“コーチのコーチ”中竹竜二さんが伝授!「褒めれば伸びる」は間違っている

もしもあなたが「リーダーになれるのは強い存在感やトップダウン型の指示ができる人だけ」と思い込んでいたとしたら、ぜひこの記事を読んでほしい。「日本一オーラのない監督」として早稲田ラグビーを2連覇に導き、コーチを育てるコーチとして活躍。現在は企業のリーダー育成にも携わる中竹竜二さんがその“奥の手”を惜しみなく語った。

モデレーターは、中竹さんが発信するリーダースキル「フォロワーシップ」に早くから注目していたというHARES代表の西村創一朗さん。参加者全員の満足度が非常に高かった公開対談をほぼ全文公開する。

<収録:2018年3月1日、渋谷BOOK LAB TOKYOにて>。

イベントの一幕

なぜ日本一オーラのない監督が大学選手権を2連覇できたのか。中竹さん(左)の本がバイブルという西村さんが迫った。

この記事でインプットできるキーワード
  • リーダーにとって最も重要なのは、自分自身のスタイルを確立すること
  • 弱みはむやみに克服しようとしなくていい
  • 「他者のために」という動機付けができたときに、人は力を発揮する
  • オーラのないリーダーほど、チャンスがある
  • 人の成長を信じるマインドセットと、「見る・聴く・認める」の3つのスキルが求められる

西村創一朗さん(以下、西村):リーダーシップというと、強いカリスマ性が必要なものとイメージしがちですが、中竹さんは決してそうではないと新たな類型を提示し、9年前に『リーダーシップからフォロワーシップへ』という本を出されました。この本は僕も社会人になってすぐに先輩に勧められて読んで目からうろこが落ち、以来、バイブルになっています。

ご自身もまた自他共に認める「日本一オーラのない監督」、つまり「リーダーらしくないリーダー」として早稲田ラグビー蹴球部を率いて全国連覇を果たしたことでも有名ですね。まずは、中竹さんがどのようにリーダーシップを発揮、獲得されていったのかというストーリーからうかがわせて下さい。

中竹竜二さん(以下、中竹):もともと私は物事を冷めて見るというか、俯瞰して捉えるようなところがあって、選手時代から「チームはまとまりがいい方が勝つ」という常識にもとらわれていなかったんですよね。メンバーの仲が悪かったとしても、その組織に合った勝ち方は存在するし、見つけられるんじゃないかと思っていました。むしろ過去の勝ち方にとらわれるほうが危険だと。それで、監督をやることになってからも、自分のスタイルでやるしかないという気持ちはありましたね。

中竹さんと西村さん

就任初日に選手から舌打ちされたという中竹さん。

撮影:今村拓馬

西村:「オーラのない監督」というのはご自身で?

中竹:就任初日に選手につけられたんですよ。「よろしくお願いします」とあいさつする場で、「こいつか。全然オーラないな」とブツブツ言っている奴がいる。その日から“日本一オーラのない監督”デビューです。

西村:ムッとすることはなかったんですか?

中竹:なかったですね。もうその通りだと思って。これはいいキャッチフレーズをいただいたと思いました。

実際、私はど素人で監督を始めたので、ちゃんと指導できるレベルではなかったんですよ。早稲田ラグビーは過去数度日本一になっているチームですから、教えるほうがおこがましい。

批判をすべて受け入れ、ひたすら個人面談をした

中竹:で、実際に教えてみても、「チッ! つまんねーな」とまた舌打ちされるわけですよ。そんな状況で、いかに強いチームになってもらうかを考えたら、答えは一つ。選手に頑張ってもらうしかないじゃないですか。信頼と尊敬を集める監督であれば「この人についていこう」と思ってもらえますが、私は無理に決まっているじゃないですか。

就任して最初の春の試合でも、普段なら難なく勝てる相手に大苦戦をして。ずっと勝ち続けていた慶應にも惨敗して。3カ月くらい経つ頃には「こいつが監督になったから弱くなった」「今すぐ辞めろ」と批判の嵐ですよ。これはもう事実、そうでした。その間、僕が何をしていたかというと、ひたすら個人面談です。

西村:何を聞いていたんですか?

