落合陽一が語る介護と障がい「多様性をもったAI」が生むやさしさとは?

落合陽一筑波大学准教授・学長補佐は今、盛んに吠えている。人口減少・高齢化社会を超える社会づくり、あるいは多様性拡張のテーマについてだ。

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身体で音楽を聴くコンサート《耳で聴かない音楽会》にて。左が落合陽一氏。

撮影:古川雅子

4月22日に東京国際フォーラムで開催された、聴覚障がいのある人もない人も楽しめるコンサート「耳で聴かない音楽会 落合陽一×日本フィルプロジェクト VOL.1」は、今までにない音楽体験だった。

会場には、音に呼応する光や振動でオーケストラのリズムに乗る聴衆の姿も。その1人、10年近く前に聴覚を失ったという女性は、“音を着る”ジャケットや、“音を抱く”ボール、ヘアピンのように髪の毛につけて振動と光が伝わる「Ontenna(オンテナ)」により、「全身で音楽が味わえた。音楽を聴く『感じ』を思い出すことができて感激です」と話した。

落合氏は3月下旬に千葉県柏市のサービス付き高齢者向け住宅「銀木犀〈柏〉」で開かれた講演会「シンギュラリティ時代の介護と多様性」にも登壇したばかり。なぜ今、落合氏は熱く「介護」「障がい」「多様性社会」を語るのか?

多様性を拡張するAI技術が介護現場に

例えば、落合氏が率いる筑波大学デジタルネイチャー研究室(落合研究室)が進めている開発の一つに、「テレウィールチェア」という、AI技術を用いた自動運転の車椅子がある。はやりの「自動運転車」と同様に、多様な運転状況への対応が課題だ。3次元空間のデータを取りながら、End-to-End学習(深層学習のみで、入力データから出力を直接得る枠組み)と呼ばれるアプローチにより課題の解決に挑む。

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開発中の「テレウィールチェア」のハードウエアは汎用技術の組み合わせで構成されているという。

提供:筑波大学デジタルネイチャー研究室

ただし、いわゆる「自動運転車」とは目指しているゴールが異なる。目的は全自動による運転ではなく、介護現場における省力化と、自然なコミュニケーションによる介護の実現だ。落合氏はこう話す。

「どうやったら自然な環境をつくれるかを考えられるのがAIのいいところ。僕が介護現場で変だなと思ったのは、既存の車椅子はその構造上、介助者が常に後ろから声をかけざるを得ない。介護するもされるも関係なく、隣でしゃべりながらっていう普通の移動時の環境は、テクノロジーを使えば車椅子でも実現できる」

「全てを自動化する必要はないんです。リモコンでの操作で、ある程度自動で走ってもらえる、かつ安全性は大事だから、追尾システムで何かにぶつかりそうになったら自動で止まる。その程度の自動化でいい」

人手不足の介護業界。介護スタッフの日常は忙しく、業務に追われ、ケアに十分な時間を割けない現状がある。

その打開策の一つとして、落合研究室ではこのテクノロジーを使って3、4台の車椅子を同時に走らせることも可能にしていくという。車椅子に乗る人の移動や車椅子への移乗などの力仕事は安定したロボットに任せる。介護スタッフは利用者とのコミュニケーションやケアに充分な時間を使えるようになる。

未曾有の少子高齢化社会に突入していく日本では、機械と人間のすみ分けにより介護のあり方そのものをアップデートしていく必要があると、落合氏は考えている。

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3月27日に開催されたトークイベント「シンギュラリティ時代の介護と多様性」に登壇した落合陽一氏。

撮影:古川雅子

実課題を持ち寄る「場」が発明の源泉に

落合氏の頭に大きく浮かんでいるテーマは、「インクルージョン」(多様な人々が対等に関わりあいながら一体化している状態を指す)。テクノロジーが進化した今だからこそ、社会が多様な「個の力」を引き出していける可能性が開けた。

ただ、そのための課題もある。

例えば、視覚障害者の目が見えない状態がどんなものかをリアルにイメージして、どういう人がどういう風に困っているか。一般人にはそのイメージをつかむことが難しい。だから、「課題を解く前にそもそも課題の中身自体がわからない」(落合氏)。

「さらに個別性が高すぎると経済性にも乗りにくいから、企業単体でも解決できない。だったら大学で、と思うかもしれないけれど、そうした個別の問題を顕在化させるのは大学でも難しい。そうすると、どこに行っても『どうしよう?』みたいな話になっちゃう」

そこで落合氏が考えているのが、課題がある人と大学や企業をつなぐ「共同体」。2017年から、仲間とともに「X DIVERSITY(クロスダイバーシティ)」という活動を始動。2020年のパラリンピックも見据え、インクルージョンを拡張するテクノロジーの「社会実装」に挑む。

正式にはJST(科学技術振興機構)のCRESTに採択された「計算機によって多様性を実現する社会に向けた超AI基盤に基づく空間視聴触覚技術の社会実装」という、実に長い名前のプロジェクト。落合氏は研究代表者を務める。

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「X DIVERSITY(クロスダイバーシティ)」を率いる4人。左から、ロボット義足研究に打ち込むSonyCSLの遠藤謙氏(29)、聴覚支援技術を開発する富士通の本多達也氏(27)、落合氏(30)、大阪大学准教授の菅野裕介氏(30)と若手ぞろいだ。

