必要な事業資金を自治体が稼げる仕組みづくりを——渋谷区の「渋谷未来デザイン」が画期的な理由

人々の生活が多様化し、行政に対する社会的ニーズも多様化する一方、財政的にも限界が見え、行政が主導し開発を進めてきたまちづくりの形も大きく変わりつつある。

4月2日、渋谷に住む人や働く人、渋谷にオフィスを置く企業など、渋谷に集う多様な人々や組織が連携して、社会的課題の解決策と可能性をデザインする組織「一般社団法人渋谷未来デザイン」が設立された。

この“国内初”の取り組みが生まれた経緯と可能性について、渋谷区長の長谷部健氏、渋谷未来デザイン事務局長の須藤憲郎氏、渋谷未来デザイン代表理事の小泉秀樹氏に話を聞いた。

渋谷未来デザイン対談

継続的に創発する産官学民の組織

Business Insider Japan(以下、BI):「渋谷未来デザイン」が設立された経緯は?

長谷部健(以下、長谷部):今行政が抱える課題は本当に多様で、全て行政で解決することは難しい。課題解決だけでなく、新しいカルチャーを作るのも行政は苦手。

でもカルチャーは、渋谷区が評価されている要素の一つでもある。このまま新しいカルチャーを発信し続けたいし、最近はテック系企業がさらに活力を増そうとしている。規制緩和や補助金でその人たちが生き生きと活動しやすくする、というのが今までの区の役目。

長谷部健区長

自ら渋谷区で生まれ育った長谷部区長。いろんなカルチャーを生み出したこの街の強みをさらに進化させたいとしている。

今後は住んでいる人や働いている人などのために、規制緩和だけではなく、区からもアイデアを出して、手を組んでやっていきたい。行政や企業のリソースをお互いに持ち出して、シナジーを生み出していくイメージですが、今まではそういった組織もなかった。プロジェクト単位で産官学民はあっても、継続的に創発したり熟議したりするものはなかったと思う。

世界には例えばアメリカ・ポートランドのPDC(ポートランド・ディベロップメント・コミッション)のように、行政が民間と組んで街づくりや文化を発信する組織がある。それらを研究し、「渋谷未来デザイン」にたどり着いた。

渋谷にあるうねりを上手く取り入れたい

BI:須藤さんは長年行政で土木建築に関わってきた立場から、現在の街づくりにどういう課題を感じていますか?

須藤憲郎(以下、須藤):街づくりを進める上で、どうしても行政対住民みたいになり、一緒に作り上げるのが難しいと感じていた。それをなんとかしたいと、3年前から、全国で設立されている「アーバンデザインセンター(公民学が連携したまちづくりの推進組織・施設)」 の良いところを渋谷らしい形で実現するにはどうすれば良いか考えてきました。

長谷部:区長になってすぐ、プロジェクトとしてリサーチを始めたんです。

須藤:上手くいっているところもそうでもないところもあって、民間が作るとなかなか行政が入ってくれないとか、行政側が作ると人やお金の話がずっとついて回ったり。

そこで2015年に「“かも”づくりシンポジウム」(「未来の渋谷の可能性をひろげるシンポジウム〜Making Maybe.”かも”づくりフューチャーセッション〜」)をやったところ、約200人が集まり、「自分ゴトとして街を変えたい」と考えている人が我々の想像以上にたくさんいることに気づいたんです。

長谷部:この渋谷にあるうねりみたいなものを上手く取り入れたら大きな原動力になるよね、と。

渋谷未来デザイン事務局長須藤憲郎

住民、区の職員として何十年も渋谷の変化を見てきた須藤さん。

企業にも参加してもらってますが、継続的に意見交換や情報交換をしながらプロジェクト毎に進めていきます。5Gやキャッシュレスの時代になっていく中で、それ前提で店の形やオフィスを考えた方が良い。

でも行政はこういう発想にならない。だけど、渋谷未来デザインだったらそれができる。

須藤:地域活動を継続してやってきた人にも入ってもらっていて、行政が一方的に進めるのではなく真ん中に立って、意見を交換しながら一緒に進めていきたい。

自立して稼ぐ仕組みづくり

長谷部:「渋谷未来デザイン」が各地の「アーバンセンター」と違うのは、自立しようと自分たちで収益を上げようと考えている点。今までは行政がビジネスをするというのは第三セクター(NPOなどの非営利団体や、国や地方自治体と民間が合同で出資・経営する企業)の考え方だったけど、渋谷未来デザインは渋谷区以外の自治体とも連携し相互に協力した事業展開をしようと思っている。

BI:行政が稼ぐ、というのは具体的にどうやって?

長谷部:例えば地方のモノを渋谷でPRしたり、現状は禁止されている公道での有料イベントもやりたい。例えば大晦日のカウントダウンも有料にした方が安全を確保するためには良いと思っている。他には、ビックデータの活用も考えられる。行政が持っているビックデータと企業のビックデータを掛け合わせると、マーケティングで非常に有用になる。

須藤:もちろんお金儲けのために新しい組織を作ったわけではなくて、区民サービスとなる新しい事業をやる上で必要な資金を自分たちで稼ぐということです。

近年、事業会社と連携して公共資産を全国的に活用する動きが進んでいるが、代表理事の小泉秀樹・東大教授は「ほとんどが財政面での活用で、地域のコンテキスト(文脈)にあった形で活用されていない。渋谷にあった形で活用していきたい」と意気込む。

ニーズ多様化、平均的なサービスでは足りない

BI:なぜ今までこういう取り組みがなかったのでしょう?

長谷部:それは明快で、自治体と企業、自治体と区民の間に見えない壁があったから。 それは行政側が作っている壁だったのです。

行政は言われたことや決まったことを、法に忠実に遂行する。お金を稼ぐ仕事をどっかで他人事だと思う部分もある。当事者としての経験がないから、その尊さがわからない。口では産官学民と言っていたけど、実際はできていなかった。でももうそういう時代じゃない。

須藤:今こういう動きが出てきたのは、危機感だと思う。ニーズが多様化し、平均的なサービスでは足りない状態になっている。民間がやった方がいいことも、今まで通り自治体がやった方が良いこともあり、それをちゃんと考えていかなくてはいけない時代になった。

長谷部健渋谷区長と須藤憲郎事務局長

渋谷未来デザインのような組織がなかった理由について、長谷部区長は「自治体と企業、自治体と区民の間に見えない壁があったから」だと語る。

小泉氏は渋谷区の課題についてこう指摘する。

「長年渋谷区を見てきて、個人的には多様性が失われつつあるんじゃないかと思っている。今は若者が遊んだり、働く街になっているけど、前はもっと生活の場でもあった。少し通りを曲がったりすると面白い店があったり、もっと街の魅力が強調されてもいい」


長谷部健(はせべ・けん):渋谷区長。博報堂を退職後、ゴミ問題に関するNPO法人「green bird」を設立。2003年に渋谷区議に当選し、計3期区議を務める。2015年、渋谷区長選挙に出馬・当選。

須藤憲郎(すとう・けんろう):一般社団法人渋谷未来デザイン事務局長。1977年から渋谷区役所。土木部において道路空間の再配分による歩行者空間整備、渋谷駅周辺整備に関わる都市計画、エリアマネジメント組織組成などに従事。

小泉秀樹(こいずみ・ひでき):一般社団法人渋谷未来デザイン代表理事。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授。専門は、コミュニティ・デザイン、協働のまちづくり、市民主体のまちづくりなど。

(聞き手、構成・室橋祐貴、写真・今村拓馬)

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