何が起きているのか? 写真で振り返る、7年を超えるシリア内戦の経緯

自転車に乗る男性

ダマスカス近郊の東グータ地区ドゥーマで、自転車に乗る住民。道に刺さっているのは、爆発したクラスター爆弾の残骸とみられる(2015年11月5日撮影)。

Reuters

アサド政権による化学兵器の使用が疑われる攻撃をきっかけに、7年に及ぶシリア内戦に改めて国際社会の注目が集まっている。

最大50万人が命を落としたとされるこの紛争は、第二次世界大戦以降、最悪の難民危機をもたらした。多くの都市やインフラが破壊され、その再建には2000億ドル(約21兆4000億円)が必要との推計もある。

アサド政権に対する抗議デモから始まった一連の動きは、内戦へと転じ、数十カ国が直接的、間接的に関係する本格的な軍事衝突へとエスカレートした。シリア国内も、数百の武装集団、4つの主要勢力が争っている。

戦いに収束の兆しは見えない。

以下、シリア内戦のこれまでを振り返る。


2011年春、「アラブの春」として知られる民主化運動が中東の国々を揺るがした。シリアでは、学校の壁に革命を求める落書きをした10代の若者たちをアサド政権が拘束・拷問したことで抗議デモが起きた。これらのデモは平和的なものだった。

デモ

自由シリア軍のスローガンを唱える人々。少年がメガホンを手に参加者を率いている(シリア、アレッポ)。

Andoni Lubaki (Associated Press)

Source: BBC

こうした抗議活動を鎮圧するため、政府軍はデモ行進や座り込みをする人々に向かって発砲し始めた。政府によって数百人が殺されたことで、当初、市民の権利拡大を訴えていた抗議デモの参加者たちは、アサド政権の打倒を求めるようになった。

壁に貼られたアサド大統領のポスター

AP

Source: The Guardian

暴力の連鎖が続く中、反政府勢力を支援すべく、シリア軍の元兵士らが自由シリア軍を結成。他にも、さまざまなイデオロギーや忠誠心を持つ武装集団が次々と生まれた。これらの勢力が、ホムスやアレッポといった主要都市を手に入れようと戦いを繰り広げた結果、2011年末までに本格的な内戦へとエスカレートした。

一服する自由シリア軍の兵士

武器を抱え、タバコで一服する自由シリア軍の兵士。ダマスカスの郊外、東グータ地区のオタイバの前線近くで(2013年8月15日撮影)。

REUTERS/Mohamed Abdullah

Source: BBC

2012年までに、反政府組織とシリア政府軍の戦闘は市街戦へと発展し、多くの死者や避難民を生んだ。

大統領に忠誠を誓う武装組織

アレッポのシャイフ・サイード地区で、破壊された建物の脇を通り過ぎる、アサド大統領に忠誠を誓った武装組織の兵士。メディアツアーの途中で撮影。

Omar Sanadiki/Reuters

Source: BBC

内戦が続く中、アサド政権が人口密集地を標的とした攻撃に毒性の高い化学兵器を使い始めたとの疑惑が浮上。中でも、2013年のダマスカス近郊でのサリンを用いた攻撃では、1000人以上の死者が出た。これは、アメリカのオバマ大統領(当時)のいわゆる「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えるものであり、その後、ロシアの仲介によってアサド政権は備蓄していた化学兵器の廃棄を表明した。

負傷者を運ぶ人

ダマスカス近郊の東グータ地区ドゥーマで、負傷者を運ぶ住民。2015年10月29日、アサド大統領に忠誠を誓う武装組織が病院を空爆したという。

Reuters

Source: Business Insider and Washington Post

反政府勢力の制圧を目指すアサド政権が、重火器やたる爆弾(爆薬と金属片や釘などを詰めたたるをヘリコプターから投下する)を使い始めたことで、都市部と地方の両方で犠牲者はさらに増えた。

負傷者を運ぶ人

アサド大統領に忠誠を誓う武装組織によるものとされる、たる爆弾の攻撃を受け、負傷者を運ぶ住民たち。イドリブの南、マアッラト・アン=ヌウマーンで撮影(2015年6月8日)。

REUTERS/Khalil Ashawi

Source: BBC

2016年は、シリアの子どもたちにとって過酷な1年となった。多くが命を落としたり、家族と離れ離れになったり、難民キャンプで足止めされた。

子どもたち

スロベニア国境で、オーストリアのシュピールフェルトへの入国を待つ移民の子どもたち(2016年2月16日撮影)。

REUTERS/Leonhard Foeger

Source: UNICEF and Business Insider

2017年までに、内戦によるシリア国民の死亡者は45万人を超えた。「シリアでわたしが目の当たりにしている人的被害の大きさは、まさに他に類を見ないものだ」国連難民高等弁務官(当時)のアントニオ・グテーレス氏は述べた。