提供:X DIVERSITY

ポイントは、「多様性を持ったAI」。人や環境の「違い」をAIとクロスさせ、多くの人に寄り添う問題解決の仕組みづくりを目指す。いわば、持ち寄りの知とその解決法をつくる実践場だ。まず、当事者の多様な実課題をデータとして集める。それが、これまでどのセクターでもうまくプロジェクトに組み込めなかった「知の拡張」の行程だ。

キーワードは「ハッカブル(hack+able)」

例えば、身体や感覚器がはらむ課題を「知能化」するプロジェクトの一つとして、聴覚障害者向けのデバイス作りがある。X DIVERSITYの主共同研究者である本多達也氏が在籍する富士通では、もともと聴覚を代替する手段として、音が鳴った時に振動したり光を出したりするデバイスを作っていた。《耳で聴かない音楽会》でも、その技術を応用した。

あるいはそれぞれの身体に合わせ、個々に違う強度や弾力性が求められる義足を立体造形するプロジェクトもある。主共同研究者でSonyCSLの遠藤謙氏が中心になって進めている。利用する1人1人に最適なCGが描けるか、それを効率よく安全性も担保して3Dプリンティング技術で作れるかなどに細かいノウハウがいる。

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《耳で聴かない音楽会 落合陽一×日本フィルプロジェクト VOL.1》で使用された“音を抱く”テクノロジー「SOUND HUG」。

“共同体”である「X DIVERSITY」の利点は、当事者が自分で自分用のプログラム書けるように、技術が「ハッカブル(ハック可能)」な仕組みにするところだという。例えば10代で足を失くした子がいたら、その子が自分用の義足のプログラムを書けたら、それが一番いい。「企業はPL(製造物責任)法がキツイから下手に安価品は作れない」(落合氏)からだ。

「技術を使いやすいように共同体の“場”に用意しておいて、技術的な指導とコーディネート役をつけてあげれば、その人が自分で欲しいものをつくれる。リーズナブルにね。作り手にもつなげて、その作り手にもお金が落ちる仕組みを作ればいい。課題を持つ人にとってみれば、従来はニッチなゆえに高価にならざるを得なかった既製品を買わされずに済む。その人自身が地元の団体と一緒にチューニングしながらその技術を動かしていければ、常時、低コストで素早い問題解決が可能になる」

息子の障がいがもたらした気づき

落合氏がこうした技術実装への「アプローチ上の課題」に思考を巡らせた背景には、自身の息子の障がいも関係している。

「1歳になった息子には口唇口蓋裂という先天性の障がいがあって、生まれた翌日に歯科に行ったら、授乳のための機械をポコっとつけてもらっていて。その後体重が増加したら、手術でどうキレイにしていくかがテーマに。外科の先生とビジュアルのデザインをしていった。それで最近、手術したらきれいに治ってきた。小学生になる頃からは、言語療法士についてもらうことと、歯の矯正ですね。歯の矯正は僕も小学校の時にやっていたから、もはや障がいを意識しないというか、息子がこれから経験することは、あんまり自分の経験と変わらないかなって」

「なんで息子が一連のケアを受けられるかというと、世界で年間20万人ぐらい同じような症例の子が生まれているからなんです。ニーズが多いところには知が集まって、過程ごとに対処法が創発されていく」

「でも、それよりも個別性の高い症例だったら、こんな風にはいかないだろうと想像した。だから、当事者から得られる『一人称の知』を一つ一つのデータセットとしてまとめていく行程を“場”の力で実現する。そのために、せめてAIの部分は共同体で統合して運用するアプローチにしようと。それが一つの目標です」

次世代教育に欠かせない「自前思考」

これから大事なのは、一人一人の意見を尊重するインクルージョン。そのためにも自分たち自身に「自前」のマインドを持つことが大切だと落合氏は強調した。

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眼球の水晶体を介さず網膜に直接映像を当てる「網膜投影(Air Mount Retinal Projector)」でメガネ型のデバイスを実現すれば、老眼や近視、遠視の人もものが見やすくなると落合氏は言う。

提供:筑波大学デジタルネイチャー研究室

「僕らみたいな新しいアプローチを続けていくと、2050年ぐらいまでに結構いろいろな問題を解決していけて、みんながすごい得をする時代がくると思う。そのためにも、教育を変えていかないと。例えば今の小学生が、友人が病気で足を切断することになったと聞いたときに、『じゃあ、その子のために足をつくってあげよう!』と思う人材になれるかどうか。今までだったら、僕らのプロジェクトにいるSonyCSLの遠藤(謙)さんみたいに、足を作るものづくりの側に回ろうとする人って、あんまりいなかったんじゃない?」

「今度、公教育にプログラミングも入ってくる。普及のためには、こう伝えればいいと思う。『我々の社会には課題がたくさんあるけれど、プログラミングは技術の力を使って我々が悲観する現実を輝かしい未来に変える方法の一つ。だから、皆さんプログラミングを覚えましょうね』と。何の言語を学ぶかはどうでもいい。大事なのは、その動機の部分を太くする教育だよね」

介護をテーマに語った3月の講演会で、落合氏が放った次の一言が心に残った。

「我々の解決法は、我々の中にしかない」

(文・撮影:古川雅子)

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