中竹:「今こんなチームの状態なんだけど、お前は何ができるの?」ってだけ。はじめ彼らは皆私のせいにしていましたけれど、途中から「ヤバい。このまま放っておくと、本当に負ける」「監督に頼っている場合じゃないぞ」という雰囲気になってくるわけです。さらに何人かが気づくんですね。「いや、たしかにこの監督はダメだけれど、このまま負け続けて『中竹のせいだった』で終わった時に、誰がハッピーになるのか?」と。

西村:その気づきは自然と生まれるものなんですか?

中竹:そうですね。私としては、とにかく批判や文句をすべて受け入れることに徹していました。でも、当たり前ですが、監督批判を続けているチームが勝つはずがないことは選手もすぐ分かるんですよ。僕も暗に言ってました。「いや、まぁ、本当に俺の監督力ってそんなに伸びないと思うから、みんなで頑張らないと」と。それでもしばらく批判は続き、夏合宿も終えてシーズンが始まると、メディアからのバッシングも始まりました。「清宮監督後任の新監督で、早稲田ピンチ!」みたいな。

Pormezz

「誰かのために」がパフォーマンスを向上させる。

SHutterstock/Pormezz

西村:最初は苦戦していたんですもんね。

中竹:はい、実際、ピンチでした。初年度は全国学生選手権で決勝まで進むも敗退。準優勝というのは選手としては敗者ですから。この結果を受けた3年生が「このままだと来年も負けるぞ」と気づき、火が付いた。

相変わらずメディアからの批判は厳しかったですが、面白いことに今度は選手がメディアへの敵対心を燃やすようになったんです。「監督のことを選手である俺達が批判するのはいいが、部外者に言われたくない。このダメ監督を、絶対に俺達が勝たせてやるぞ」と。

「誰かのために」という動機が生まれたとき力を発揮する

西村:大きな転換点ですね。

中竹:これ、実はパフォーマンスの理論上でも正しくて、「自分のために」ではなく「誰かのために」という動機が生まれたときのほうが、人は力を発揮するんです。実際、2年目の決勝戦の前日には、選手から「中竹さん、大したことない監督だけど、明日、優勝監督にしてあげるから」って言われて、実際に結果が出た。私の功労としては、素直に「俺はできない」と恥をさらしていたということですね。

西村:選手たちのモチベーションを引き出すマネジメントをしていたということですね。

中竹:そうするしかなかったということです。

西村:これが中竹さんの「リーダーらしくないリーダー」というスタイルであると。このスタイルは初めから決めていたのでしょうか? それとも結果が出てから確立されたものなのでしょうか?

中竹:日々の積み重ねの中で少しずつ磨かれていったという感覚ですね。選手一人ひとりとは本当に真剣に向き合いましたし、涙するほどのドラマがあったんです。時には背伸びをしたり、嫌な思いもさせたりしたかもしれないという反省もありますが、勝利そのものよりも、どうやって自分と選手一人ひとりのスタイルを発揮するかということに関しては毎日考え抜いたという自信はあります

自己認識するには「振り返り」と「人に聞く」こと

西村:「スタイルを重視する」という姿勢を身につけるに至った原体験とは?

中竹:一番大きかったのは大学の選手時代に、自分の持ち味を発揮するための思考を繰り返したという経験は大きかったかもしれませんね。もともと、選手としても大した技能はなく、足が速いとか力が強いとか、分かりやすいスペックの優位性がない状態でキャプテンをやりましたので。

西村:本によると、「足がめちゃめちゃ遅かった」と。50メートルを7.6秒でしたっけ。

中竹:サッカーやってる小学生くらいのレベルです。相当ヤバいでしょ(笑)。

西村:なんですが、その弱みを客観的に受け入れて、「走らなくても勝てる方法を考えた」という“弱みを克服しない戦い方”というスタイルを身につけたんですよね。「日本一オーラのない監督」も受け入れて、発想の転換でチームビルディングに活かされた。中竹さんのように、客観的な視点で自己認識する力を鍛えるには、どんな実践から始めたらいいですか?

中竹:「振り返る」しかないと思います。自分の行動特性というのは分かっているようで全然分かっていない。今の自分を外から見ることはできないし、未来の自分も分からないけれど、過去の自分の行動や考えを振り返ることはできるわけです。

同時に、人にも聞くといいですね。自分がどんな行動をしていて、どう感じたか。この時、私がラッキーだったのは、選手に尊敬されていなかったので、相手は言いたい放題、本音を言ってくれたわけです。こんなチャンスないですよね。「チッ」とあからさまに舌打ちされたり、溜息つかれたりするほど、「ダイレクトなフィードバックをもらっているなぁ」とありがたく思えましたよ。

西村:オーラのある監督には舌打ちはできない!

