「+メッセージ」に秘めた3キャリアのしたたかな戦略 —— 狙うは「LINE公式アカウント」

+メッセージのスマホ

5月9日からNTTドコモ、au、ソフトバンクの対応スマートフォンで使えるメッセージングサービス「+メッセージ」。

撮影:小林優多郎

4月10日、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクは新たなコミュニケーションサービス「+メッセージ」を発表した。5月9日から提供を開始する。

SMS(ショートメッセージサービス。電話番号で遅れるメッセージング機能)の進化形として、長文のテキストや画像、動画、スタンプ、さらに地図情報のやりとりが可能になる。当事者は「LINE対抗ではない」と強調するが、見た目や使い勝手は、紛れもなく「LINE対抗」だ。

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ただ、+メッセージを単なる「LINE対抗」と捉えるのは、本質を見誤ることになる。+メッセージには3キャリアの「したたかな戦略」が見え隠れしているのだ。

+メッセージは、世界でも実績のある標準規格を採用

そもそも+メッセージは、世界のキャリアが集まる業界団体である「GSMA」が標準規格として作り上げた「RCS(Rich Communication Services)」に準拠している。+メッセージは世界的な規格を日本向けにアレンジしたものといえるだろう。

すでにRCSは39カ国50キャリアで採用されており、さらに今後1年間で新たに30カ国40キャリアで採用されるという。

実は2018年2月、スペイン・バルセロナでGSMAが開催した通信関連イベント「Mobile World Congress」において、このRCSに関してのセミナーが開催されたのだった。

RCS活用事例のスライド

MWC 2018で解説されたRCSの活用事例。

撮影:石川温

このセミナーでは、すでにRCSを採用しているドイツ・T-Mobileやアメリカ・スプリントなどのキャリアから「成功例」が紹介されたのだが、どれも法人向けサービスの話が中心であった。

例えば、サンドイッチの「サブウェイ」であれば、RCS上のチャットでユーザーと会話し、食べたいもののオーダーをとっていく。注文が完了したら、その場で決済し、デリバリーされるという仕組みを採用していた。

また、動画配信サービス会社であれば、RCS上でチャットでユーザーに見たい番組名を入力してもらい、いつ視聴できるのか、あるいはどこのページからダウンロードできるのか、といったことを教えるツールとして機能していた。

さらに、ホテル予約ができるなど、さまざまな企業が、RCS上でユーザーとチャットでコミュニケーションして、決済などを行うプラットフォームとして活用している。

アプリを試しまくる時代は終わった

スマホが登場して10年近くが経過するが、一時期はユーザーがこぞってアプリをダウンロードして試しまくるという時代があった。しかし最近では、「日常的に使うアプリ」が固定化されており、新たにアプリをダウンロードするということもなくなっている。企業とすれば、ユーザーと接点を持ちたくてアプリを作っても、ちっともダウンロードされずに終わるケースも多い。

アプリ画面

ユーザーとしても同じようなアプリは「1種類」で十分?

撮影:小林優多郎

そのため、企業にとっては、LINEやインスタグラムといったSNSがユーザー接点として重要となっていて、そこにRCSや+メッセージの存在価値が求められているというわけだ。

実際、「他のメッセージサービスに比べて、RCSの開封率はかなり高い。ユーザーがしっかりと中身を確認してくれる最適なツールだ」(スプリント関係者)。「RCSのチャットボットでユーザーと会話すると、従来よりも売り上げが伸びるし、リピート率も高くなる」(サブウェイ)といい、企業にとってRCSに取り組む流れが加速しているようだ。

+メッセージは企業にとってユーザーとの重要な接点になる

+メッセージの今後の展望

通信3キャリアは、+メッセージを企業も含めたプラットフォームに成長させたいと語っている。

撮影:小林優多郎

日本の3キャリアが提供する+メッセージも、将来的には企業がアカウントを持ち、チャットでユーザーと会話し、レストランの予約を取ったり、サポートしたりなどのカスタマーサービスを提供できるような世界を目指していくと明らかにしていた。

海外の場合、決済をする際には、グーグルの決済プラットフォームである「Google Pay」を採用していた。

+メッセージの発表会では決済について具体的には触れていなかったが、NTTドコモであれば「d払い」、KDDIなら「auかんたん決済」、ソフトバンクなら「ソフトバンクまとめて支払い」といった決済プラットフォームがある。おそらくは、そこと絡めて、将来的には「+メッセージから決済ページに飛んでいく」という流れを作っていくことだろう。

つまり、+メッセージは企業にとって、ユーザー接点としての大きな可能性を秘めたものになるのだ。

「電話番号だけでやりとりできる」というメリット

RCSや+メッセージはIDやパスワードが不要であり、電話番号だけでやりとりできるというのが大きなメリットだ。

この「電話番号だけでやりとりできる」というのは、ユーザー数の規模に大きく影響を与えることになる。

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キャリアが提供するメッセージングサービス(SMSとMMS)は、ほかのネット系サービスを遙かにしのぐ。

撮影:石川温

例えば、アメリカなどで普及している「WhatsApp」であれば、世界で10億人規模のユーザーがいるとされている。次いで多いのが「Facebookメッセンジャー」の8億人超、7億人超の「微信(WeChat)」と言った具合だ。日本を代表するLINEの場合は2億を超えた程度でしかない。

しかし、これがSMSあるいはMMSとなると、世界的には45億人を超える人が使っていることになる。つまり、SMSやMMSがRCSに進化すると、他のメッセンジャーサービスをはるかにしのぐユーザー規模のプラットフォームが誕生することになる。

海外の場合、RCSは、Androidの標準メッセージアプリで利用できるのも大きなメリットとされている。

LINE対抗というよりも「LINE公式アカウント対抗」

ガラパゴスRCSな+メッセージ

現状は海外ユーザーとのやりとりはできない+メッセージ(SMSではやりとりできる)。

撮影:小林優多郎

ただ、日本の+メッセージの場合、いまのところは海外のRCSとはメッセージのやりとりができない。また、Androidの標準メッセージアプリでも利用ができないなど「ガラパゴスRCS」となっているのが残念なところだ。だが、当然、3キャリアとしては+メッセージをグローバルキャリアともやりとりできるように対応してくるだろう。

LINE公式アカウントの画面

当面のターゲットは、LINE本体ではなく「LINE公式アカウント」だ。

撮影:小林優多郎

キャリアにとってみれば、これまでSMSで1通3円程度の送信料を稼げていたが、+メッセージを始めることで、その3円を失うことになる。ユーザーはデータ通信量を消費してくれるが、それも微々たるものだけに、+メッセージで何かしらの「稼ぎ頭」が必要となっている。

それが、法人向けのサービスやキャリア決済による手数料収入というわけだ。

すなわち、+メッセージは「LINE対抗」というよりも「LINE公式アカウント対抗」であり、法人向けサービスやキャリア決済が提供されて、初めて+メッセージの真価が問われることになりそうだ。

(文・石川温)


石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。

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