世界初?多摩市長選に出馬するAI市長とは?候補者直撃インタビュー

2018年4月15日に投開票が行われる多摩市長選挙で、ある候補者がネット上で注目を集めている。

「人工知能(AI)が多摩市を変える」と謳(うた)う、松田道人さん(44)。AI市長とは何者なのか。選挙戦真っただ中の松田さんに話を聞いた。

AI市長候補選挙ポスター

ロボットのような選挙ポスターが異彩を放つ。

無投票当選を防ぐために出馬

松田さんが今回の多摩市長選への出馬を決めたのは、4月8日の告示4日前の4月4日。「無投票当選は防ぎたい」という理由からだった。結果的には3人出馬したが、松田さんが出馬を表明するまで、立候補を予定していたのは現職の阿部裕行市長のみだった。

前回2014年の多摩市長選の投票率は過去最低の34.47%。約12万人の有権者のうち、8万人近くが投票に行っていない状態だった。

「このまま市政の関心が低いままだと、また不正が起こる」(松田さん)

多摩市では、認可保育園に市職員の子どもを優遇して入園させたとして裁判(住民訴訟)になっている。阿部市長は入所決定に際しての不正や補助金交付の違反はなかったと主張しているが、松田さんは現職の市職員が市を訴えるまで2年間も隠ぺいされていたことに対し、強い問題意識を持っていた。

メディアは地方自治体の問題だとあまり報じないから市民の関心が高まらず、不正や利権が生じやすい。誰かが変えないといけないと思った

と松田さんは話す。

公正さを実現するためのAI活用

そうした“不正”や“利権”をなくすために考えたのが、AIの活用だ。

松田さんは国内の大手IT企業勤務や外資系企業の代表を務めるなど、約20年間IT業界に関わりテクノロジーへの理解は深い。

もともと1年ぐらい前から、「AIと政治は相性が良いと思っていた」という。知り合いと冗談で「そのうちAIが出馬するよ」とも話していた。

松田道人

松田さんはIT企業に約20年間勤め、テクノロジーへの理解は深い。

AIと政治の相性が良い理由について、松田さんのブレインとして選挙を手伝っている、経済データの分析をする会社経営者の鈴木光晴さんは、「人間が介入しなければ、公正無私で効率的な予算配分ができるのではないか」とAIへの期待を語る。

「金融や経済の分野では、既に日銀(日本銀行)や財務省が効用を最大化する最適制御理論などを応用したモデルを使って適切な予算配分をやっている。だが、その後に政治家が介入して予算配分が変わってくる。あとは、議会を見ていても、質問や答弁が*チャットボットでできるようなものも多い。そういうのを全部ボットに置き換えれば、人件費も削減できる」

(注)チャットボット:「対話(chat)」と「一定のタスクを自動化する(bot)」という2つの言葉を組み合わせたもので、AIが人間のようにコミュニケーションを行う。

AIで予算を正確に出せれば減税に?

自治体の業務の進め方についても、効率的とは言い難い。これは多摩市に限った話ではない。非効率な体質について、松田さんは人間のしがらみが大きいという。

「今回選挙に出るのも書類を準備するのが大変で、何回もハンコを押したりしました。でも、こういう手続きも本来ウェブで全部できます。無駄なことが役人の仕事を増やしている。業務の効率化ができない最大の理由は人間のしがらみ。自動化とかテクノロジーはあるのに、今までの業務に対して『これは違うだろ』と言えない

AIを導入することで、より業務が効率化でき、人件費などが削減できるだけでなく、予算を無駄なく適正に配分できると考えている。さらには、

「人間が予算編成をするときは、後で足りないとならないように少し多めに予算を用意する。その結果、少し余った予算で3月に無駄な道路工事をしたり、予算の無駄遣いにつながっている。AIで予算を正確に出せれば、余計な予算を削れるので減税ができる」

松田さんの推薦人としては、元グーグル日本法人社長の村上憲郎氏、元ソフトバンクモバイル副社長の松本徹三氏も名を連ねる。

松本氏は「地方自治体でAIを積極的に活用するモデル市町村がそろそろ出てきてもいいのにと思っていた」と推薦理由を明かす。

市民とのコミュニケーションを通じて政策の優先度を決める

一方、AIと言っても勝手に機械が計算してくれるわけではない。実際には、開発者がモデルを設計し、AIを構築する。人間の価値観が多様なように、完全なる無色透明ということはありえない。