中竹:そういう意味では、「人に意見を言ってもらえる関係性をつくる」のは重要。賢くて人から尊敬を集める人ほどフィードバックを得られにくいという構造とどう戦っていくかは、リーダー共通の課題ですよね。逆に言うと、頼りないリーダーほどどんどんフィードバックを得られてリーダーとして成長していくということ。この前提に立つことで視界が開ける人は多いんじゃないかと私は思います。

カリスマ型リーダーは細やかな配慮もしている

中竹さんと西村さん

撮影:今村拓馬

西村:リーダーにとって重要なのは、日頃からの関係性づくりであるということですね。中竹さんが「フォロワーシップ」という概念を発信してから約10年が経ちますが、日本を取り巻くリーダーシップのあり方に変化は感じますか?

中竹:とても感じますね。9年前に『リーダーシップからフォロワーシップへ』の本を発売したときには「フォロワーシップ」という言葉を誰も知りませんでしたから。「組織論の言葉としてインパクトがない」とまで言われました。

ここ数年で世界的に注目され、NASA(米国航空宇宙局)でもフォロワーシップ育成重視の指針が出されるほどになった背景としては、研究分野でのエビデンスがそろってきたことが一つ。つまり、これまで“見えていなかったこと”が可視化されてきた。従来から評価されてきたカリスマ型リーダーの行動を細かく研究した結果、彼らが強力なトップダウンの言動だけでなく、同じくらい細やかな配慮もしていることが分かってきたんです。早稲田ラグビーで例えると、清宮さんはトップダウン型リーダーの典型として語られますが、実はものすごく繊細に気配りをする方です。

西村:一面的なイメージでしかとらえられていなかったかもしれませんね。

中竹:逆に、私の方が配慮に欠けていて、清宮さんから「中竹、お前はホントに頑固だからな」って言われるくらい。エディ・ジョーンズも、トップダウン型リーダーとして伝えられていますが、実際には、選手一人ひとりとバランスよくコミュニケーションをとるためのプランニングまでするほど配慮を行き届かせている。それは絶対に人前で見せないし、メディアにも語りませんよ。僕は彼に直接聞き出したので知っているんです。

上司と部下

中竹さんはトップダウンのリーダーシップがなくなるわけではなく、多様なリーダー像が増えていくと言う。

Shutterstock/dotshock

全体に向けては「俺がこうと言えばこうなんだ!」と強く発しても、影では「お前にぜひ意見を聞きたい」と一対一のコミュニケーションを欠かさない。非常に高度な技だと思います。リーダーシップとフォロワーシップを状況に応じて選択的に変えていく。優秀なリーダーは、方法のバリエーションを持っていることが、研究によって明らかになってきているんです。

チームの力を引き出す法は一つでは対応しきれない

西村:そういうリーダーが増えてきた背景は?

中竹:組織環境の変化が大きいと思います。これまでは一人の人がずっと同じ組織に属す社会でしたけれど、流動性が高まる中で、チームの力を引き出す方法も一つでは対応しきれなくなっている。スポーツチームも同じで、メンバーが毎年入れ替わる中でずっと同じ戦術でやっていくとライバルに戦術が漏れるリスクが高まるわけです。

「リーダーシップ」「フォロワーシップ」は立場ではなく行為を表す言葉で、リーダシップ=引っ張る行為、フォロワーシップ=支える行為。すなわち、リーダーシップが得意なフォロワー(部下)がいてもいいし、フォロワーシップが得意なリーダー(上司)がいてもいい。この柔軟な組み合わせを可能にする組織がより成果を出していくと言われています。

ただし、従来型のリーダーシップがなくなるわけでなく、手数が増えているというだけ。多様なリーダー像が増えていくのが、あるべき姿かなと思います。

西村:あらためて、フォロワーシップを身につけるために何を意識して行動したらいいか、教えてください。

「人は絶対に成長できる」と信じられるかどうか

中竹:2つあります。1つは、人の成長に対する心構え、マインドセットです。「人は環境やその人の努力によって、絶対に成長できるんだ」というグロース・マインドセットを持てるかどうか。この対称としてあるのが「人は成長しない」というフィックスド・マインドセットで、どちらが真否かではなく、どちらを信じるかという問題。