救出

アサド大統領に忠誠を誓う武装集団によるものとされる、たる爆弾による攻撃を受け、倒壊した建物の下から少年を救出するアレッポの住民。

REUTERS/Hosam Katan

Source: I Am Syria and Al Jazeera

内戦が長期化する中で、「ISIS(イスラム国)」やアルカイダの関連組織「ヌスラ戦線」といったイスラム過激派も台頭。内戦の混乱に乗じて、シリアからイラクにかけての広大な地域を掌握した。

パレード

シリア北部のラッカで行われた軍事パレードで、自動車に乗り込み、旗を掲げるイスラム系武装組織の兵士たち(2014年6月30日撮影)。

Reuters

Source: BBC

反政府組織やテロリスト集団の台頭によって、アサド大統領が劣勢に立たされる中、レバノンの武装組織「ヒズボラ」はアサド大統領支持の立場で内戦に参加。数千人のヒズボラの兵士たちが国境を越え、ISISや反政府組織と戦った。

ヒズボラ

レバノン南部で行われた、反政府勢力との戦闘で死亡した兵士の葬儀で、ヒズボラの旗を掲げるメンバー(2015年5月26日撮影)。

Reuters

Source: Modern Diplomacy

イランからヒズボラに高性能兵器が渡ることを懸念したイスラエルは、シリア国内のヒズボラやその他のイラン関連の拠点を標的に、たびたび空爆を実施した。イスラエルは自らの関与の有無を明かしていないが、内戦が終わった後にヒズボラ、イラン、シリアがどのような対応を取るのか、不安視されている。

F-16

イスラエル南部のエイラート近郊のオブダ空軍基地を飛び立つイスラエル空軍第115飛行隊(別名「フライングドラゴン」)のF-16戦闘機。2017年11月8日、多国籍演習「ブルーフラッグ2017」で撮影。

AP Photo/Ariel Schalit

Source: Washington Post

長引く内戦によってシリアの荒廃が進む中、戦いはアメリカとロシア、イランの間の代理戦争へと発展した。アメリカはアサド政権を非難し、同政権と戦う「穏健派」の反政府組織を支持。ロシアの空爆と、イランが支援する武装勢力は、アサド政権軍を支えた。

空爆

Russian Defense Ministry

Source: Al Jazeera

国連の報告書は、アサド政権と反政府組織の両方が、重大な人権侵害に加担していると指摘する。

救出

2015年3月7日、アサド大統領に忠誠を誓う武装組織によるものとされる空爆の後、がれきの下から負傷者を救出する住民たち。ダマスカス近郊の東グータ地区ドゥーマで撮影。

REUTERS/Bassam Khabieh

Source: United Nations

ロシアは、アサド政権に武器の供給を続け、パルミラやアレッポといった主要都市では2017年に入っても戦闘が続いた。6年にわたる絶え間ない空爆や戦闘は、シリアのインフラや社会に取り返しのつかない打撃を与えた。

破壊された街

2014年11月20日に撮影されたこの写真は、シリア北部コバニのISISの支配下にある地域を捉えたもの。手前に見えるのは、Qada Azadiの円形交差点。街は荒れ果て、建物は破壊されたものの、住民らは街を守ろうと団結、ISISの進軍を食い止めるべく、2カ月以上にわたって粘り強く戦った。

Jake Simkin/AP

Source: The Washington Post

2017年4月7日、アサド政権はイドリブの町で再度、化学兵器を使用したと考えられている。この攻撃で、10人の子どもを含む少なくとも70人が死亡した。

犠牲になった子どもを運ぶ男性

犠牲となった子どもの遺体を運ぶ男性。救助隊によると、反政府勢力の支配下にあったイドリブの町ハーン・シャイフーンが攻撃の標的だったという。

Thomson Reuters

Source: Business Insider

これに対し、アメリカのトランプ大統領は、アサド政権側の戦闘機が化学兵器を積んだとされる飛行場に巡航ミサイルを発射。2011年に内戦が勃発して以来、アメリカがシリア政府を攻撃したのはこれが初めてだった。

トマホーク発射

地中海に派遣されていた米海軍の誘導ミサイル駆逐艦「ポーター(DDG-78)」から、巡航ミサイル「トマホーク」が発射される様子(2017年4月7日、米海軍提供の動画からの静止画像)。

Mass Communication Specialist 3rd Class Ford Williams/U.S. Navy via AP

Source: Business Insider and Newsweek

西側諸国が政治的影響力をめぐって争う一方で、多くのシリア人家族が痛めつけられ、殺され、あるいは住む場所を追われ続けている。500万人近くが難民として国を逃れ、40万人以上が難民キャンプの中で待たされている。

国境の手前で待つ人々

シリア内戦は、難民危機をもたらした。

REUTERS/Kadir Celikcan

Source: United Nations

ISISの脅威は弱まったものの、非公式の停戦協定を結んだ武装組織の間では小競り合いが絶えず、その一部は公然と戦闘を再開した。2018年1月、トルコは「オリーブの枝作戦」という、シリアのクルド人勢力が支配するアフリン地区からクルド人勢力を追放し、他の勢力で置き換えるための軍事介入を始めた。