また、将棋や囲碁のような明確なルールがあるゲームとは異なり、政治の世界には“正解”はない。市政の理想をどう考えるかは人によって異なる。

「99人が幸せで、1人が死ぬという政策が良いのか、50人がそれなりに幸せで、残り50人が少しだけ幸せな政策。どれが良いのかは人それぞれ。それを問うのが選挙や市民とのコミュニケーションだと思っていて、将来的には複数のモデルを提示して、有権者が選ぶ形にしたい」(松田さん)

「AIを導入すると言っても、ただの数式で(全てが勝手に決まるのではなく)係数がある。この係数は、例えば、高齢者と子ども、どちらを政策的に優先するのかなど、何を最大化して何を最小化するのか、そういうことを決められる」(鈴木さん)

AI市長候補選挙カー

ツイッター上で話題になった選挙カー。「選挙カーも自動運転したい」という。ボランティア約30人がポスター貼りなどを担当した。

政策の優先順位を決める、という意味では人間もAIも変わらない。しかし、明確に異なるのがその過程の透明性だという。

「個人情報以外の文書は全て公開する。住民投票などを通して、市民の声を係数に反映していく。そうすれば、なぜ失敗したのか、なぜこういう政策になっているのか、後で検証が可能になる。現状は裏で誰かの利権のためにやっていたり、政策決定のプロセスが可視化されていない」(松田さん)

元ソフトバンクモバイル副社長の松本氏もAIの可能性は、透明性や市民の声を取り入れやすい点だと説明する。

「AIは政治の場で下記を実現できます。(1)陳情などの全てをデジタル化してその内容を分析し、やましい点がないかをチェックする。(2)自分の考えを押し付けるのではなく、市民の声を幅広く吸い上げ、対話を通じて政策の優先度を決める。(3)利害が大きく割れる問題については、何とかして妥協点を探す」

市長の役割はモデルの設計と最終的な責任を負うこと

「AI市長」と言っても、実際は「AIを活用した市長」と呼ぶのが正しい。人としての市長の役割はなくならないからだ。

「最初は市長の給料を1円にして、AWS(Amazon Web Services)の費用だけ下さいと言おうと思ったが、市長の給料は責任に対する報酬だと思う。AIが失敗したときに、誰が責任を取るのか?それはやはり人が取らないといけない。何かあった時に賠償責任は市長が負う。自動運転もそう。責任を問うという意味で市長のポジションは必要」(松田さん)

「何を優先するかという指標も、新しいグルーピングを探すべきだと思う。現状は高齢者か子どもかなど世代別に分かれていたりするが、生活が多様化しているので、もっと新しいカテゴリーも出てくる。世代を問わずに貧困を解決したり、さまざまな角度から問題を探すことで本当の弱者が見えてくるのではないか。それを考えるのも市長の役割」(鈴木さん)

一方懸念として、「過度な合理化」や「AIの暴走」も挙げられる。こうした事態を避けるために、透明性の担保や倫理委員会の設置、元グーグル日本法人社長の村上氏も指摘する「AI開発の8原則」を守ることが重要だと話す。

AI8原則

出典:総務省

多摩市を再び「ニュータウン」に

松田さんは多摩ニュータウンの出身。

もともと多摩市は高度経済成長期に核家族が広がっていった時の新しい街づくりの場だったが、今では少子高齢化が進み、地域によっては“過疎化”が進む。このままだと多摩市がなくなるのではないかと心配する。

「多摩ニュータウンは『新しい街』なのに古くなっている。ICO(Initial Coin Offering)などAI以外にもテクノロジーを活用して、新しい街づくりを手がけ、若者を呼び込みたい」

今後は他の地域でもAIを活用した議員が出てくるのではないかと話す。

「今回AIを作ったら、ロールモデルとして横展開できると思う。そのためにも、より多くの市民が市政に関心を持ち、前回選挙に行っていない人に投票に行ってもらいたい」

(文、写真・室橋祐貴)

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