「漫画村」問題:「海賊版サイトブロッキング」はアリかナシか? 問題点はココにある

漫画村

一時、「漫画村」にはアクセスできない状態が続いていたが、4月11日14時前後から断続的にアクセスできるようになっている。

「漫画村」などの海賊版サイトを対象にした「サイトブロッキング」が話題になっている。

サイトブロッキングとは?

ISP(インターネットサービスプロバイダー)等が、ユーザーの同意を得ることなく特定のサイトへのアクセスを遮断する措置。

毎日新聞の報道によると、政府は月内にも犯罪対策閣僚会議を開催し、ISPに対する海賊版サイトのブロッキングの要請を正式に決定する見通しだ。

なお、一連の報道との関係は不明ながら、「漫画村」は4月11日午前には一時表示されない状態になっていたが、同14時前後から再び断続的に表示可能になり、不特定多数への公開が継続していることを確認している。

漫画村とは?

コミックスや雑誌などが読み放題で無料公開されている、大規模な海賊版サイト。著作権法に詳しい福井健策弁護士によると、公開されているコミックスや雑誌は7万点以上。またSimilarWebによると、2018年3月の月間訪問者数の推定は総計1億7439万人にのぼる。その95%が日本国内からのアクセスと見られる。2017年10月時点との比較では、訪問者数は5カ月で2.5倍に急増している。

なぜ今、サイトブロッキングが必要なのか?

内閣府知的財産戦略本部の資料によると、著作権侵害サイトを訪問するユニークユーザー数は月平均1520万人、閲覧数は正規版サイトの2.46倍であるとされる。

piracysite

福井弁護士は、「漫画村」などの海賊版サイトが違法と考えられるにも関わらず、これまで摘発できなかった理由について、以下の3点を述べる。

  1. 追及の難しい海外のサーバー上でサイトが運営されている
  2. 身元を隠してそれを運営できる技術が発達している
  3. 海賊版コンテンツにリンクを貼るだけの行為は、伝統的に適法と考えられてきた

その上で、「現場対策はほぼ手詰まり」「対象を明確に限定した(サイトブロッキングの)立法対応を進めるべき。それまでの間、被害甚大な海賊版サイトに限った緊急遮断もやむをえない」と語る。

コンテンツ企業大手カドカワの川上量生社長も2017年4月の知的財産戦略本部の委員会会合で、「サイトブロッキングがインターネット上の違法ダウンロードの防止策として究極的な方法」であり、「これ以外に根本的な解決方法がない」としている。

また、関係者とのやり取りから川上氏のものではないかと推察される正体不明のツイッターアカウントも、今回のサイトブロッキング要請の支持を表明。

なぜ問題になっている?

一方、SNS上を中心に、サイトブロッキングの導入に異を唱える声も多く出ている。以下が反対意見の主なものだ。

1. サイトブロッキングの明確な法的根拠がない

まず前提として、サイトブロッキングは憲法で保障された「通信の秘密」を、少なくとも形式的に侵害する行為だ。

現在までにブロッキングが認められたのは、児童ポルノサイトを対象とするケースのみ。その際は、違法ではないことを正当化する理由として「緊急避難」と呼ばれる刑法の法理が適用された。

「緊急避難」とは?

自分や他人に対する危難が差し迫っている状況で、その危難を避けるため、やむを得ずにする行為。

一方で、東京大学の宍戸常寿教授はBusiness Insider Japanの取材に対し「著作権保護を目的としたサイトブロッキングが“緊急避難”に当たるという解釈は許されないと語る

東京大学の宍戸常寿教授

東京大学大学院法学政治学研究科の宍戸常寿教授。

「著作権侵害の他にも(権利の侵害は)プライバシー侵害、名誉毀損などいろいろとある。分かりづらいものも多く、数が増えてくれば不当なブロッキングのリスクも大きくなる。そういったことを踏まえて全体として考えた時に、“緊急避難”という解釈が使える場合は極めて限定的だと言える」

「通信の秘密の侵害が違法であるという原則に対する例外である以上、人の命が害されることに匹敵するような重大な人格権の侵害があり、他に取りうる手段がないという場合にのみ“緊急避難”はできる」

しかし、前述の福井弁護士は、「現在危機に瀕しているのはクリエイターやそれを支える編集者の“生存権”とも呼べる状況。マンガ・アニメが生まれ続けるためにどんな実効策があるか、社会全体で知恵を出し合うべき」と指摘し、「緊急避難」としてサイトブロッキングを導入すべきと主張している。

2. 立法プロセスを経ていない

また、きちんとした法的手続きを経ず、政府の要請によってブロッキングが容認されてしまうことに警鐘を鳴らす人もいる。

宍戸教授は「立法過程を回避して、国民の基本的権利に関わる重要な問題について、自己の利益を通そう・あの人の利益を通してあげようというのは、それが美辞麗句で語られれば語られるほど、警戒をする必要がある」と述べる。

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)客員研究員の楠正憲氏‏も、サイトブロッキングをするならば法的手続きを踏むべきだ、とする。

経済産業省国際戦略情報分析官の境真良氏も以下のように述べている。

3. サイトブロッキング、実効性は?

サイトブロッキングの実効性そのものに疑問を投げかける人もいる。

前掲の知的財産戦略本部の資料によると、サイトブロッキングは2017年9月の時点で世界42カ国で導入されている。

2014年11月にカーネギーメロン大学で行われた調査では、53の海賊版サイトのブロッキングをしたことにより、ブロックされたサイトへのアクセスが90%減少し、正規版へのアクセスが6〜10%回復したというデータがある。

一方で、サイトブロッキングは回避が容易であるため、サイトの差止め請求、DMCA(デジタルミレニアム著作権法)に基づいた削除通知など、別の海賊版サイト対策をするべきだ、という意見もある。

元2ちゃんねる管理人の西村博之氏は以下のように語る。

なぜ今、サイトブロッキングなのか

今回の「サイトブロッキング論争」で未だ見えてこないのは、ここまで示してきたように、専門家の間でも議論が真っ二つに割れている状態にもかかわらず、誰がどのような目的で、ブロッキングの導入を急ごうとしているかだ。

前述の川上氏(ではないかと推察される正体不明の人物)と楠氏とのやり取りからもわかるように、出版社など当事者がどれだけの経済的損失を負っているかといった、問題の把握に不可欠な核心の情報も明らかになっていない。具体的な対策を打ち出すには、議論は生煮えの状況だといっても過言ではない。

自民党の赤池誠章参議院議員は4月2日のブログで、自らが所属する「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟(MANGA議連)」を通じて、「メディア芸術ナショナルセンター整備運営法」を今国会で制定したいと表明している。同議連は自民党の古屋圭司衆議院議員が会長を務める。

4月2日の産経新聞の報道によると、同センターの目的は「原画の海外流出、模倣品や海賊版の作成を防止し、保護する」ことだとされているが、同センターが今回のサイトブロッキング要請に何らかの関わりがあるのだろうか。

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(文・西山里緒、川村力、写真・西山里緒)

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