報道各社の社員セクハラ被害、対応に温度差。緊急アンケート全容公開

財務省の福田淳一前事務次官のセクハラ問題を受けて、Busineness Insider Japanで実施中のメディアで働く女性たちへの緊急アンケートでは、現時点で120人から回答を得ている。8割超が取引先や取材先から被害にあったと回答、実際の被害の声も寄せられるなど、セクハラが蔓延している実態が取材によって浮かび上がってきた。

テレビ朝日は、自社の社員が被害を受けたとして会見し、財務省に抗議した。決して他人事とは言えない報道各社は、自社の記者の実態把握や被害防止のために、どんな対策を講じ、今回の問題をどう受け止めたのか。

参考記事:「男性記者は私を差し出した」メディアの女性たちが声を上げられない理由

テレビ朝日社屋。

財務省次官セクハラ問題を受け、社員の被害を訴えたテレビ朝日。

撮影:松本幸太朗

Business Insider Japanは在京の主な報道機関に、緊急アンケートを実施。今回の問題を受けて「財務省を担当した複数の女性記者からハラスメント被害の有無や取材時の状況などについて聞き取りを行った」(毎日新聞社)、これまでも「調査の上、相手方に抗議や要請を行うなどしてきた」(共同通信社)といった、セクハラ防止に積極的な姿勢を伺わせる回答もある一方、設問には一切触れず「お答えすべきことはありません」とする回答も寄せられた。社会的関心の高いセクハラ問題でも、対応に温度差を感じさせた。

現場の記者からは、自社の媒体が財務次官のセクハラについては大々的に報じる一方、「社内でも調査、聞き取りが当然あると思っていたのに、全くなし」との声も上がっている。

Busineness Insider Japan「報道取材におけるハラスメント被害」緊急アンケート:新聞・通信社は朝日新聞社、共同通信社、産経新聞社、時事通信社、東京新聞社、日本経済新聞社、毎日新聞社、読売新聞社の8社、テレビ局はNHK、TBSテレビ、テレビ朝日、テレビ東京、日本テレビ、フジテレビの6社を対象に4月19〜24日の間に実施。メールやファクス、電話などで全社から何らかの回答を得た。回答全文は文末で公開。

財務次官セクハラ疑惑で社内調査したか?

『週刊新潮』の報道を受け、報道各社は被害を受けたのは自社の女性記者ではないかとの調査をしたのか。

「している」と明言したのは2社だった。

共同通信社:確認作業を行いました。具体的内容については控えさせていただきます。
毎日新聞社(社長室広報担当):報道による問題発覚後、財務省を担当した複数の女性記者からハラスメント被害の有無や取材時の状況などについて聞き取りを行いました。

一方、「調査はしていない」と明言したのは2社。

時事通信社:これまでのところ、福田前次官を含め外部でのセクハラ被害の報告はありません。この件に関して社内調査をする予定はありません。
テレビ東京:していません。

財務次官セクハラ問題には触れずに、総じて「調査している」との答えは2社。

フジテレビ:現在調査中です。詳細については回答を控えさせて頂きます。
東京新聞(編集局):本件に限らず、取材先からのセクハラ等について、現在、調査しています。

設問には答えずにセクハラ被害全般について、自社の見解を述べる回答も目立った。

朝日新聞社(広報部):財務省の事例に限らず、被害があれば社内の相談窓口などに遠慮なく相談するように、改めて社員に呼びかけています。
TBS:弊社は、原則としてアンケートにはお答えしておりません。今回の事態を受け、取材現場でセクハラなどの被害を受けた場合には、直属の上司に報告、相談するように改めて指示を出しました。(一部抜粋)
NHK(広報局): ハラスメ ント行為に関しては、 個人の人格や尊厳を傷つけるものであり、決して認められるものではないと認識しており、 職員な どからの相談や通報を受け付ける窓口を設けるなどして真摯に対応しています。
日本経済新聞社(広報室):社内調査や過去のパワハラ・セクハラ事例についてはお答えしていません。セクハラ・パワハラ行為があれば厳正・適切に対応する体制を整えております。
読売新聞グループ本社(広報部):社員に限らず、取引先の従業員等も含め、匿名での相談も受け付ける社外の窓口を複数設け、独立性も担保しつつ、適切な対応に努めています。(一部抜粋)

財務次官セクハラ疑惑で、社員の被害を社として発表したテレビ朝日は、以下のとおり。

テレビ朝日(広報部):いただいた財務省セクハラ問題に関するアンケート調査のご依頼ですが、当社は当事者につき、回答は控えさせていただきたいと思います。ご理解の上ご容赦いただきますよう、よろしくお願いいたします。

アンケートの設問や、報道現場のセクハラ問題に対する見解を全く示さない社もあった。

産経新聞社(広報部):お答えすべきことはありません。
日本テレビ:アンケートにはお答えしていません。(代表電話番号に応対した担当者から、広報担当者への聞き取りの結果の回答。直接、広報担当者への接触は、複数回、頼んだものの叶わなかった。)

横断歩道の女性。

メディアの現場でセクシュアル・ハラスメントが蔓延しているとの声は相次いでいる。

撮影:今村拓馬

過去の被害を知っているか?

