変質する中国シェアエコ業界、3兆円企業「MD戦争」勃発 —— アリババ対テンセントに異変

美団

出前アプリでトップシェアの美団が配車アプリに進出。滴滴の牙城を崩せるか、注目が集まっている。

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中国のIT産業をけん引してきたBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)に続く新興企業として、2016年ごろからTMDが注目されている。Tはニュースプラットフォームを運営する今日頭条(Toutiao)、MはO2O(オンライン・トゥ・オフライン)サービスの美団点評(Meituan-Dianping)、そしてDは配車アプリの滴滴出行(DidiChuxing)。いずれも、創業10年未満だが、驚異の成長を続け企業評価額は2兆円を超える。

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メディア、出前アプリ、配車アプリと各々の分野でシェアを固めて来た3社だが、2018年は美団と滴滴がそれぞれの本拠地に攻めこむ「MD戦争」が勃発。プレイヤーが固まりつつあったシェアリングエコノミー業界が再び戦国時代に突入している。

配車アプリ参入の美団、割引と報奨金で滴滴からシェア奪取

美団アプリ

美団の飲食店レビューアプリ。日本企業と提携し、日本の情報も多く掲載されている。

美団はレストランレビューサイト、共同購入などO2Oを幅広く手掛けている。中国人の食生活にイノベーションを起こした出前アプリでは、Ele.me(餓了麼)とトップの座を競っている。一方でこの1年、美団のある動きが注目を浴びていた。事実上一社独占状態となっている、配車アプリへの進出だ。

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美団は2017年2月に南京で配車アプリ「美団打車」の試験運用を開始。そして2018年初め、上海や北京、杭州など複数の都市でサービス正式開始を表明し、3月21日、上海に進出した。配車アプリ業界は数年前に戦国時代を迎え、最終的にはテンセントが出資する「滴滴打車」とアリババが出資する「快的打車」が2015年1月に合併、さらにはウーバーの中国事業も買収した。一強体制が数年続いていたところに、美団が乗り込んできたというわけだ。

飲食店のレビューサイトも運営する美団は、サイトの飲食店情報から配車予約できる機能を追加し、既存サービスのユーザーの流入を図っている。

さらに乗客と運転手を確保するため、割引クーポンや報奨金の大盤振る舞いを始めた。サービスに登録した乗客には、運賃が割引されるクーポン3枚を配布。ドライバーには当面手数料の徴収を免除し、月収1万5000元(約26万円)も可能な報酬体系を設定して滴滴からの乗り換えを促している。

中国メディアの報道によると、実際、取材した滴滴のドライバーの大半が、美団への登録を検討していたという。

当然、迎え撃つ滴滴も割引サービスなどを拡大し、応戦している。

消費者には恩恵、だが市場は混乱

滴滴

滴滴の登場で、中国の配車の利便性は劇的に高まった。

Reuters Pictures

配車アプリはかつても割引合戦が起きたが、滴滴の一強体制確立以降は競争がなくなり、利用料金やドライバーが払う手数料が上昇、不満が高まっていた。美団が参入したことで両社がキャンペーンを競い、上海、南京の消費者とドライバーは少なからず恩恵を受けている。だが、社会には「混乱」、運営企業には「コスト」という副作用をもたらしている。

上海には一稼ぎしようとドライバーが集結している。SNSなどでは、「美団で車を呼ぶと、蘇州など外地ナンバーばかりやってくる」との投稿が相次ぎ、基準を満たさない古い車や、必要な証明書を偽造する違法行為も横行する。

上海市政府は滴滴と美団に、違法車両や割引クーポンの廃止を要求。美団は4月13日、「南京と上海でユーザー向け割引を停止する」と発表し、滴滴出行もコスト割れのサービスは提供しないと表明した。

滴滴は無錫で出前アプを開始

配車アプリに手を伸ばすのは美団だけではない。アリババ傘下でデジタル地図サービスの高徳地図も3月27日、中国内陸部の成都市と武漢市で、配車サービスに参入した。ただし、滴滴も防戦一方というわけではなく、美団の“本拠地”である出前アプリ業界に攻め込み、4 月に無錫で試験サービスに着手した。

競争の構図

アリババ陣営とテンセント陣営の内部でも戦いが起きている。

出前アプリ業界も、この1、2年でプレイヤーの集約が進みつつある。アリババ系の美団網とテンセント系の大衆点評は2015年の合併で「美団点評」となり、テンセント系の立ち位置を明確にした。アリババは意趣返しか、出前アプリで美団のライバルのEle.meに出資。Ele.meが業界3位の百度外売を買収して美団との差を縮め、さらに2018年4月、アリババの完全子会社となった。テンセント対アリババの二強の構図が一層明確になったところに、滴滴が割って入った。

配車アプリのシェア推移

艾瑞諮詢のデータを基に作成

IT業界のサービスは、急成長と淘汰のサイクルで、最終的にはアリババ系とテンセント系に集約されるのが“既定路線”であり、滴滴のように、その2社がくっついて一強になることもある。

滴滴と美団は、この「アリババ対テンセント」の予定調和を崩す第三極のような存在になっている。

黒字化見えぬ「美団」の規模拡大、懸念も

美団と滴滴は、どちらも「シェアリングエコノミー」の寵児だ。モバイルの位置情報とドライバーを組み合わせた事業であることを考えれば、それぞれの技術とユーザー基盤の応用先として、互いの本拠地に攻めるのは自然の流れでもある。今後、TMDのうち、領域が重なるM(美団点評)とD(滴滴出行)の戦いは本格化していくだろう。

とはいえ、美団の多角化路線には懐疑的な声も多く挙がる。出前アプリでEle.meと激しいシェア争いを続ける美団は、採算度外視でクーポンを大量投下。当然ながら同事業は黒字化には至っていない。

新規参入した配車アプリでは、巨額の投資をもってしても、滴滴の牙城を崩せるかは不透明だ。さらに美団は4月、シェア自転車大手のモバイク(摩拝単車)を完全子会社化した。モバイクもアリババ陣営のofoと生き残りをかけた消耗戦を続け、資金調達で運転資金を工面している企業だ。

美団は、飲食を軸とした事業から、外出を広くサポートする事業に“進化”する方針を表明しているが、スピード感でリスクを吸収することになれている中国人関係者ですら、同社の性急な規模拡大を懸念している。

(文・浦上早苗)

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