最大の無駄は「割りもめ」。政治家と官僚の関係は変えられないのか

「時給はマック以下」「割りもめ」。霞が関独特の慣習が、官僚の働き方に影響している。Business Insider Japanは2018年3月〜4月にかけて、官僚の働き方のアンケートを実施。生々しい実態を回答してくれた4人に話を聞いた。

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官僚のアンケートに答えた回答者らが明かした職場の実態とは。

「月300時間残業。時給換算すると800円」

30代の経済官庁勤務の男性は、以前所属していた部署で、残業(定時の7時間45分を超える勤務時間)が毎月平均100時間、繁忙期は150時間を超えた。「法改正に関わる時は、月200時間が当たり前、300時間もありました」。男性は強烈な腹痛を覚え、ついに倒れた。

入省1年目から残業は月100時間超えを経験したが、「張り合いもあって、耐えられました」。スキルや能力も身につき、仕事は楽しかった。 ただ、職場環境が過酷だった。倒れた時は、月に200時間以上の残業が4〜5カ月続いた。

当初は本給・残業代を合わせて手取りは30万円ほど。時給に換算してみると、「800円から900円くらい。マクドナルドより低くて、(全国的な)最低賃金以下じゃないか、と。未払い残業代(編集部注:国家公務員の残業代は、国の予算で決められているため、サービス残業が発生する)を請求すれば、マンションの頭金くらい作れるんじゃないか、と思いますけど」

明け方に答弁書セット、7時半からレク

アンケートでは回答者の9割がほぼ毎日残業をしている実態が明らかになった。残業の原因(自由記述)は、回答者の半数近くが「国会議員対応」を挙げ、9割が政治家からの要求が働き方に影響しているという回答している。

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男性の場合、無茶な要求をする政治家に当たったことは少ないが、中には「議員に呼ばれ、理不尽に怒鳴り散らされる上司や、長時間持論を述べられる先生(議員)」がいたり、暗に「俺の県の(議員が関係した事業の)採択率はどうなっている」と言ってくる政治家もいたりする。

長時間労働の原因とされる「国会対応」で大きいのは、国会議員からの質問通告待ちだ。議員は事前に質問内容を各省庁に教え、それを見て、職員たちは事前に閣僚の答弁書を作る。

深夜作業は非効率、答弁も充実しない

議員からの質問通告が出てくるのが、質問前夜。政治家のSNSやホームページを見て、「先生はこういう分野に関心がおありなのかな?」と事前に情報を収集しておくこともある。

夕方に「今出張帰りの新幹線、明日の国会質問を考えます」とつぶやく議員のツイッターを見ると、「つぶやきはいいから、早く質問通告を出してほしい」と内心思う。 答弁書を書く補佐、係長レベルは午前4時、5時に答弁書をセット、「自宅に帰って30分、目をつむって、午前6時過ぎの電車に乗り、午前7時半から答弁者にレクを始めます」。

答弁書には参考資料が何ページも付いている。

「(徹夜で作業をすれば)言い訳できませんが、何らかのミスは起こりえますよね。限界はあります

男性は、せめて質問通告を前日の正午や2日前にしてくれれば、と願う。

直前に膨大な資料を作成するのは、一番効率が悪い。その時間帯に6、7時間も残業させているのがよくない、答弁もデータも充実しない」。

最大の無駄は「割りもめ」

官僚

霞が関の独特の慣習が、働き方に大きく影響している。

国会対応をより複雑にし、「最も無駄」と言うのが、各省や省内の「割りもめ」と、20代の経済官庁と30代前半の財務省勤務の男性2人は、口をそろえる。

議員から質問主意書や質問通告が出されれば、「各省、省内で割りもめすることがあります」(経済官庁の男性)。割りもめとは、どこの省庁、省内のどこの課が、どの質問箇所を担当するか、を割り振る際にもめること。

ある課が積極的に引き取れば、「前例ができて、今後は全部その課に割り振られる」から、質問主意書の文字数や質問の仕方によって、主体はどこなのかを慎重に判断する。

財務省の男性も、「結局、ギリギリまで担当が決まらないと、どちらの課も準備をしています。総理答弁になると、官邸の審査が入って、そこまで遅くなれないので」。

ただでさえギリギリのスケジュールで質問が出てくる中、1時間近く割りもめをすることもある。「割り振りは、係長で話し合って決めます。罵倒しあう時もある。一度、担当すると、前例になるので。政府として答えることになるので、責任がある」。慎重にならざるを得ない理由もある。

すべての業務が一瞬でストップ

「国会対応」は広く、「国会議員対応」と言い換えられる。前出の20代の経済官庁の男性職員は、「レク対応」「資料要求」「質問主意書」「国会の想定問答」の4つが主な国会対応だと説明する。それぞれの場面で、通常業務はストップする。