報道の取材現場でセクハラが蔓延している実態を、Business Insider Japanでは報じてきた。では、実際に各社は、これまでに自社の社員が、取材先や取材先からセクハラやパワハラの被害を受けていると確認したことはあるのか。

はっきりと「ある」と答えたのは、14社中、2社のみだった。

朝日新聞社(広報部):あります。被害者保護の観点から、事例の具体的な内容についてはお答えできません。
共同通信社:確認事例はあります。職員の被害申告や関係者の指摘に基づき、調査の上、相手方に抗議や要請を行うなどして対処しました。

あるなしには触れていないが、把握するための体制を整えている様子が伺える記述も。

毎日新聞社:「弊社は専用の『ハラスメント相談窓口』を設け、従業員から被害申告があった場合には、事実関係を調査のうえ、会社として毅然とした対応をとることとしています。(一部抜粋)
読売新聞グループ本社(広報部):当社は、取材記者が取材先等からハラスメントを受けた場合、当社が責任を持って抗議するなどの対応を行い、かつその記者が仕事の担当などで不利益とならないようにするなど、社員を守る措置を講じてきました(一部抜粋)

セクハラは黙認されている?

Business Insider Japanの取材では、セクハラが蔓延してきた背景に、「男性の先輩や上司が黙認している」との声も上がっている。この点をどう受け止めるだろう。

この設問に、個別に答えたのは3社のみ。

朝日新聞社(広報部):回答を控えます。
テレビ東京:報告・相談は受けておりません。
毎日新聞社:そのようなことはあってはならないと考えています。質問4で回答した内容(ハラスメントに関する周知や幹部研修の内容)を改めて社内に周知徹底しました。

他の社は、無回答や他の設問と併せた回答を寄せるなど、個別の見解は得られなかった。(詳細は後述)。

詳細な記述回答のある会社から、「お答えすべきことはありません」「アンケートにはお答えしていません」ととりつくしまのない社まで、情報発信の姿勢にも大きな違いが伺われた。

では実際メディアで働く女性記者たちは、報道現場のセクハラ問題に対する自社を、どう見ているのか。

「うちじゃなくてよかった」

会社は財務次官のセクハラ疑惑も、財務省とテレ朝の問題だと(自社とは)完全に切り離して『うちじゃなくてよかった』という空気です」

在京テレビ局の40代女性記者は、会社の当事者意識の薄さを嘆く。マスコミ業界を見渡して「セクハラを受けたことのない女性記者はいないという認識です」。今回のことを受けた調査も特に行われていないという。

夜の街。

どうして、セクハラは黙認されてきたのか。

撮影:今村拓馬

その背景として「まず、記者経験のない経営層は、そんなことが蔓延していると知らない。記者経験のある人であれば、一旦、自社で調査すればパンドラの箱を開けてしまうと知っている。そこには、自分たち女性記者が『セクハラは受け流してこそ記者』と思い込み、声をあげられない空気を作ってしまったという反省もあります」

在京報道機関の30代女性記者はこう明かす。

「今回の問題(財務次官セクハラ問題)を受けた社内調査、聞き取りは全くなしです。こちらとしては当然、聞かれると思ってただけに、驚き呆れます。セクハラをやめましょう、何かあったら言ってくださいという周知はありましたが」

周囲でもネタと引き換えにセクハラを黙認する風土は根強い。その背景には、言い出しにくい土壌があるという。

「うちの会社では被害を申告すると、ほとんどそれが社内に知れ渡って、なぜか被害者の方が頭がおかしいと言われることが少なからずあります。好奇心の対象になる。そういうことをなくす仕組みを考えてほしい」

男性記者は足元を見て

30代女性記者が働く在京テレビ局でも、社内で正式な調査はなかった。ただ、「セクハラ被害があったら会社に相談してほしい、相手に抗議してあなたを守る」という趣旨のアナウンスがあったという。一方で、男性たちの意識に対しては疑問もある。

「男性記者たちも(被害女性に名乗り出ろという)財務省の対応は、女性に対する人権侵害で二次被害だと憤ってはいますが、『VS権力』という構図に燃えているだけなのかなと。身近な女性記者たちが被害にあっていないかどうかを、気にする人はあまりいません。もっと足元を見てほしいと思います」

捜査当局から、いつ家宅捜索するかなどの情報一つ取るにも、記者は男女問わずに夜討ち朝駆けを繰り返す。そこで体を触られたり、性的な言葉を浴びせられたりすることに目くじらを立てていては「記者は務まらない」という風潮は、たしかにある。女性記者もその空気をつくってきた面は否めないと、前出の大手テレビ局の40代女性記者は指摘する。

「ただ、それは間違っていました。今回の件(財務次官セクハラ問題)で、最後にしなくてはなりません。取材する報道機関が、(性的な被害について)声をあげられない組織、ものを言えない組織でいいわけがありません。まずは、事実を知らなくてはならない。会社にはしかるべき手続きで調査をして、事実を知ってから、対策を考えてほしい。安心して安全に働ける組織であるべきです」

(文・滝川麻衣子、木許はるみ、竹下郁子)

※報道各社からの回答の詳細は以下の通り。

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Business Insider Japanが報道各社に行ったアンケートの全回答。

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