北朝鮮問題、3つの「勘違い」——経済は安定、核政策の目的、日本抜きに進む枠組み

北朝鮮の金正恩労働党委員長が4月20日、核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の中止と、東北部豊渓里(プンゲリ)にある核実験場の廃棄を発表した。

非核化に向け一歩前進の印象を与えるが、これまでの姿勢を転換したわけではない。4月27日に予定される南北首脳会談、その後の米朝首脳会談を前に「朝鮮半島の非核化」に向けた「本気度」をアメリカや西側に見せるメッセージにすぎない。

北朝鮮の核・ミサイル問題で陥りがちな「勘違い」を3つ挙げる。

「半島」非核化と「北」非核化は違う

金正恩労働党委員長

核・ミサイル実験の中止と核実験場の廃棄を発表した金正恩氏。そのメッセージを読み解くうえで陥りがちな3つの勘違いとは。

KCNA/via Reuters

第一は、北朝鮮の主張は「朝鮮半島の非核化」であって、北の一方的な非核化ではない。

その違いを理解するには、彼らの核・ミサイル開発の目的を知らなければならない。それは「政権の安定維持と安全保障を担保するため」(金氏「新年の辞」)の手段ということだ。

「韓国やアメリカを攻撃するためではなく、北朝鮮の主権の確保、政権維持のためという安全保障上の意味が強い」(李在禎/イ・ジェジョン元韓国統一部長官)

防衛的な性格なのだ。

トランプ大統領に直接対話を受け入れさせたのも、核政策の正しさの証明ということになる。リビアのカダフィ政権は、核放棄を公言した途端崩壊した。大量破壊兵器を持たなかったイラク・フセイン政権もまた、米軍事攻撃で吹き飛ばされた。軍事的に劣勢に置かれた北朝鮮が生き延びるには、核兵器を手に軍事攻撃を抑止する以外の選択肢はない。

だから無条件で「丸裸」になる可能性はゼロだ。(1)米朝国交正常化(2)朝鮮戦争の終戦と休戦協定を平和協定に転換 —— など、北が納得できる体制保証措置が不可欠。「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化を達成し、その後に見返りを与える」というアメリカに対し、北朝鮮は3月末の中朝首脳会談で「段階的で歩調を合わせた措置」を提起した。

朝鮮労働党中央委員会の決定も、非核化に言及せず「核開発の凍結」にとどめた。韓国は、米朝首脳間で非核化と体制保証実現という大枠でまず合意し、その後の履行過程で北朝鮮に見返りを段階的に与える折衷案を描くと見られる。

「朝鮮半島」非核化の意味は幅広く、さまざまな解釈が可能だ。北朝鮮は以前から在韓米軍の役割変更に加え、日本や韓国への「核の傘」の廃棄を「北東アジア非核化」の前提にしてきた。米日の核専門家は「北はいずれ日韓への核の傘や、核非拡散体制(NPT)による5大国の核独占と連動させ、北東アジアの非核化を主張してくる」と見る。

体制保証には長い時間とプロセスが必要になる。当面の落としどころは「凍結」という核保有の容認である。

対話は圧力の成果ではない

トランプ大統領

トランプ大統領は対話スタートは圧力の成果だと強調している。

REUTERS/Kevin Lamarque

第二の勘違いは、北が対話路線に舵を切った動機。

安倍首相はトランプ大統領との電話会談で「我々が続けてきた最大限の圧力の成果」と述べた。果たしてそうか。北朝鮮経済の専門家が口をそろえるのは、北は制裁にもかかわらず着々と経済力をつけ、2016年はGDP成長率が4%弱と17年ぶりの成長率を達成した。

4月半ば平壌を訪れた記者によると、平壌の市民生活に変化はなくスーパーでの品ぞろえや物価は2017年と変わっていない。店舗内の外貨交換所の為替レートも2017年年末と同じ1ドル=8000ウォンのまま。石油供給の制限にもかかわらず、市内の交通量は減っていないし、タクシーは頻繁に往来している。一時高騰したガソリン価格も「安定している」という。

こうした現状を見れば、対話路線への転換が「圧力の成果」ではないことが分かろう。

むしろ次のように解釈すべきではないか。

米軍事力行使が現実的可能性を帯びる中、国境を超えて核管理をもくろもうとする米中の新しい協調体制が、体制崩壊につながりかねないことを金氏が真剣に恐れたこと。それが最大の動機ではないか。

米朝首脳会談の開催が決まった直後、金氏が初外遊として中国を訪問し、関係改善に打って出たのは、米中協調にくさびを打ち、中国の後ろ盾を得るためだった。中国も改善へと舵を切った。中国が得たものも小さくない。

習近平主席は3月9日のトランプ大統領との電話会談で、米中と韓国、北朝鮮の4カ国による平和協定の締結など「新たな安全保障の枠組み」を提唱した。中国の存在感は高まり、対話への転換は中朝にとって「ウィンウィン」になった。

南北コリア主体を重視する文大統領

第三の勘違いは韓国の文在寅大統領の役割。日米両国は米韓同盟と日米韓3国の連携強化を主張する。しかし、「北と文氏の主張は米韓や日韓より近い」(在京北朝鮮筋)。「南北コリア」を主役とする文氏のスタンスを見誤ってはならない。

南北首脳会談で韓国は、(1)非核化(2)朝鮮半島の平和体制構築(3)南北関係発展 —— の3点を議題に設定している。文大統領は最近「米朝それぞれの利益を中立的立場で考えろ」と、驚くべき指示を出した。「アメリカと北朝鮮の利益を同列に扱うよう」求めた指示に、準備に当たった関係者は目を丸くしたという。

北朝鮮による弾道ミサイル発射実験

今回の金正恩氏のメッセージは決して「北の非核化」ではない、と指摘する専門家は多い。

REUTERS/KCNA

文大統領は4月19日の報道機関社長らとの会食でも、「北朝鮮は完全な非核化の意思を表明した」とし、「終戦宣言を経て平和協定の締結に進むべきだ」と強調した。戦争の危機をはらんだ今回の膠着状態に風穴を開けたのは、中国でもなければロシアでもなかった。

「何としても戦争だけは防ぐ」として、トランプ大統領の軍事行動に協力しない姿勢を鮮明にした文大統領と、このイニシアチブに金正恩氏が乗った「南北協力」の成果である。

米朝の歴史的和解が実現すれば、大国間の利益の草刈り場になってきた朝鮮半島で、「南北コリア」という新主役による初の外交成果になる。

「安倍政権に独自外交を期待するのは無理」という声は強いが、あえて付け加えれば、第四の勘違いだと思う。今後、必ずテーブルに乗る議題が日朝関係正常化と対北朝鮮経済協力である。正常化するには200-500億ドルといわれる補償(経済支援)を覚悟しなければならない。

日本は、北朝鮮への植民地支配という「帝国の負債」の清算が済んでいない。北朝鮮と関係正常化を進め、負債の清算と同時に、東アジアの平和構築に積極関与すべきだ。平和構築という主要課題のために、関係正常化と経済支援を優先すること。拉致問題は副次的課題にする決断が必要だろう。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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