「手はハンドルに」では何のため。事故相次いだ自動運転の本質を問う

自動運転に関係する事故が相次いでいる。

3月18日には、米アリゾナ州でウーバー・テクノロジーズの自動運転車が走行実験中に歩行者の女性をはねて死亡させた。3月23日には、カリフォルニア州でテスラのオートパイロットシステムを搭載した「モデルX」が、高速道路の中央分離帯に激突し、ドライバーの男性が死亡した。

テスラは、「死亡事故を起こした当時、車はオートパイロット作動中だった」と発表している。また、「複数回、ハンドルから手を離さないよう車が警告したが、ドライバーは6秒間手をハンドルから離していた」とも述べている。すなわち、テスラも、いざという時にはドライバーがハンドルを握り、危険を回避することを前提としているようだ。

人間が運転環境に戻るには3〜17秒必要

トヨタ車以外のハンドルに手を少し離して自動運転している様

自動モードからすぐに人間にバトンタッチはできない。

Shutterstock/chombosan

ドライバーによる介在が必要な自動運転は「レベル3」だ。アメリカの「コンシューマー・レポート」によれば、人間がいったん周辺注意から気をそらした場合、再びドライバーとして周辺状況を認識し、運転に集中できるようになるまで、3秒から17秒が必要という。事故を起こすには、十分な長さだ。

つまり、人間がドライブをいつでも再開できるようにするには、自動運転中も常に周辺に注意をして、バトンタッチをいつでも受けられる状況でなければならない。よって、オートパイロット走行中の「手はハンドルに」は当然かつ重要な警告である。

日本政府は3月30日、「自動運転にかかわる制度整備大綱」を発表し、自動運転中の車の事故について、原則として賠償責任は車の所有者に負わせるとした。これは、「レベル3」までの自動運転についての方針で、「レベル4」(一定の環境、条件下での自動運転)や「レベル5」(完全な自動運転)に関しては、今後検討するとしている。

個人的には、「レベル4」だろうが「レベル5」だろうが、賠償責任は人間だろうと考える。それは、ドライバーが自動運転を選択して、システムに運転を「委託」するからだ。いずれにしても、法的にも当面は「自動運転中も手はハンドルに。目は周辺に」というのは、変えられないだろう。

自動運転は本当にありがたみがあるのか

トヨタ車以外の自動運転車外観やデモの様子

悲惨な事故を防ぐためにまずはどう技術を活用できるのか議論をすべき。

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しかし、そんな自動運転システムは、搭載する意味があるのだろうか。「自分で運転した方がまし」という声が聞こえてきそうである。少なくとも「レベル3」程度では、「自動運転」ということのありがたみはほとんどない。

では、「何のための自動運転か」という点については、もっと本質的な議論がされてもいいはずだ。

実際、居眠り運転などによる悲劇的な事故は後を絶たない。飲酒運転による事故も多くは、居眠りが原因である。

「小学生の列にクルマが突っ込む」「深夜のスキーバスが蛇行し崖から転落。学生が多数死亡」「国道で対向車線に進入して正面衝突」「高速道路でバスがサービスエリアに猛スピード進入、駐車中のクルマを次々にはね飛ばす」—— 。

こうした嘆かわしい事故はいっこうに減らない。その多くが、居眠りやドライバーの運転中の突然の体調の変化などが原因である。こうしたケースでは、ブレーキが踏まれないため死亡事故が多くなる。これから、高齢ドライバーが増えれば、居眠りや体調不良による事故はますます増えるのではないか。自動運転の技術は、まず、こうしたところで役立ってほしい。

人間の弱点を補完するのが本来の役割

トヨタ車以外の物流の配送車とかその様子

物流などの現場では自動運転のベネフィットは明確だ。

Shutterstock/Gorodenkoff

目の動きを感知する車載カメラが、居眠り状態だと判断すればドライバーに警告を発する技術は、すでに実用化されている。この技術を応用して、ドライバーが居眠り、もしくは失神と判断すれば、自動運転モードに切り替わって、自動車を路肩の安全なところに停車させ、後続車に発煙筒などで注意を喚起するところまで自動で行うことは、今の技術でも実現可能なはずだ。そうすれば、前述の嘆かわしい事故は、大幅に減らすことができるのではないか。

また、農業トラクターや物流現場など人間の命が関わらないところでは、自動運転のベネフィットは明確であり、リスクも少ない。

「人間のドライバーより、自動運転車の方が安全」というフレーズをよく聞く。確かに人間は、居眠りもするし、ミスもする。だからといって、自動運転の方が安全というのは飛躍し過ぎだ。居眠りやミスをする人間の弱点を自動運転技術が補完できれば、現在の事故は大幅に減り、「人間のドライバーの方が安全」ということになるのではないか。

前述のアメリカの「コンシューマー・レポート」は、ムーディーズ・インベスターズ・サービスの調査結果を引用し「自動運転の普及は2045年以前にはない」としている。自動運転車の専用レーンが各所で整備されたり、自動車とインフラ、歩行者など全ての移動体がIoTでつながれば、安全な自動運転社会が訪れる。

しかし、そこに行き着くまで、かなりの時間が必要だ。それまでの間、「何のための自動運転か」「自動運転の現実解は何か」がもっと議論されなければならない。今回の事故で、こうした議論が本格的にスタートすることを願う。


土井正己(どい・まさみ): 国際コンサルティング会社「クレアブ」(日本)代表取締役社長/山形大学特任教授。大阪外国語大学(現:大阪大学外国語学部)卒業。2013年までトヨタ自動車で、主に広報、海外宣伝、海外事業体でのトップマネジメントなど経験。グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

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