夫の家事・育児参加は増えてきたものの、その分担の実態はどうなっているのか。そして、実際どのような思いで家事・育児と仕事を両立させているのか。
2018年1月19日から1カ月間にわたり募集された「第2回 オリックス 働くパパママ川柳」には、5万件を超える応募があり、作品からは働きながら子どもを育てる苦労を笑いに昇華して乗り切っているパパやママたちの前向きな姿が見えた。
とはいえ、現実にはまだまだ仕事と家事・育児をこなすことでストレスを抱え、精神的に追い込まれている人も多い。どうすればそれを解消できるのか。家事シェア研究家でNPO法人tadaima!代表理事の三木智有さんに聞いた。
幸せな家族は、「分担」ではなく「シェア」をしている
NPO法人tadaima! 代表理事の三木智有さん。2018年3月、一家で東京から京都府に引っ越したばかり。
「『よく噛んで!! そういう母は流し込む』。これ、わかります!僕の場合は、母じゃなくて父ですが……」。「パパママ川柳」の受賞作を見ながら、三木さんは笑う。
三木さんは日本で唯一の家事シェア研究家で、「家事シェア」という言葉の生みの親。自身も3歳の娘を持ち、妻もフルタイムで働いているため、もともと家事・育児に積極的に取り組んできた。
「『パパ子守 子ども泣き止む ユーチューブ』。これはよくわかります。1日や2日ならユーチューブで乗り切ることができるのですが、1カ月だとこの手も使えなくなるんです」
東京から京都へ引っ越しをしたことに伴ってこの1カ月は「専業主夫」を経験し、川柳に表れているパパとママの両方の思いが分かると話す。
活動の原点は「フラリーマン」を見てきたこと
子どもが生まれる前から、「家事シェア」を提唱していた三木さん。そのきっかけは住宅のインテリアコーディネーターをしていた約8年前に遡る。住まい手に対して、居心地のいい空間を提案していた先輩が、夜仕事が終わっても自宅に帰らない「フラリーマン」だった。それを見ていて、「家に帰りたくなるような、幸せな家族とは何だろう?」と考え始めたという。
その答えを探すべく、100人のパパママにヒアリングを決行。「仲の良い夫婦は、育児も家事も2人で一緒にシェアをしながら乗り越えている」という共通点に気付いた。NPO法人「tadaima!」を立ち上げ、現在は企業研修や市民講座などを通して、「家事シェア」という価値観を広めている。その結果、受講した人たちが「夫婦ともにイライラすることが減り、関係が良くなる」ことを実感しているという。
実際、三木家も夫婦喧嘩はほとんどないとか。仕事も忙しい子育て世代の夫婦が、家事・育児をうまく分担するためのコツを三木さんに聞いた。
コツ1:妻はシェアシップを、夫はオーナーシップを持つ
料理と掃除は三木さんが担当。妻の担当は洗濯や子どもの着替えなど。今は朝食・お弁当・夕食の三食を作っており、入選作の川柳「昼休み クックパッドと にらめっこ」に、「これ、わかりますー!」と三木さん。
「家事をしてもらうために、夫をどう教育すればいいんですか?とよく聞かれますが、そもそも、その質問が間違っています」ときっぱり。
「『させる』『教育する』という発言は、夫を家事のパートナーとして見ていない証拠です。逆の立場でそう言われていたら、きっと嫌だと思いますよ」
夫婦は、上司と部下ではなく対等な関係。とはいえ、多くの場合は家事のスキルに差があり、どうしても「教える・教えられる」の関係になってしまう。
「夫に主体的に関わってもらいたいのであれば、『言われた通りに動くこと』を妻は期待してはいけません」
誰でも、言われたことをただ実行するだけでは楽しくない。ましてやダメ出しまでされたら、「自分で考えてやってみよう」という前向きな気持ちがなくなり、どんどんやる気を失ってしまう。
「言われたらやるけど、言われないとやらない」という夫への不満は、たいがい夫が主体的に関わり出す、つまりオーナーシップを持つようになると変わっていくそうだ。
そのためには、まず妻が夫に家事の権限を委譲すること。1人で抱え込まず、任せたら口出しをしない。その「シェアマインド」を妻が持つことが、「家事シェア」を上手に取り入れるためには欠かせない。
一方、夫はいつまでもお客様気分でいないこと。「自分の裁量で取り組める家事を増やしていくぞ!」という意気込みで、家事を奪っていくぐらいの方がいいのかもしれない。
