全ての社会人が「今すぐAIプログラミングを学ぶべき」と言える深い理由

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「10秒ではじめる人工知能プログラミング学習サービス」を謳うAidemyの石川聡彦代表。

今年、中国・深センを訪ねたとき、現地の会計事務所に勤務する女性から興味深い話を聞いた。

イケてる男性たちの多くはエンジニア職を目指しており、レガシーな業界からIT業界への転職が後を絶たないという。給料が高く、出社時間は自由度が高いこともあって、求人市場のみならず、恋愛市場においても、エンジニアの「一人勝ち」状態になっているとか。なかでも人工知能(AI)エンジニアは別格とのこと。

日本でも特定の技能をもつエンジニアの年収は上昇しつつある。「10秒ではじめる人工知能プログラミング学習サービス」を謳い、リリースからわずか3カ月ほどで1万人超の会員を獲得した「Aidemy(アイデミー)」の石川聡彦代表はこう話す。

「女性にモテて仕方がないとか、日本ではそこまでの状況はありません。これからなんでしょうか(笑)。でも、パソコンでプログラミングが得意、とか言うとオタクのイメージが付きまとう時代は、ついに終わった感じがしますね。バイタリティあふれる優秀な人材が集まってきている実感があります」

仕事柄、さまざまな企業の方と話す機会があるのだが、「エンジニアが足りない」という声をよく聞く。国内大手企業においても、そのニーズは非常に高く、例えばデータ解析のスキルを競う国際コンペ「Kaggle(カグル)」の上位入賞者だと、その実績だけでIT大手の採用内定が決まることもある。

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AIエンジニア不足は「誤った先入観」の産物

特に、近年急速に需要が高まりつつあるAIエンジニアは、あらゆる企業にとって「ノドから手が出るほど欲しい人材」。しかし、その理由を石川さんに尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

「能力のある人材が足りていないわけではないんです。言ってみれば、『意識のハードル』が高い状態。数学の知識や修士号、博士号が必須といった誤った先入観によるイメージが強く、単純に人手が集まっていないだけ。

プログラミングの発展史を振り返れば、ここまで(参入の)ハードルが下がった時代はかつてない。15年前だと、ウェブアプリを作るには、サーバーを用意してネットワークと接続し、1から10までコードを書いてシステムを実装する必要がありました。それが最近では、ライブラリやフレームワークと呼ばれるレディメイドのシステムや部品が充実したので、ちょっとコードを書いてアップロードするだけで実用的なアプリができてしまう。みんなそのことに気づいていないんです」

確かに、筆者も「HEROKU(ヘロク)」や「Amazon Web Service(AWS)」といったクラウドサービスを使ってみて、その手軽さに驚いたばかりだ。実は、石川さんがプログラミングを覚えたのも、つい5年ほど前のことという。

「学生時代に起業して1年ほど経ったころ、自分でもモノづくりができないとやっていけない、という危機感があって、コードを書き始めたんです。21、22歳の頃なので、エンジニアとしてはかなり遅いほうだと思います。当時、会社の中でクライアントへの緊急対応ができる要員は自分くらいしかいなかったので、無理やり場当たり的に覚えた、というのが本当のところですね」

グーグルの「Cloud ML(クラウド・マシン・ラーニング)」のように、機械学習の機能をクラウドで簡単に利用できるサービスも出現し、AIエンジニアに要求されるプログラミングのハードルはますます低くなっている。

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学位で報酬が決まるAIエンジニアの残念な現実

そうした状況を捉え、石川さんが立ち上げたサービスが「Aidemy」だ。

「我々のミッションは『社会とテクノロジーをつなげる』こと。機械学習にせよブロックチェーンにせよ、これから世界を変えていくスゴい技術で、それだけになんとなく難しそうというイメージを持たれている。けれども、実際やってみるとそうでもないんですよね。少なくとも、勘所を押さえるのは難しくない。そういう正しい認識を社会に広めることが、第一の狙いです」

超一流のAIエンジニアが手がける案件は、報酬にして月単価ベースで1000万円にもなることがある。人材の供給が不足しているため、報酬額がつり上がるのは当然のことだ。しかし、石川さんに言わせれば、足元の状況は決して喜ぶべきことではない。

「残念ながら、AIエンジニアの能力評価は学歴や出身研究室、そして研究業績を基準に測られるのが実態。報酬は修士・博士号に応じてあてがわれる金額であることが多いんです」

AIエンジニアとしてクライアントの要求に応えるビジネスの現場で今必要とされているのは、実務能力であって、学位でないことは言うまでもない。

「ビジネスの現場に機械学習を導入する仕事の9割以上は、ライブラリを組み合わせて一通りの解析ができれば、問題なくこなせます。逆に言えば、そのくらいの人材はこれから間違いなく増えてくるので、報酬の相場は下がってくるはず。Aidemyもその一助になれたらと考えています。

今社会に必要なのは、機械学習を応用する機会を増やすことなんです。農業や水産加工などの現場には、機械学習を役立てる余地がいくらでもある。それが人口減少のような社会問題の解決につながっていくかもしれない。でも、その人材がみんな年俸1000万、2000万だったら、頼みたくても頼めません。そんな状況は絶対に変えたほうがいい」