フォロワーシップを発揮したいなら、絶対にグロース・マインドセットを持てないと前に進まない。目の前の相手にかなり手を焼いていたとしても、「今はこうだけれど、いつか必ず成長した姿が見られるはずだ」と信じて向き合う。成長を信じられると、努力ができる。それも影での努力ができる。「そのうち驚かせてやるぞ」としたたかに。将来の成長を信じているから、無理に背伸びして今の実力を見せつけようということもしない。フォロワーシップを磨くために重要なスキルのもう一つは、人の話をよく聴き、人をよく見る力です。

西村:傾聴と観察ですね。

中竹:傾聴と観察、さらに、承認が大事です。といっても、単純に褒めることではありません。褒めようとすると、上から目線になりますから。今、安易に褒めるカルチャーが流行っていますが、危険ですね。安易に褒めるとかえって人は離れます。「この人はこの程度しか分かっていないんだ」と見放されます。

「見て、聞いて、認める」話を聴くだけでいい

中竹さん

大事なのは傾聴・観察・承認の3つで、どれも訓練が必要だが誰でも身に着けられると中竹さんは言う。

撮影:今村拓馬

西村:では、承認とはどういう態度で臨めばいいのでしょうか?

中竹:話を聴くだけでいいんです。コメントも特にしなくてよし。行動を見て、言葉を聴いて、「あー、そうなんだ」「大変だったね」「そういうこと?」という感じで。

実際、僕がやっているのもこれだけです。「あんだけ練習したのに、ゴール外しちゃったのか。ホント、ダメだよな」。これ、全然、褒めてません。大事なのは「でも、お前の努力は見ていたし、失敗も見届けるよ」という態度です。褒めようがないプロセスでも一緒に立ち会っているという。「俺も悔しいよ。あそこでお前が2点決めたら勝てたのに。悔しいよなぁ」って、これで十分です。見て、聴いて、認める。この3つだけ。シンプルなようで、かなりトレーニングが必要なスキルです。難しいですが、スキルなので誰でも習得は可能です。

言葉にしたくない本音をいかに感じ取れるか

西村:なるほど。一朝一夕には身につかないという前提で、覚えておきたいポイントをそれぞれ挙げると?

中竹:「見る」のポイントは、ただボーッと見るのではなく、「あの時、お前はこういうふうに行動をしていた」とディスクライブ(描写)できるくらいに見ること。言葉で再現可能にできるように。

西村:相手に伝えられるくらい観察するということですね。

中竹:「聴く」は、言葉通りでなく、その人の真意、メッセージをつかむこと。恋愛でも同じですよね。「あなたなんて、大っ嫌い!」の言葉の真意は「私がこんなに好きなのに、どうして分かってくれないの」じゃないですか。本人が言葉にしたくない本音をいかに感じ取れるか

西村:なるほど。真意を探しながら聴く。

中竹:「認める」はさっきも言ったように、相手がそこにいるという“存在を承認する”という姿勢を大切にしてほしいと思います。

西村:非常に役立つアドバイスをいただきました。では、この後は、参加者のリアルな悩みに中竹さんが答えるQ&A形式へと移ります。実際に組織での中で奮闘するリーダー、リーダー予備軍である皆さんが抱えるモヤモヤをぜひぶつけてみてください。

<後編に続く>

中竹竜二:1973年生まれ。早稲田大学人間科学部在学中、ラグビー蹴球部選手として全国大学選手権で準優勝。英レスター大学大学院を修了後、三菱総合研究所に入社。組織戦略に携わる。

2006年、清宮克幸氏の後任として早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。“日本一オーラのない監督”と言われるが、翌2007年度より2年連続で全国優勝。2010年、日本ラグビーフットボール協会初代コーチングディレクターに就任し、全国のコーチ育成に力を注ぐ。2012〜2014年にはU20日本代表ヘッドコーチも務める。

企業のグローバルリーダー育成を独自のメソッドとして提供する株式会社チームボックスを設立。一部上場企業をはじめとする組織のリーダートレーニングを提供している。

(文・宮本恵理子、撮影・今村拓馬)

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