漫画村問題:海賊版サイトブロッキングに代案はあるのか? インターネット事業者らが提言

4月13日に内閣府が発表した、「漫画村」「Anitube」「MioMio」などの海賊版サイトへの緊急対策案。

これを受けて、情報法制研究所(JILIS)とインターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)が共催で、同対策についての緊急提言シンポジウムを開いた。

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「2年以上の議論が実感できない」ほどの急展開

中村伊知哉

中村伊知哉氏は、発表は政府の姿勢を示すことが一義的な目的だった、と話した。

シンポジウムでは、政府の発表に対して、インターネット事業者側から抗議の声が上がった。

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)客員研究員の楠正憲氏は、サイトブロッキングの議論に対して「検討会に権利者サイドの人しかおらず、ちゃんと調べて議論していない。なし崩し的に決まっている」と指摘した。

政府の知的財産戦略本部の委員会のメンバーである中村伊知哉氏は「海賊版のサイト対策は知財本部の委員会で2年以上に渡って議論が行われてきた」と述べた一方で、インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)理事の丸橋透氏は、「(2年以上の)議論がISP側としては実感できないままここまで来てしまった」と語った。

「権利者は何もやっていない」は本当か?

出版社による海賊版対策がどの程度まで行われていたかにも、話は及んだ。

GLOCOMの楠氏は、ブロッキング対象として指定されたうち「漫画村」「Anitube」のコンテンツが日本国内から配信されていたことに触れ、プロバイダー責任制限法(総務省資料を参照)に基づき、情報開示請求やコンテンツの削除申請といった対策を取ることができたのでは、と述べた。

東京大学教授の玉井克哉氏は、「(公開された資料の)被害額が3000億円というのなら、その1%を使って出版社側が対策を講じられないのか。権利者がどこまで本気なのかが見えないうちに政治が動くのは良くない」とした(玉井氏は日本音楽著作権協会(JASRAC)の外部理事でもある)。

これに対して、著作権問題に詳しい村瀬拓男弁護士は「出版社が何もやっていないと言われるが、そんなことは全くない」と反論した。

村瀬弁護士によると、アメリカのデジタルミレニアム法(DMCA法)に基づき、多い出版社であれば1社当たり月に約4万件ほどの削除申請をしている。違法コンテンツを流すコンテンツ配信ネットワーク(CDN)サイトにも削除申請・開示請求は行われており、訴訟の検討もしたという。

「漫画村」のコンテンツを配信していた「Cloudflare(クラウドフレア)」を日本で訴えることができたのでは、との問いに、村瀬弁護士は「検討はしていたが、その結果を実行する前に政府の決定が発表された」とした。

オーバーブロッキング、補償……ブロッキング法制化への課題

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サイトブロッキングは、技術的・法的に大きな課題がある。

今後必要になるだろう、サイトブロッキングを立法化するに当たっての課題についても議論が行われた。

日本DNSオペレーターズグループ代表幹事の石田慶樹氏は、すぐにドメイン名を変えてしまう海賊版サイトに対し、ブロッキングするリストを正規に作り、リアルタイムに更新していく難しさを指摘した。また、ユーザーによる回避が容易であるため、それを阻止しようとすると、本来対象外のサイトまでブロッキングしてしまう「オーバーブロッキング」や「ブロッキング漏れ」が起きやすい、とも述べた。

森亮二弁護士は、立法化の際は、通信の秘密と著作権の「権利の比較」が重要になってくると語る。森氏は同じく権利の侵害でありながらブロッキングの議論には登らなかったプライバシー侵害や名誉毀損は対象になるかどうかも考える必要があるとした。

京都大学の曽我部真裕教授は、ブロッキングを義務付けるかどうかが問題になると語り、義務付けるとなれば、ブロッキングの運用に関わるプロバイダーの費用をどう補償するかも検討する必要があると述べた。

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通信事業者の立場による、オーバーブロッキングやブロッキング漏れ問題が端的にわかるスライド。緊急避難としてブロッキングの運用を開始するのであれば、その効果は「特効薬」であるべきだが、実際には弊害や実質的な抜け穴が多いという指摘だ。

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サイトブロッキングの運用にあたっては、こうした問題にどう対処するか、実効力を発揮する方法は何か、という議論も必要。

サイトブロッキング「以外」の方策はないのか?

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また、ブロッキング以外に出版社が取りうる海賊版サイト対策に関する議論では、ウェブサイトの削除申請、ドメインの差し押さえやCDNの利用停止といった方策のほか、資金源対策として広告規制を進めていく必要があるとの意見が上がった。

GLOCOMの楠氏は、海賊版サイトがリーチサイトを介して実際にどこから配信されているか見えにくくなっている場合など、権利者が技術的な相談をできる窓口を作るべきでは、と提案した。

さらに、村瀬弁護士は「抽象論では結論が出ない。対策が必要だ、という合意が取れるのなら、結論が出ない論争を可能な限り乗り越える必要がある」と指摘した。

「通信の秘密の侵害」に学生はピンと来ていない

漫画村

海賊版サイトを使いながら、サイトブロッキングに賛成する学生もいるという。

それでは、著作権や「通信の秘密」に関する議論を国民を巻き込んで呼び起こして行くにはどうすればいいのか。シンポジウムでは次のような指摘がなされた。

立命館大学の上原哲太郎教授は「学生に聞いてみると、『通信の秘密』の侵害だと聞いてピンと来る学生はほとんどいない。漫画村を使ってしまっている学生も多い一方で、8割5分くらいがブロッキングに賛成と答える。(原理原則ではなく)テクニカルにできるならやってもいいんでしょ、と思っている」と注意を喚起した。

東京大学教授の玉井氏は、2000年代前半に流行したP2P型のファイル共有サービス「Napster」に関連した著作権侵害コンテンツに対しては、訴訟で対処した際に「新しいビジネスを古い既得権者が潰しにかかっている」と批判されたことを振り返った。

「そういうものがなくなった後は、Apple Musicやアマゾンのような正規業者がサービスを提供している。今はJASRACの年間収入の約10分の1はYouTubeから入っている」(玉井氏)

著作権侵害が許されないことは大前提にありながらも、正規サービスを充実させることが結果的に権利侵害対策になるという見方も、注目すべきところだ。

(文・写真、西山里緒)

編集部より:初出時、「上原教授」としておりましたが、正しくは「立命館大学の上原哲太郎教授」です。訂正致します。 2018年4月25日 17:30
(edited)

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