米中対立は「幻想」—— 衝突できないこれだけの経済依存

会談するトランプ米大統領と習近平国家主席

Reuters

つくづく予測不能な人だ。

トランプ米大統領のシリアへの軍事攻撃で、習近平・中国国家主席との初の米中首脳会談はすっかりかすんでしまった。 ただシリア攻撃が核・ミサイル開発を急ぐ北朝鮮と、それにブレーキをかけられない中国へ向けられたメッセージであることを習氏もよくわかっていた。会談で2人は「北朝鮮の核開発は深刻な段階に達した」とし、核開発抑制のために両国が協力を強化することで一致したという。

もう1つの懸案の貿易不均衡問題では、解決に向けた「100日計画」の策定で合意した。先送りであろう。会談の細かい内容は新聞に譲る。冷戦終結から間もなく30年。21世紀の国際政治を左右する米中関係をどうみたらいいのか。その基本的構造と経済関係それに中朝関係をおさらいする。

「衝突せず、対抗せず、相互尊重」の原則

ゆっくり凋落し続ける米国と大国化する中国。米一極支配時代が終わり、多極化する世界で、米中関係は日米、日中など他の二国間関係の在り方を縛る大枠組みになった。安倍晋三首相は米中会談に先立ちトランプ大統領と電話会談したが、彼にすがり、願いごとをする以外の主体的行動はとれない。日米関係は米中関係の副次要因にすぎないことは知っておいたほうがよい。

中国政府は1月、「アジア太平洋安全保障協力白書」を初めて発表した。これを読むと、中国が米国に何を期待しているのかがよくわかる。ポイントは「中国は米国の新政府と共に、衝突せず、対抗せず、相互尊重し、ウィンウィンの原則の下で地域、地球規模の各領域で協力、不一致を健全に管理する」の部分だ。 米中主導で地域の安保協力を構築したい本音が透ける。

「衝突せず、対抗せず、相互尊重」という原則を覚えて欲しい。この原則の下で「新しい大国関係」を築くアイデアは、習国家主席とオバマ前大統領との首脳会談以来の主張だ。 台湾や南シナ海、ハッカー攻撃など、米中の安保上の対立要因を挙げればきりはない。

ではその基調は対立なのか、それとも協調にあるのか。

ここで問われるのは、両国関係に対するわれわれの視線そのものである。対立を強調する立場からは、「米中新冷戦の復活」という極端な見立てが出てくる。この視線は、尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題が、日中間の火種になって以来、「嫌中」と「脅威」をあおる日本メディアに特徴的だ。中国の「軍事拡張と領土的野心」から日本を防衛するという論理から、米中対立を利用し日米同盟の強化や、独自の軍事力強化を求める声すらある。「安保法制」の思想でもある。

しかし、これらの問題で対立しても「衝突せず、対抗せず」の原則が生きれば米中衝突はない。安保法制の思想とは、米国と旧ソ連が2つの陣営に分かれて対立し、一方の利益は必ず他方のマイナスとなる「ゼロサムゲーム」の思考である。トランプ大統領が何を言おうと、われわれは多極化と経済相互依存が進む新しい世界に足を踏み入れているのだ。

トランプ米大統領と習近平国家主席

Reuters

国債で米国の財政赤字支える中国

中国の外貨準備は一時4兆ドル(現在は3兆ドル)を超えた。この多くはトランプ大統領が問題視する貿易黒字。中国はドルを売って人民元を支える一方、外貨準備で米国債を買ってきた。対米黒字分で米国の財政赤字を補っているのである。

2008年のリーマンショック以来、米政府は中国による米国債売却に神経質だ。 中国が大量の米国債を手放せば、米経済は致命的な打撃を受ける。同時にドル急落は中国の「大損」を意味する。中国が持つ巨額の米国債が紙くずになるからである。ドルに代わる基軸通貨が見つからない以上、ドル体制維持は双方の死活的利益である。軍事力もかすむほどだ。米中の経済相互依存は、対立しても「衝突」できない構造的保証になっている。

「中国人はトランプが好き。在米華人はこれまで大統領選で棄権してきたが今回は違う。投票した人の大半はトランプ支持だった」

こう言うのは国際政治が専門の旧知の中国人学者。なぜトランプ好きなのか。「取引(ディール)」は中国人も大好きだしね」。宋時代から商業資本主義が芽生えた中国人は「商売上手」なのは間違いない。

中国のトランプ大統領との「取引作法」を分析した文章を紹介しよう。英BBCの中国語サイトの「トランプ取り込み策略」である。

  1. トランプの家族と関係を良くする(婿のクシュナーは中国とのパイプ役。中国語ができる孫娘をほめちぎる)
  2. お土産は「たんと」(中国での「トランプ・ブランド」登録の迅速さ)
  3. 挑発に乗らず(台湾問題で厳しく批判せず、譲歩を引き出す)
  4. 譲歩と協力姿勢(北朝鮮に対する石炭輸入の停止)
  5. 相手の弱点利用(ダボス会議で、習は米国に代わり自由貿易の旗振り役に)

などなど。あとは省略する。

中国の北朝鮮への影響力は神話

最後に、米中会談最大の焦点とされる北朝鮮問題に触れる。

中朝関係というと、朝鮮戦争に中国軍が参戦した歴史から血と血で結ばれた「血盟関係」と形容されてきた。それは東アジアで共産主義を封じ込めようとする米戦略打破のための「イデオロギー的絆」ともみられてきた。

しかし、中国外交筋は2006年10月、北朝鮮が初の核実験を実施したころから「北は言うことを聞かない。影響力を行使しろというがそんな影響力はない」と公言するようになった。

そんな「伝統的神話」を否定する中国研究者の著作が昨秋日本で出版された。上海・華東師範大の沈志華教授の「最後の『天朝』 毛沢東・金日成時代の中国と北朝鮮」(岩波書店)。沈教授は、

(1)毛と金の関係は、宗蕃「宗主国と蕃族」観念と、北朝鮮のチュチェ思想と反事大主義の間のパワーゲームの反映

(2)毛と金の対処方法は、冷戦という国際背景の下の非対称的同盟関係の中の大国と小国の関係 —— と看破した。

中国当局が出版を認めたこと自体、中朝関係の冷めた実態の反映である。翻訳に当たった朱建栄・東洋学園大教授は「金正男暗殺後、北朝鮮問題は専門家からネットメディアに至るまで、空前のホットな話題になり、北朝鮮擁護派と批判派に世論が引き裂かれている」とみる。北の核・ミサイル問題の本質は、朝鮮戦争の休戦協定を「平和協定」に代え、米国との関係を正常化し、体制温存を図ることにある。

中国頼みには限界がある。最後は、「平和協定」と「関係正常化」へ向けた米政府の決断しかない。


岡田充:共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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