イーロン・マスクが挑み、ソフトバンクも出資する「巨大ネット衛星通信網」計画とは?

SpaceX

SpaceXの公式サイトより。

投資ファンドSpace Angelsの4月10日付けの発表によれば、2018年第1四半期でSpaceXは新たに5億ドルの投資を受け、同社の価値は275億ドル(2兆9400億円)に達したという。この投資の大きな目的のひとつは、SpaceXが計画中の衛星ブロードバンド計画「スターリンク」の開発費にある。

2018年2月に打ち上げられた「スターリンク」実証衛星については、イーロン・マスクの公式アカウントが軌道上への展開成功をしらせた。

https://twitter.com/elonmusk/status/966703261699854336

スターリンクとは、合計で1万2000機の衛星を打ち上げて、軌道上に巨大な衛星通信網を構築するものだ。こうした巨大な衛星網は「メガコンステレーション」と呼ばれており、規模はそれより小さいものの、SpaceX以外にも数社が計画中だ。

SpaceXが公表した驚きの計画

rocket

018年2月、Falcon9ロケットによるSpaceX通信実証衛星の打ち上げ。

SpaceX

2018年3月末、SpaceXはFCC(連邦通信委員会)からスターリンク初期の4425機の衛星打ち上げ認可を得た。FCCに提出された資料によれば、初期の「LEOコンステレーション」(LEO:地球低軌道、高度100~2000km程度までの軌道)を構成する衛星は、高度1110~1325kmにまずは1600機、続いて2825機の衛星と予備機を周回させ、Ku帯およびKa帯( 285~1500Gbpsで伝送可能な高周波数帯)で通信する。

SpaceXは、この最初のLEOコンステレーションを展開した後、さらに野心的な計画を持っている。335.9~345.6kmの超低高度(VLEO)衛星を7518機打ち上げて周回させ、LEO衛星は比較的広範囲を、VLEO衛星はその10分の1程度の狭い範囲に通信サービスを提供する。

2タイプの衛星が補完的に通信サービスを提供し、地球上のどこでも高速大容量通信が安定して利用できるシステムを構築するという構想だ。

Technical_Attachment

SpaceXのLEO衛星(上)とVLEO衛星(下)1機あたりの通信カバー面積。

出展:FCC提出資料『SPACEX V-BAND NON-GEOSTATIONARY SATELLITE SYSTEM ATTACHMENT A』

低高度衛星を大規模に展開することで、レイテンシ(通信遅延)は現在の静止軌道(高度およそ3万6000km)の通信衛星の600ミリセカンドから、25~35ミリセカンドへ劇的に小さくなるとされている。

SpaceXの計画に立ちはだかる3つの難問

もちろん、計画実現までの課題はある。それは次のようなものだ。

list_spacex-1

写真:SpaceX

まず1つめがLEOコンステレーション衛星の認可の条件だ。認可にあたってFCCからは、“2019年初頭から衛星の打ち上げを開始し、2024年3月までに予定数の2分の1、2027年3月までには4425機全てを打ち上げる”という条件が課せられた。

SpaceXは当初、4000機中の800~900機を打ち上げれば、通信サービスを開始できるだけの衛星を準備できると主張していたため、認可は得たものの事業のハードルは高くなった。

2つめは、量産体制。SpaceXは既に今年2月に2機の実証衛星を打ち上げている。打ち上げ開始まで3年足らずで4000機の量産体制に持ち込めるかが実現へのカギになる。

また、通信サービスを利用するユーザー向けの受信機器開発も求められている。静止通信衛星向けのパラボラアンテナと異なり、メガコンステレーション型の通信衛星は、複数の衛星を追尾する必要がある。そのため、フラットパネルアンテナを開発するKymeta社などが安価な機器を提供できるかどうかが注目されている。

最後は、これも近年の大きな問題である「宇宙の交通整理」だ。1957年世界初の人工衛星スプートニク1号以来、これまでに打ち上げられた人工衛星はおよそ7200機とされる。計画が実現すれば、SpaceX1社の衛星だけで、その1.6倍の数を打ち上げる形。宇宙ゴミである「スペースデブリ」対策が重要になる。

SpaceXは衛星の運用中に衝突事故が起きたとしても、衛星の部品がバラバラになりにくい構造を取り入れる。また、5~7年間の運用期間が終わった後は、エンジンを噴射して軌道を変えつつ高度300kmまで降下、1年以内に大気圏に再突入させるとしている。これは、国際的な小型衛星の「25年以内に大気圏再突入」というルールよりも大幅に早いものだ。

’90年代のビル・ゲイツですら不可能だったインターネット衛星構想

こうしたメガコンステレーション通信衛星構想を持つのはSpaceXだけではない。ソフトバンクが出資しているOneWeb(ワンウェブ)社は720機、ボーイングは1000機の衛星網を計画しており、OneWebはSpaceXに先駆けて2018年夏ごろには衛星の打ち上げを開始する予定だ。他にもカナダのTelesat CanadaやSpace Norwayなど数社が100機以上のコンステレーションを計画している。

oneweb

OneWebへの出資をしらせるソフトバンクのリリース文。

だが今から20年近く前に、840機という巨大通信衛星コンステレーションの計画があった。Microsoft設立者のビル・ゲイツらが資金援助したTeledesic社だ。しかし、1機の実証衛星を打ち上げたのみで2002年に資金難から計画を中止している。

’90年代は、衛星事業者からすれば低コストロケットがない、ロケット事業者からすれば開発支援者がいない……という状況で、そのために共倒れのように両者とも消えていった。

SpaceXはその点で、まず低コスト打ち上げロケットを自分たちで用意できた。自ら運用するロケットであれば、衛星とロケットとのインターフェースやスケジュールの問題は避けられる反面、ロケット企業としてこれまで「顧客」であった静止通信衛星のオペレーターとの対立が顕在化するというリスクはある)。

SIA-SSIR-2017

2017年版世界の衛星サービス収益動向。

出展:米衛星産業協会(SIA)

これまで商用衛星を牽引してきた静止通信衛星は、スターリンクを始めとする低軌道メガコンステレーションによって市場縮小の危機に直面している。米衛星産業協会が毎年夏に発表している商用衛星業界のレポートによれば、2016年は2015年に比べて世界全体で商用静止衛星サービスの収益の伸びが鈍っている。

低軌道メガコンステレーション通信衛星は、20年来まだ勝者のいない分野だ。SpaceXはFCCから衛星運用の許可を得たことで、構想段階を越えて一歩を踏み出した。2018年夏から2019年にかけて、こうした衛星の打ち上げが始まる。まずは、そもそも衛星を展開できるかどうかが注視されている。

(文・秋山文野)


秋山文野:IT実用書から宇宙開発までカバーする編集者/ライター。各国宇宙機関のレポートを読み込むことが日課。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、書籍『図解ビジネス情報源 入門から業界動向までひと目でわかる 宇宙ビジネス』(共著)など。

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中