一流の経営者が、仕事や人生で実践していることは何だろうか。(写真はイメージ)
『“未来を変える” プロジェクト』では記事の制作段階でさまざまな方と議論し、フィードバックをいただきながら制作しています。今回は、人材開発系コンサルティングに従事し、現在は独立してベンチャーの立ち上げ・成長を支援するインクルージョン・ジャパン株式会社の吉沢康弘さんに「誰でも実践できる老練な経営者たちの集中術」について寄稿いただきました。
組織開発のコンサルティング会社で仕事を始めてからラッキーだったのは、名だたる大企業の創業家出身の経営者を始め、本当に「この人は超一流だ」という人に仕事上で接点を持ち、場合によっては一緒に会社を運営させてもらうなどして、肌身でこうした面々の日常を知ることができたこと。
その中でもいつも驚かされ、そしてそのうち「なるほど、このあたりが老練ですごみのある経営者たちが決定的に “普通の人” と違う点か」と気づかされたことが1つあります。
「無駄なこと・余計なことに注意(マインドシェア)を浪費しない」
これです。彼、彼女らが(おそらく無意識に)実践しているこの技術、コツのうち、一般人である私でも「これはいつでもできるな」というものを以下に紹介します。
誰かに相談や交渉をするならその瞬間に電話しろ
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ある打ち合わせで、某メガバンクの頭取にある依頼をしようという話になったときのこと。ボスはおもむろに携帯電話(割と文字が大きい機種)を取り出し、電話をかけました。
「あー、もしもし、僕だけど。あのさ、◯◯頭取いる? お忙しいだろうから、時間が空いたら電話くれって言っといてよ」
以上。そして、数分後には折り返しの電話がかかってくる……なんともダンディである……。
こうしたやりとりは、経営者たちの行動としてよく見かける光景です。
何かを人に頼むとき、基本的に一番テンションが高まっているのは、その依頼ごとを思いついたとき。合理的に考えても、よほどの理由(高度な根回しが必要な場合? しかし、ほんとうにそんなことありますか……?)でもないかぎり、その瞬間に連絡してしまうのが一番手っ取り早い。
この機を逃してしまうといつ連絡をすればよいか、その都度ソワソワすることになり、マインドシェアを奪われてしまいます。
電車の時間に振り回されるな
ボスはことあるごとに、「電車の時間に間に合わせようなんて、時刻表に引きずられるような人生、やめちまえ」と快活に語っていました。
少し離れた場所で打ち合わせがあるときに、時刻表で電車が出る時間が気になって仕事に集中できないということはないでしょうか。「14時の打ち合わせに間に合うには、13:24に最寄りの駅で電車に乗って……」という風になると、時間が気になって仕事や作業に集中しづらくなってしまいます。
そこで、さっさと次の打ち合わせの場所の近くまで先に移動してしまい、直前までその近くの喫茶店などで仕事をし、打ち合わせに向かうというのがこの技術。電車遅延などのリスクもなく、物理的に近くにいるということは、それだけで時間のマインドシェアから開放されます。
打ち合わせ中に次までの問題解決法を考えろ
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「打ち合わせの後にタラタラと議事録なんて思い出しながら書くんじゃなくて、打ち合わせ中に考えついた問題解決策にさっさと着手しろよな」と語るボス。
打ち合わせが終わったあとに誰が何をしゃべったか、何をどうすることになったかを思い起こし書き出して丁寧に議事録を作ると、それだけ時間が空いてしまいます。さらに曖昧になった記憶をベースに次の打ち手を取るため、少しピントがボケてしまいます。
そこで、打ち合わせの間に「あれがこうなって、これがこうなって、だからあれとこれをこうしよう」という問題解決の具体的なステップを考えてしまい、その算段を打ち合わせ中に書き出してしまうというのがこの技術。
実際にこれをやってみると、打ち合わせ中、そしてその直後に脳みそがフル回転する。なにより、「なんでこの解決方法になったかといえば、ああいう議論、こういう発言が打ち合わせであったからだよな」というように、結果的に一番打ち合わせ内容を覚えていることにもつながります。
家族を大事にしろ
「そこの週は、愛犬の◯◯◯を連れて◯◯さんと軽井沢なので、そこを外して会合の段取りを考えてください」と、いつものトーンで語るボス。
パートナーの方との大事な時間は、某国内大手電子メーカーの役員との会合よりはるかに優先度が高いのです。
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優秀な経営者たちは、プライベート、家族との関係に想像以上にスムーズに、丁寧に対応をしています。たいていの場合、そもそも家族への愛が深く、そしてメンバーへの愛も深いのです(だから、ついていこう!ってすごく思える)。
確かに恋人や妻、あるいは子どもとの関係がこじれ、それが気になって気になって仕事に集中できないという状況は、最もマインドシェアを浪費します。その上、その浪費が何の解決にもつながらず、むしろ放置している時間によって状況が悪化し、さらにマインドシェアを浪費するサイクルにつながってしまいます。
家族や恋人に対しては、関係が悪化する前に常にいつも愛情とマインドシェアを置いておきましょう。そうすることによって、結果的に上記の最悪なサイクルに入ることはありません。半年に1回は旅行を、1カ月に1回は花束を、そして1日に1回はじっくりとした会話を、ということです。
基本、今日死ぬと思え
「僕は、明日は生きていないかもしれません……」とおもむろに語りだすボス。それを聞いた会話の相手は少しギョッとした様子になる……。この場面には何度も出くわすため、横で聞いている私はひるみません。内心「またですか、ボス」と、少しニヤリとしてしまいます。
最後の技術は、本当に今日で人生が終わるという気概で、常にモノごとにあたるということ。常にその目線で考えていると、「余計なこと」「これにわざわざ時間を使うより、ちゃちゃっとこうしたほうがよい」ということに目が向くようになります。
実際にこれをやりはじめると、多くの場合、まず目が向くのは家族や友人、両親などのこと。こうした人たちと「本当にこれで死んで後悔しない?」というのをやり尽くしておくと、仕事にとても集中できるようになります。
そして、「上司の気まぐれで作らされた資料が、5分でその上司のきまぐれでボツになる」みたいな状況に対しては、「だったら先に骨子だけ口頭ですりあわせて、どんな資料を作るかの項目を合意してから作り込む。もしも資料を作らなかったら、誰がどう困る?」といったことを考えて仕事をするようになります。
かくして、人生におけるかぎられたマインドシェアを本当に重要なことに振り向ける技術は、きっと人生を少し豊かにしてくれるのではないでしょうか?
P.S. ちなみにボスたちは幸いにも、今日も元気にご活躍されております。
『YLOG走り書き』より転載(2016年10月7日公開の記事)
"未来を変える"プロジェクトから転載(2017年11月22日公開の記事)
吉沢康弘:P&G、組織開発コンサルティングHumanValue社、および同社でのWebベンチャー創業プロジェクトを経て、ネットライフ企画(ライフネット生命保険の前身)に参画。ライフネット生命保険にてマーケティング・事業開発を担当後、ベンチャーの創業・成長を支援するインクルージョン・ジャパン株式会社を創業し、現在に至る。