「記者ゼロの総合通信社へ」AIで報じるJX通信社がテレ朝、フジから資金調達

「記者ゼロの通信社」として注目を集めるJX通信社は4月12日、第三者割当増資による”数億円規模”の資金調達を公表した。引受先となったのは既存株主等に加え、テレビ朝日ホールディングスとフジ・スタートアップ・ベンチャーズ。

朝日新聞社には関連会社としてベンチャー向けのファンドを持つ「朝日メディアラボベンチャーズ」があるが、今回の出資元はテレビ朝日ホールディングス。近年はベンチャーへの投資の実績はないという。

JX通信社は、一般消費者向けのニュース速報アプリ「NewsDigest」や報道機関向けのAIによる緊急速報サービス「FASTALERT」、世論調査の自動化などを提供している。通信社と名乗っているが、記者はゼロ。SNS上に流れる事件・事故などの投稿を自動で収集・判別し、速報などを配信するサービスなどを展開している。

JX通信社

JX通信社は「通信社」とうたっているが、記者は一人もいない。社員の約7割がエンジニアであるテクノロジーカンパニーだ。

出典:JX通信社

AIを使った速報配信サービスには競合も存在するが、今回の民放2局からの出資によって「決着が着いたのではないか」とJX通信社の米重克洋社長(29)は語る。

実際、前回の取材時点(「”記者ゼロ”AIで報じる「JX通信社」29歳社長が見据えるニュースの産業革命」)では「地方のテレビ局は一部だった」が、2018年度(2018年4月)からテレビ朝日系列をはじめほとんどの地方テレビ局がFASTALERTを導入。

「FASTALERTは、全ての在京キー局、NHKを含む全国の大半のテレビ局で利用されており、テレビに関してはデファクト(スタンダード)と言ってもいい状態になっている」という。

他方、今回新たに株主に加わったフジ・スタートアップ・ベンチャーズの佐藤勇一氏は出資に至った理由について、事業上のメリットを挙げる。

「既にフジテレビの報道局でFASTALERTを使っていて、十分役立っていたが、報道の機械化というのはまだ始まったばかり。今後さらにユーザー、そして株主の立場からサービスを改善することで、より早く、正確な情報を視聴者に届けていきたい」

また、テレビ朝日ホールディングスの担当者は、「報道機関にとって、インターネット上の情報・画像・動画を探索・検知する能力は今後ますます重要になってくると考えている。こうした分野において高い技術力を有するJX通信社と連携を深めるため、この度資本参加させていただいた」と語る。

今後の展開としては、AIを使った記事の自動生成や、統一地方選挙や参議院選挙が控える「選挙イヤー」の2019年に向けて、各報道機関との連携強化を模索する。

「まだ具体的に決まってはいないが、テレビ局との情勢調査の共同実施も検討している」(米重氏)

前出の佐藤氏も「現場レベルでやりたいことはたくさんある」という。

「例えば、選挙時にJX通信社が実施した世論調査で、混戦が予測される選挙区があれば、そこで出口調査を実施するなど、より効率的な動きができるのではないかと考えている」

JX通信世論調査

JX通信社が世論調査を実施した2017年衆院選では、対象の選挙区全てで予測を的中させた。

出典:JX通信社

新しい時代の総合通信社へ

JX通信社の既存株主には共同通信社や日本経済新聞グループのQUICKも存在していたが、今回民放2局が新たに加わったことで、全国の新聞やNHKが共同出資する共同通信社のような、横断的な総合通信社としての性格が強化できたのではないか、と米重氏は語る。

「通信社は運営や報道面で、業界を横断的に支えている。JX通信社は、記者も支局もいないが、テクノロジーで通信社のようなビジネスを再現していきたい」

JX通信社のビジョンは「ビジネスとジャーナリズムの両立をテクノロジーで実現する」こと。

前回の取材で米重氏は、報道産業の未来について「機械でできることは徹底的に機械が担い、人間は人間にしかできない部分をやる」と語り、記事作成のプロセスを機械化することで「ニュースの産業革命」を起こしたいと言っていたが、今回の資金調達によって、テクノロジーを活用した「新しい時代の総合通信社」へまた一歩近づいた。

(文・室橋祐貴)

※この記事は10時40分に情報を追加しました。

編集部より:初出時、テレビ朝日ホールディングスによるベンチャーへの投資は初という旨の記述がありましたが、正しくは近年におけるベンチャーへの投資実績はない、でした。お詫びして訂正致します。 2018年4月12日 12:00

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