トルコ軍

ブルサヤ(Bursayah)の丘を制圧するトルコ軍部隊。この丘は、クルド人が支配し、周囲から孤立するアフリンと、トルコの支配下にあるアザーズの境に位置する。2018年1月28日撮影。

Associated Press

Source: Al Jazeera

2018年2月7日、米軍の空爆により、シリアの親政権部隊(ロシアの傭兵とも報じられている)の最大200人が死亡した。この空爆の前には、アメリカが支援するクルド人勢力とアメリカ人アドバイザーたちが、ユーフラテス川の対岸から攻撃を受けていた。

T-72型戦車

米軍による空爆で破壊される直前の、「親政権部隊」のT-72型戦車。ロシアの傭兵が乗っていたとみられる。

U.S. Air Forces Central Command Public Affairs

Source: Business Insider

2018年2月10日、イスラエルは自国領空に侵入したイランのドローンを撃墜した。イスラエルは報復として、シリア国内にあるイランおよびシリアの軍事拠点に空爆を行った。すると、シリアはイスラエルの領空を飛行中だった同国のF-16戦闘機を撃墜。さらなる報復は、ロシアのプーチン大統領がイスラエルのネタニヤフ首相に電話をかけ、自制を求めたことで回避された。

撃墜されたF-16

イスラエルのHardufの村の付くに墜落したイスラエル軍の戦闘機F-16の残骸を検分する治安部隊。

Thomson Reuters

Source: Business Insider

シリアの内戦は終結していないが、新しい段階に入りつつある。ISISが弱体化した一方で、ヒズボラ、イラン、ロシアの支援を得たアサド大統領は、反政府組織の支配下にあった地域の大部分を奪還した。ただ、シリアで第2の勢力となっているクルド人主体の「シリア民主軍(SDF)」がシリア政府に合流するかどうかは定かでない。

地図

2018年3月時点のシリア国内の勢力図。赤はシリア政府、黄色はSDF(クルド人)、緑は無数の反政府組織、黒はISIS、白はタハリール・アル・シャームの支配地域。

Wikimedia commons

内戦はまた、第二次世界大戦以降、最大の世界的な難民危機をもたらした。内戦前のシリアの人口の半数近くが、国内で住む場所を追われるか、難民として中東やヨーロッパ、北米に渡っている。

難民や移民であふれるボート

ギリシャのレスボス島に到着した、難民や移民であふれるボート(2015年11月10日)。

Thomson Reuters

Source: Unicef

2018年4月8日、シリアの反政府活動家や支援団体は、ダマスカス近郊の反政府勢力の支配下にあるドゥーマで、再び化学兵器が使用されたと主張している。この攻撃により、子どもを含む数十人が死亡した。

治療を受ける子ども

ダマスカスの中心部から10キロメートルほど離れたシリアの街ドゥーマで、化学兵器が使用されたと思われる攻撃にあった子どもたちが治療を受けていた(2018年4月8日)。

Screenshot/The White Helmets

Source: NBC

この攻撃に、西側諸国は激しく反発。アメリカのトランプ大統領はシリアのアサド大統領を「けだもの」と呼び、「大きな代償を払う」ことになると警告した。一方、イスラエルは約2カ月前と同じく、シリア中部のホムスに近い、T4と呼ばれる空軍基地を空爆したと報じられている。

からだを洗う男性

シリアの街ドゥーマで、化学兵器が使用されたとみられる攻撃の後、からだを洗う男性。ロイター通信が2018年4月8日に入手した動画からの静止画。

Helmets/Reuters

その2日後の4月10日、国連安全保障理事会の「シリアで化学兵器が使用されたとされる攻撃について調べ、責任の所在を明らかにする」調査機関の設立に関する決議案は、ロシアが拒否権を行使し、否決された。しかし、化学兵器禁止機関(OPCW)は、シリア政府とロシア政府が、現地調査団を招待したと述べている。

安保理

ニューヨークの国連本部で開催された、シリアに関する国連安全保障理事会の様子(2018年4月9日)。

Reuters

Source: NPR

翌11日、アメリカのトランプ大統領はツイッターで報復攻撃の用意があるとロシアに警告した。「ロシアはシリアに向けて飛来するいかなるミサイルをも撃墜するとしている。だが、性能の良い、新しくて『スマート』なミサイルが飛んでくるので、備えた方が良い!」トランプ大統領はツイートした。「ロシアは、ガスで国民を殺してそれを楽しむようなけだものと手を組むべきではない!」

トランプ大統領

トランプ大統領。

Evan Vucci/AP

Source: Business Insider

[原文:Syria's civil war took another deadly turn this weekend with a suspected chemical attack — here's what's happened over 7 years of conflict]

(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:山口佳美)

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