コツ2:ルールを一緒に決める
3歳の娘のための収納スペース。自分で片付けられるように、棚は三木さんが自作した。
「妻がシェアシップを、夫がオーナーシップを持った」。
そのマインドセットが「家事シェア」の第一歩ではあるのだが、それだけではうまく回らない。次の一歩はどの家事を誰がメインで担当するのかを、民主的に決めていくことだ。その際に重要なのは、家事の性質を見定めることだという。
三大家事と言われる「料理、掃除、洗濯」の中では、「唯一固定された時間に対応しなければいけないのが料理。料理は、不規則な働き方をしていない人、ある程度自己裁量で働ける人がオーナーシップを持つのが理想です」。もしくは、朝ゆっくり出勤できる方が朝食担当、定時で帰れる方が夕食担当という分け方もある。
掃除は、「極論を言えばしなくても済んでしまう家事なので、人によってそろそろ掃除した方がいいよね、と感じる頻度が違う。“きれいさ”への要求レベルが高い方が担当したほうが、うまくいきます」とのこと。
家事の性質と仕事の状況をもとに分担を決めたら、さらに細かいルールを民主的に決めていくことを、三木さんは薦めている。
例えば冷蔵庫への料理の片付け方。三木家では、「タッパーに入っているのはお弁当用の作り置き、お皿にラップは自由に食べていい料理」と区分している。
一見細かくて面倒に見えるが、これも不要な喧嘩をなくすのには有効だ。三木さんが作り置きしておいた料理を、夜帰宅した妻が晩酌のお供に全部食べてしまった経験がもとになっているという。
容器に意味を持たせるなど「その都度相手に聞かなくてもいい仕組み」を作ることが、小さいトラブルを生まず、快適に過ごせるコツなのだ。
コツ3:“パラレル家事”で、一緒に一気に終わらせる
パラレル家事の例。子どもの年齢や役割分担によって変えていく。
「休日に掃除機をかけたいのに、夫がテレビを見ている、という不満もよく聞きます。そんな人に勧めているのが“パラレル家事”です」と三木さん。
「パラレル家事」とは、家にいる時間、一緒に別の家事をすること。メリットは、家事をしている方のイライラがなくなること、そしてパートナーシップを築けることだ。 ありがちなのは、妻が掃除をしている間もテレビを見ている夫のように、「俺は洗濯担当だから、今やる必要ない」と、自分中心のスケジュールで動いてしまうパターン。
家事の性質だけで考えれば、料理以外の家事は好きな時間にやっても支障はない。ただ、1人が家事をしている間、もう1人が休んでいたら……。動いている方は、決していい気持ちはしないだろう。
それなら、「家事」という共通のゴールを目指して、同じ時間に終えられるように取り組んでみる。そういう時間が、2人の絆を強めていく。三木さん曰く、「大事なのは、チームとなって、2人で家事を乗り越えたという経験」なのだそう。
「家事シェア」は、 “なくてはならない存在”になれるチャンス
整理に困る郵便物は、夫・妻・子どもの箱に分けて入れている。
ここまで紹介してきた「家事シェア、実行のための3つのコツ」。
夫婦で家事をシェアすることで、不要なトラブルや夫婦喧嘩が減るだけでも十分魅力的だが、三木さんは「それだけではない」と強調する。
「家事シェアを続けると、お互いが“なくてはならない存在”になれるんです」。
かつて流行った「亭主元気で留守がいい」というCMのコピーは昔のことになりつつある。 今後「家事シェア」が進むことで、「いると邪魔」ではなく「いないと困る」「一緒に家事に取り組むパートナー」という存在に多くの夫がなれるとしたら……。そこには、まさに三木さんがNPO法人tadaima!の設立に込めた願い「10年後も20年後も『ただいま!』と帰りたくなる家庭であふれた社会」が広がっているに違いない。
三木智有(みき・ともあり):NPO法人tadaima! 代表理事・家事シェア研究家・子育てモヨウ替えのコンサルタント。1980年、鳥取県生まれ。設計事務所勤務を経て、2006年、フリーランスのインテリアコーディネーターとして活動開始。 2011年、人にアプローチして住みやすい家を創るため、NPO法人tadaima!を設立。「ただいま」と帰りたくなる家庭を実現するには、男性が家庭をもっと楽しむ必要を感じ 「関係(家事シェア)」と「環境(インテリア)」の両面からサービスを展開。
(撮影・佐伯慎亮)