PwCのグローバル会長ボブ・モリッツ氏。
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- PwCのグローバル会長ボブ・モリッツ(Bob Moritz)氏は2018年1月、同社が毎年行う「世界CEO意識調査」の報告に合わせて、CEOが取り組むべき4つの課題を指摘した。
- 我々はCECP(The CEO Force For Good)の「CEO-投資家フォーラム」でモリッツ氏に話を聞いた。同氏は、短期的な成果を求めることの弊害を改め、長期的な価値創出に新たな重点を置くことを目指している。
- モリッツ氏は、CEOには全てのステークホルダーを考慮した目的にコミットする義務があると考えている。道徳的に良いばかりでなく、企業存続のためにも欠かせないためだ。
プライス・ウォーターハウス・クーパース(PricewaterhouseCoopers)は過去20年、毎年1000人以上のCEOを対象に調査を行ってきた。
過去数回の調査では、四半期ごとの成長を最大化することは、持続的・長期的な価値につながらないと考えているCEOが増えていることが明らかになった。
従業員をコスト以上の存在として扱うことや、自社に社会的な目的を組み込むことは、もはや心地よいマーケティング手法ではなく、企業存続のために不可欠なこと。
Business Insiderは2018年2月、CECP(The CEO Force For Good)の「CEO-投資家フォーラム(CEO Investor Forum)」で、PwCのグローバル会長ボブ・モリッツ(Bob Moritz)氏に話を聞いた。同フォーラムでは、国際的な上場企業のCEOと投資家が、全てのステークホルダー(顧客、従業員、地域社会、株主)に利益をもたらしながら、長期的な価値を優先させる方法について議論した。
モリッツ氏は、将来のために必要な投資を株主が認めてくれないと不平を言うCEOは的外れと語った(メディア界の大物で、前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏も同意見)。
「全員を満足させることなどできない。その必要はない」とモリッツ氏。
「CEOと経営陣には、ある一定の期間において、展望を持った投資家が参加したい、成果を共有したいと思えるような価値提案を行う責任がある」
モリッツ氏によると、短期戦略と長期戦略のバランスをめぐる議論は、アメリカでは1930年代から続いているが、今、新たな状況が生まれている。
大量のデータ、ヘッジファンドやデイトレーダー、急速に力と情報を備えつつある消費者や従業員などが、企業により多くの対応を求めている。
2018年の世界CEO意識調査(回答者は1200人以上)の中でモリッツ氏は、今年の調査で、CEOは主に所得格差によって拡大している、経済成長と社会発展の大きな不均衡に課題を感じていることが明らかになったと記した。同氏は、こうした問題に対して企業のリーダーが取り組むべき4つの課題を提示した。
1. 財務目標を超えた指標を作り出す
「経営者として、我々はGDPや株主価値といった指標を、生活の質を表す指標で補完することができる」
より多くのCEOが取締役会と連携して、投資家よりもステークホルダーとの関係を改善する長期的な目標を策定していることが分かったとモリッツ氏。
例えば、ユニリーバ(Unilever)は壮大かつ広範なユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(Unilever Sustainable Living Plan)の一環として、2020年までに全ての農業原材料をサステナブルなものにすることに取り組んでいる。
2. 新たなテクノロジーは社会を意識した方法で取り入れる
ここ数年、ビジネス界で最もホットな話題は、生活のあらゆる場面におけるAI(人工知能)の台頭、そして、AIはどのようにして人間から仕事を奪うのかということ。
モリッツ氏は、AIのような新たなテクノロジーは従業員に与える影響を考慮して取り入れることを薦めた。現在、マイクロソフトの経営陣が取り組んでいる方法だ。
3. 従業員教育に投資する
モリッツ氏は、調査に回答した多くのCEOが従業員のスキルアップに投資する重要性を認識していたことに勇気づけられたと語った。
急速に変化するテクノロジーが既存の仕事を変え、あるいは奪うかもしれない時代に生きている我々に必要なことだ。
4. 全てのステークホルダーを考慮した目的にコミットする
ブラックロック(BlackRock)のCEOラリー・フィンク(Larry Fink)氏は2018年1月、世界最大級の資産管理会社である同社は、社会的責任と長期戦略の両方を定義できる企業とのみ取り引きを行うと発表し、議論を呼んだ。
モリッツ氏も、今日の世界において不可欠なことと同意した。
「環境への負荷から社会的影響、投資家の要求まで、企業は今までにないほど幅広いステークホルダーから注視されている」とモリッツ氏。
「万一、どこかで不足があれば、企業は大切なものを損なう。信頼だ。一層の透明性と高い説明責任が求められる時代において、信頼を失うことは極めて深刻な結果をもたらす」
「CEO、そして経済界がビジネスで結果を出すことと同様に、社会発展に意味のある貢献をするためにできる最も重要な仕事はおそらく、共通の目的、共通の価値観と行動にコミットし、組織においてそれらを推進することだ」
(翻訳:Ito Yasuko/編集:増田隆幸)