議員から質問主意書が出されれば、基本的には7日以内の回答しなければならない。「*質問主意書が来たら、すべての通常業務はストップします」(経済官庁の男性)。資料要求で、例えば、何かについて過去30年分のデータを要求されれば至急対応、1時間で準備をすることもある。「要求は紙ペラ1枚。新聞に(関連の話題が)載ったりすれば、こういうのが連発される日があります

*質問主意書とは:国会議員が国会会期中に、議長を通じて、文書で内閣に質問できる。この文書のことを指す。内閣は原則7日以内に回答する。近年、議員からの提出件数は増加傾向にある。

国会の想定問答については、前日に「国会待機」のシフトが組まれる。当番者は、常駐者と国会連絡室に朝から詰める。

この男性によると、連絡室では、国会での質問準備をする議員の秘書からの電話がひっきりなしに鳴る。担当者は、なるべく省内に仕事が回らないように、その電話で返答をしたり、別の省庁へ照会したりする。 担当が決まれば、職員が議員や秘書にレクに赴く。そこで聞き取った内容をもとに、翌日の想定問答づくりが始まる。 時間はすでに午後5時、遅いと午後10時などもザラだ。

前日と同じ質問を別の議員が繰り返したり、たとえ実際には質問をされなかったりしても、同じ作業をしなければいけない。

行政サイドも根回しが前提

国会

どれだけ野党が法案や予算案に反対をしても、結局は行政と政治家の根回しが事前に済んでいて、閣議決定の前に修正されることはほとんどない。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

どうしたら効率的で生産的な仕事ができるか。

「予算に縛られない柔軟な人員の配置」「質問通告の期限を設ける」という意見のほかに、前出の20代の経済官庁の男性は 、「官僚の政治家との付き合い方を変える必要がある」と話す。例えば、イギリスでは官僚と政治家が日本のようには接触できない仕組みになっているようだ。「日本は政策立案で政治家が、行政側に、おんぶに抱っこなんです」と話す。

一方、男性は、円滑に国会運営を進めるため、行政の側が政治家との事前調整を求めている相互関係も認める。

「政治家と行政の付き合いがなくてもいいと思いますが、予算も法案も根回しが前提です。多くの内閣提出法案が修正なく国会で成立するのは、閣議決定前に自民、与党の総務会で全員一致で了承された後に出しているから。議員と官僚が接触しないことは理論上あり得ますが、具体的にはどうすればいいのか、想像がつきませんね」 (前出の財務省の男性)

退職考えても「同じような仕事できる職がない」

取材に応じた職員たちは、職場環境への疑問を抱きながらも、それぞれ志を口にする。

ある30代の外務省職員の男性は、「なぜ(議員に)ここまで対応するの?」と、入省して間もないころ、省内の国会対応を総括する課に尋ねた。すると、「個別の資料要求に対応するのは法的な根拠はないが、便宜の供用として対応している」と言われ、男性は「切ない思いをした」と言う。

「自分のしていることが何か役に立っているか」。男性は 何度か退職を考えたことがある。共働きの妻と幼い子どもを育て、「妻に負担をかけていると思うと……」。転職が頭をよぎるが、外交の業務に憧れて入り、「同じような仕事ができる職種があるか」というと、なかなか見つからない。

前出の20代の経済官庁職員の男性も、「日本全体のパワーとなれればと思って入省したころもあり、仕事をしている中で、国家、国民のことを常に考えますし、考えざるを得ません。やりがいもあると思っています。いつまでも魅力的で辞めたいと思いませんが、環境は改善してもらいたいです

就職活動が真っ盛りのこの時期、各省庁も民間企業と同様に、就活生向けのセミナーを開いている。

「民間とは、仕事の目的・性質が違うので、入省する人は、働き方があまり検討の中に入らないと思う」(財務省勤務の男性)

ほかには変えがたい仕事の内容。官僚たちの志を生かすためには。官僚の働き方に強く影響を及ぼす政治家はどう思っているか。

ある国会議員は「(政治家の働き方の)しわ寄せは現場の官僚に及ぶ」と明かす。


Business Insider Japanは、政治家と官僚の仕事のあり方を、現役の国会議員に直撃した。その全容を、近日公開する。

(文・木許はるみ、取材・木許はるみ、室橋祐貴、撮影・今村拓馬)

編集部より。初出時、「各法案が修正なく、閣議決定されているのは、閣議決定前に自民、与党の総務会議で了承してから出しているから」としておりましたが、正しくは「多くの内閣提出法案が修正なく国会で成立するのは、閣議決定前に自民、与党の総務会で了承された後」の誤りです。訂正致します。2018年4月18日11:05

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