全ての人に最低限度の生活を保障する社会福祉制度、ベーシックインカム。先日はフィンランドでの導入実験が予定された2年間で一旦終了されることが発表され、話題を呼んだ。
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ベーシックインカムは日本でも、将来の社会保障制度のあり方として関心を集め、2017年総選挙では、希望の党が公約に盛り込むなど徐々に知られ始めているが、まだ導入に向けた議論は始まったばかりだ。だが、民間レベルではベーシックインカムの実験の動きが始まっている。その1つが、神奈川県厚木市にある「ベーシックインカムハウス」だ。現地を取材した。
ベーシックインカムハウスは厚木市にある5LDKの家。家賃・水道光熱費・インターネットは無料。入居者には月々最低限の食事代として1万5000円が支給される。家には使い放題のクルマも1台。
写真:西山里緒
“仕掛け人”はカイリュー木村さん(29)。高校卒業後に始めた不動産事業で成功したことがきっかけ。「若く面白い人たちを一緒に住まわせれば知見も生まれ、事業に新しい風も入るのでは」とハウスを立ち上げた。
写真:西山里緒
2018年2月にTwitterで入居者を募集したところ、60人ほどが集まった。面接して選ばれた20〜30代の5人が住んでいる。
写真:取材協力者
そのうちの1人、青天目光さん(26)は3月に入居した。普段は食生活サポートアプリ「CALNA」を運営するベンチャー企業で働きながら、副業もしている。
写真:西山里緒
大学卒業後、派遣社員としてクレジットカードの営業をしながら、エンジニアとしての腕を磨いた。その後フリーランスエンジニアを経て今の仕事に就いた青天目さん。ベーシックインカムハウスでは管理人も務めている。飲み会好きで貯金は苦手。
写真:西山里緒
榊原佳恵さんは「絵描き」。化粧品の販売員をしていたが、絵に集中するため2017年末に仕事を辞めた。しかし2018年1月、予定していた絵の仕事が白紙に。「路頭に迷いそう」と思っていたところ、Facebookで住人の募集を見つけた。
写真:取材協力者
唯一の「ニート」住人が鶴尾直幸さん(22)だ。専門学校を中退後、派遣会社でウェブデザイナーとして働いていたが、やむを得ない事情で仕事を辞めなければならなくなった。このハウスに入居後は人に会ったり、興味ある知識を深掘りしたりといった毎日を送っている。
写真:取材協力者
みんな多忙で全員が揃うときはなかなかない。住人のひとり、永岡里菜さん(27)は地方創生事業を立ち上げている起業家だ。起業前は「自分の人生、誰の役に立つんだろう?」と悶々としていた時期もあったという。今は夢中になれることを見つけ、週に半分ほどは地方を飛び回っている。
写真:取材協力者
見知らぬ5人の暮らしを支えるカイリュー木村さんだが、「善人だからではなくて、自分の興味を満たしたいからやっている」。ブランド物にもほとんど興味がない。「例えば20億円くらい持っていたら、みんなこういうことをすると思うんです。僕の場合はそれが1億円くらいでもやるっていう話」。
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「最低限度の生活が保障されたら人は何をするのか?」という社会実験のために始まった今回の試み。結果として、ほとんどの人が仕事をしている。「今までは時間よりも、お金のために生きていた。今は自分の時間を取り戻し、精神的・肉体的に幸せです」(鶴尾さん)。
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(文・西山里緒)