でした。これらの分析を参考に、いくつかのプロジェクトが始まりました。

しかし、ABMを導入しないと何も分からないのでしょうか。

例えばグラフ1やグラフ2の月別の労働時間の数値は簡単に取れるはずです。期初と期末の労働時間を比較してみてください。期末ぎりぎりまで営業していると、期初である翌月に少しゆっくりしたいと思うのは人情です。しかし、前期末に強引に受注した納品業務があります。労働時間の減少と納品業務の増加で純粋な営業工数が減少するのです。これが後々に影響するのです。

それを避けるために、営業活動を標準化するのも効果的かもしれません。実際、ある外資系の営業組織では、初月アプローチ、翌月プレゼンテーション、3カ月目受注・納品を繰り返すサイクルをグローバルでやろうしています。

そして、もし従業員がスケジューラにスケジュールを入れているならば、簡易なABMも可能です。2週間ほど、アルバイトを雇って、何に時間を使っているのかをじっくり観察することでもデータ分析できます。両方とも実際にやったことがあります。

営業活動にはまだまだ科学による改善の余地がたくさん残っています。少しでも参考になったらうれしいです。


中尾隆一郎:(株)FIXER 執行役員副社長。大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、現職。(株)旅工房社外取締役も兼任。

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み