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「質問をする44人の上院議員のうち27人が、元弁護士か元検事です」とMSNBCアンカーは話していた。
米メディアはどこも、4月10日から2日間、上下院で議会証言するFacebookのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO、 33)が、「とっちめられる」と報じていた。
だが、蓋を開けると、「ザッカーバーグが一枚上手」「議員は理解が足りない」という内容に変わっていた。
一方で、ザッカーバーグは下院公聴会で「一定の規制が必要になるのは避けられない」との考え方を示し、巨額の収益を叩き出すために何でもできた時代は、終わらざるを得ない流れもみえてきた。
プラットフォーマーには一定の規制が必要
8700万人もの個人情報が第3者の手に渡り、2016年の大統領選挙でトランプ氏を勝たせるために使われたというショッキングな報道で、世界中で#DeleteFacebookという動きが広がる中、公聴会は開かれた。連邦議会は、Facebookなどソーシャルメディアを規制する方法を探るため、ザッカーバーグに証言を求めた。
これに対し、ザッカーバーグは下院公聴会でこう述べた。
「人々をつなぐだけでは十分ではない。私たちは、このつながりを確実に前向きなものにしなければならない。人々に声を与えるだけでは不十分で、誰かを傷つけたり、偽の情報を拡散するのに利用しないようにしなければならない。人々が自分の情報を管理できるだけでは不十分で、ユーザーが情報を提供した開発業者も、データの保護を徹底しなければならない」
また、「必要な変更をすべてやり終えるには時間を要するが、問題を解決することに集中している」とも表明した。
これに対し、政府による規制に反対の立場をとる共和党上院議員のジョン・ケネディ(ルイジアナ州)ですら「Facebookを規制しなければならない法案を支持したくはないが、絶対にそうするだろう」と述べた。同時に複数の上下院議員も、シリコンバレー発の「プラットフォーマー」たち、つまりFacebook、グーグル、アップルなどには一定の規制が必要だという考えを示した。
メールと対話アプリを混同
しかし、10日の上院公聴会が始まってすぐ、テレビの生中継を見ていた人は、「異変」に気がついた。CNNのアンカー、ディラン・バイヤーがこう言った。
「ザッカーバーグが勝っています」
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上院議員らはザッカーバーグの倍以上の年齢であるせいか、Facebookのことをよく理解していないことが、テレビで晒された。ザッカーバーグはビジネスモデルについて何度も説明しなくてはならず、時にムッとした表情さえ見せた。上院議員のブライアン・シャッツ(民主、ハワイ州)は、Facebook対話アプリ「WhatsApp」をeメールと間違えていた。ウエストバージニア州の上院議員は、Facebookは地元に「光ファイバー」を提供できるかと聞き、明らかにFacebookをインターネット接続業者と勘違いしていた。
「ザッカーバーグは、議会を出し抜いた」(アメリカの政治メディア「Axios」)
結果は、株式市場に好感された。「規制を」と叫ぶ議会がハイテク業界をあまり理解していないことがわかり、本格的な規制が構築される予想が遠のいたためだ。議会でのザッカーバーグの毅然たる態度に、下落傾向だったFacebook株は上昇した。
議会出し抜いても課題は山積
しかし、Facebookからは過去もアプリなどで個人情報が流出し、ユーザーから批判を浴びてきた。個人情報保護を万全に行ってきていないという批判は常にある。
米大統領選挙では、ロシアの業者などからのフェイク広告が跋扈し、多くのユーザーが目にしたことも過去の議会証言で分かっている。
さらに、8700万人のFacebookの個人情報を購入したコンサル・データ分析会社ケンブリッジ・アナリティカは、トランプ候補の選挙陣営にチームを送り、選挙戦を全面的にサポートしていた。
ザッカーバーグは、「フェイクニュース、外国による選挙への干渉、ヘイトスピーチ、開発者と情報保護について、防止する対策が不十分だった。当社は、その責任について幅広い視野を持っていなかった。それが大きな過ちだった」と議会で認めた。株価の安定を考えるのであれば、対策を講じていなかったこと自体、不思議だ。
今後、問題のフェイクニュースやフェイク広告などを、どうやって防いでいくのか。2018年11月の米中間選挙や各国の主要選挙・国民投票で、フェイクニュースの敷延(ふえん)や外国による選挙干渉が100%防げるのか。開発業者などからケンブリッジ・アナリティカのような第3者へ個人情報が流出するのを100%阻止することができるのか。
議会証言で、議員を「出し抜いた」としても、多くの問題が残されたままとなった。
「ユーザーに利益が還元されていない」
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ザッカーバーグはフェイクニュースや不適切な情報、ヘイトスピーチ、不適切な画像をモニターするチームを約2万人に増加したと証言したが、それだけ、あってはならない情報がユーザーの間でシェアされていることも物語る。
Facebookは4月6日、広告の出稿主の承認をする新たなプロセスを近く設けること、広告出稿主や「政治広告」であることを明示すると発表した。ロシアなど国外からの選挙介入を抑止するための措置だが、フェイク広告について明かしたのは2016年の大統領選挙直後で、すでにいくつかの補欠選挙が行われたにもかかわらず、なぜもっと前に規制しなかったのか疑問だ。
ギズモードによると、アップルの共同創業者スティーブ・ウォズニアックは、#DeleteFacebookに加わったことを明らかにし、USA TODAY紙にこうコメントした。
「ユーザーは人生のあらゆるデータをFacebookに提供し、Facebookはそれで広告マネーを大儲けしている。利益はすべてユーザー情報から生まれているのに、ユーザーにその利益が還元されることはない。Facebookにおいてはユーザーが商品なのだ」
Facebookは「素早く行動し破壊せよ」をモットーに、実験的なサービスであってもすぐに導入し、ソーシャルメディアの機能を拡大してきた。しかし、世界で約20億人が利用し、それだけの個人に付随するありとあらゆる情報が集中している。素早く行動するだけでなく、情報の扱いについて安全で信頼できる、悪用されないプラットフォームにする企業文化に変えることが、課題となってきている。
Facebookは、それに気がついているのかどうか、疑問が残るザッカーバーグの議会証言だった。
(文・津山恵子)