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「Aidemy」のトップ画面。このブラウザ以外に準備は一切必要ナシ。いきなり機械学習やプログラミングの基礎が学べてしまう。オンライン上で学べる講座は現在、全部で16コース。料金は講座買い切り制で、1講座980円〜(4講座は無料提供)。

「何かの専門がある人」にこそAIを学んでほしい

Aidemyでは、機械学習のアルゴリズムやプログラミング、データハンドリングを学べるコースに加え、最近ブロックチェーンの基礎を学ぶコースを設置した。

「日本におけるブロックチェーンの応用例と言えば、金融決済がよく知られるところ。ところがアメリカでは、『たまごっち』のような育成ゲーム(『クリプトキティーズ』が有名)に、結構応用されているんです。改ざんが難しいブロックチェーンの特徴を活用し、例えばレアキャラのレア性を確保する。そこから、価値が保証されたレアキャラの売買市場が生まれたりするわけです。日本でもこれからさまざまな分野に広がっていくでしょうね」

海外では、Facebookの投稿に「いいね!」を押すのと同じように、良質な投稿にトークンが付与される「Steemit(スティーミット)」のようなSNSが現れてきている。広告に頼らずコンテンツを収益化する新たな手法として注目されており、すでに「トークン・エコノミー」という言葉も生まれている。

プログラミングと同様、技術的ハードルの高かったトークンの作成が簡単にできるフレームワーク(「Truffle」など)も登場してきていて、市場拡大は時間の問題だ。石川さんはこう指摘する。

「機械学習もブロックチェーンも、エンジニアからビジネスの画期的なアイデアが生まれることは少ない。ミカン農家や工場の生産ライン設計者、電力マネジメントのプロなど、何かの専門家が機械学習やブロックチェーンの基礎を学んだとき、本当に新しくて役に立つアイデアが生まれてくるんです。そうやって応用分野が広がるにつれ、AIエンジニアはそれを活用する分野ごとに『特化』が進んでいくと思っています」

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著書『人工知能プログラミングのための数学がわかる本』の帯裏には「人工知能はこれからの社会の基礎的な教養です」と、東京大学大学院特任准教授の松尾豊さんの力強い推薦文が。

「仮想通貨の価格予測」がモチベーションでもいい

大学時代に自然言語処理を少々かじったことのある筆者も近頃、本格的に機械学習プログラミングの勉強を始めたばかりだ。3カ月間はガッツリ集中してやってみようと考えているが、今日までのところ、石川さんが言うほど簡単には身に付かない。このまま続けて、3カ月後にどんな高みを目指せるのか。やってよかったと後から思えるようになるのだろうか。不安を石川さんにぶつけてみた。

「プログラミングを学ぶのが目的だと、ダメかもしれませんね(笑)。何のためにプログラミングや機械学習が必要なのかをハッキリさせないと」

そうは言われても、世の中の多くの人は、プログラミングで何ができるのか分からないのではないか。そう、英語を話せないと仕事で不利になるのでは、という「何となく」の危機感がまさにそれだ。

「それなら、機械学習を学べば、仮想通貨の価格予測ができる、と考えてみてはどうでしょう。実際に投資するかどうかは別として、相場の先読みができるとしたらちょっと高揚しませんか。

相場予測をテーマにすると、機械学習が面白くなる、という話ですけどね。例えば、『インスタグラムに投稿される画像のトレンドにブランド物のバッグが多くなると、仮想通貨の相場が下がる』という仮説など、一見突拍子もないが実は相関性があるような関係性を検証してみてはいかがでしょうか。機械学習でウェブ上にあるインスタグラムのデータを反復学習させて、このパターンが機械学習によって実証されれば、将来の相場をオリジナリティあふれる方法で予測できるはずです」

そんなことができるAIプログラミング、ぜひやってみたくなるではないか。

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石川代表とはいくら話しても話し足りない。人工知能が作る未来はそのくらい語り尽くせぬ可能性を秘めているということだろう。

石川さんの話を聞いて分かったことは、AIエンジニアはもはやコンピューター業界や理系の世界の住人とは限らないということだ。ある業界で深い経験と知識を持つビジネスパーソンが、文系だろうが理系だろうが関係なく、AIプログラミングを身に付けてブレイクスルーを実現する。エンゼルスの大谷選手よろしく、「二刀流」こそがビジネスを切り開く時代がすぐそこまで来ている。石川さんは取材の最後にこう語った。

後世の人間が歴史教科書を作るとき、AIエンジニア、その知識を持つビジネスパーソンたちは、情報革命時代の「コロンブス」と記されると思っています。

(取材・勝木健太、構成・川村力、写真・的野弘路)

編集部より:一部表現を改めました。 2018年4月20日 14:45

勝木健太(かつき・けんた):1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科卒業後、邦銀に入行。法人営業、外貨バランスシート経営の企画、グローバル金融規制対応、各国中央銀行との折衝に従事。外資系コンサルティングファーム、監査法人でのブロックチェーン技術をはじめとするFinTech領域の戦略立案に従事した後、独立。

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