“コーチのコーチ”中竹竜二さんが若手リーダーの悩みに回答。「絶対に成長する」と部下を信じられるか

「日本一オーラのない監督」として早稲田ラグビーを2連覇に導き、現在はコーチを育てるコーチとして活躍、企業のリーダー育成にも携わるチームボックス代表の中竹竜二さんがが、“奥の手”を惜しみなく語ったBusiness InsiderJapanの公開対談。後編は、参加者からの質問にクールで熱い直球アドバイスが炸裂した様子を伝えます。

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モデレーターは、中竹さんが発信するリーダースキル「フォロワーシップ」に早くから注目していたというHARES代表の西村創一朗さん。

<収録:2018年3月1日、渋谷BOOK LAB TOKYOにて>。

中竹竜二さん

質問が次々に飛び出し、会場は盛り上がった。

撮影:今村拓馬

この記事のポイント

・部下の前で堂々と話をするには?
・チームが崩壊寸前。立て直すには?
・成長が遅い部下をどう伸ばす?
・部下のやる気を引き出すには?
・上司がダメリーダーで打つ手なしの時は?
・「見る、聞く、認める」の次に起こすべき行動は?
・「年上の部下」に頑張ってもらうには?
・「部下に任せて伸ばすリーダー」と「何もしないリーダー」の違いは?

部下とのコミュニケーションは“前置き”

Q1:1年ほど前にマネジメントする立場になりました。部下に対して堂々と向き合いたいのに緊張したり、逆に「偉そうにものを言っていないか」と気になったりしてしまいます。業務スキルはある程度自信があっても、マネジメントについては会社から教わったこともなく、ちゃんとやっていけるか不安です。

中竹竜二さん(以下、中竹):その悩みに対しては、テクニカルに“前置きする”という方法でかなり解決できると思います。部下の前で話し始める前に前置きするんです。

「実は皆の前で話すのは緊張するのでうまく喋れないかもしれないけど、よく分からなかったら後で聞いてね」「ごめん、偉そうに聞こえたら申し訳ないんだけど、そういうつもりはないので聞いてね。では、始めます」と、自分が課題として感じていることを最初に伝えるのは効果的なテクニックなんです。

多くのコミュニケーションの失敗って、「前提がない」ことから起きるんですよ。部下側も構えていたり、リーダーに対して「こうあるべき」という虚像を描いていたりするので、それを最初に壊しておく。多くの人が本題に入る前の“オープニング”を怠るのですが、絶対にやったほうがいいですね。

「自分としても言いにくいことをこれから話すけれど、会社としての決定事項だからどうか理解してほしい」と前置きしたら、言いにくいことも言いやすくなるじゃないですか。気掛かりはストレートに口にした方が、部下も素直に気持ちを話しやすくなります。

チームの目標を明確にすればギャップは解消する

中竹竜二さん

撮影:今村拓馬

Q2: 大学でタッチフットボールのコーチをしています。実はこのチームが体育会なのかサークルなのか、曖昧な位置付けで、入ってくる部員と実際の活動内容にギャップがあって辞める人が後を絶ちません。6人制のスポーツなのに5人までに減った状況を、どう打開したらいいでしょうか?

中竹:そもそもチームがなぜ立ち上がったのかというところをもう一度考えたほうがいいと思います。つまり、ゴール設定は何なのか。おそらくコーチとして「もっと強くしたい」「勝たなきゃ」と焦っていると思うのですが、果たしてそのゴールは正しいのか?と問い直してみる。

会社でもスポーツチームでも、組織の目標が絵に描いた餅になるのはよくあることで、「うちは2部のチームですが、どうやったら勝てますか?」といった相談を受けます。でも、「本当に勝ちたいと思っていますか? 別に勝たなくてもいいんじゃないですか?」と返します。「それだと大義名分が」と口ごもる人は多いですが、別に大義なんて自分たちが気にしているだけで他人はまったく関心ありません。自己満足でいいんだと思い切るほうが、チームがうまく回り始める場合はあるんです。

最初は勇気がいりますけれど、目標を明確にすれば入部する部員と活動のギャップは解消するでしょう。前例にない部活動になるかもしれないけれど、外野からの批判はまったく気にしなくていいと思いますよ。

「絶対に成長する」と部下を信じられるか

Q3 :部下によって成長の仕方やスピードも違うので苦戦しています。なかなか成長が見られない部下とはどう向き合い続ければいいのでしょうか?

中竹:それでも相手の成長を信じ切る、に尽きますね。本当にどうしようもないやつでも「こいつは絶対に成長するんだ」と思えるかどうか。たいていは、ちょっと試してうまくいかず、「やっぱりこいつは成長しない」とレッテルを貼って止めてしまうんですね。相手のせいにしたら終わりです。

私もよくありましたよ。手を掛けているのに陰口言われたりとか。トイレの個室に入ったら自分の悪口が聞こえてきたこともありました。その時に、「こいつは裏表があって、やっぱりズルいやつだな」と思うのか、「もうちょっと信じたら、あと3日で変わるかも」と思えるのか。彼という人格を信じるのではなく、彼が成長することを信じるんです。

西村:それでも相手が反発してきたら?

職場で抗議を受けている人

手をかけている部員に陰口を言われたこともあったと言う。

shutterstock

中竹:私が本気で向き合っているときの切り札としては、「俺はお前のことをお前より考え抜いた自信がある」と直球で言いますね。どんなに相手が言い訳してきたとしても、「いや、お前は自分の都合のいいことばかり考えている。俺はお前の将来を、1年後に本当に活躍している姿を描きながら、お前よりもお前の親よりも考え抜いた。具体的に考えた。だからこう言っているんだよ」という話をします。

本当に成長してほしい場合には、相手にとって不愉快なことを言わなければいけないことの方が多い。でも、今すぐに心地良い関係になれるかはどうでもよくて、1年後に「いやー、僕たちあんなにぶつかり合ったけれど、今はお互いにこれだけ成長しましたよね」と相手に言わせられるかどうか。そういうシナリオをリーダー自身が描けるかどうかです。リーダー側の気持ちの持ち方の問題なんですよ。どんなに悲惨な現実であっても、どこまで未来を妄想できるかという力が問われます。

西村:中竹さんが「僕は妄想が好きなんです」とおっしゃっているのは、そういう意味なんですね。

中竹:実際、私も早稲田ラグビー監督に就任したばかりの頃に、「死ね!辞めろ!」と学生から罵倒されたことがあるんですが、その時も一晩ずっと妄想していたんですよね。こいつと半年後に、どうやったら肩を組めてお互いを讃え合えるだろうかと。未来を妄想した上だと、次に言葉をかける時の気持ちが全く違ってくるわけですよ。迫力が違います。

承認ボタンとやる気スイッチを見極めよう

Q4 :部下のモチベーションを高めるためのコツはあるのでしょうか?

中竹:モチベーションの研究はどんどん進んでいますが、大事なポイントは2点。一つは “承認”。いかに相手をよく見て、聞き、認められるか。承認ボタンを押されたい欲求は誰もが持っているものです。もう一つは、やる気スイッチで、承認ボタンとは別物なんです。「お前しかできない」と言われないとやる気が出ないタイプと、「お前は本当にダメだよね」と言われたら火が付くタイプと、スイッチはいろいろある。見極め方は、試して失敗するしかない。

皆さんがよく知っている人の例を挙げると、五郎丸歩選手。彼は10代からずっと褒められて育っているので、褒めることはやる気スイッチにならないんです。技術的に優れていて人格的にも良い人間なので指摘された経験が少ない。だから私はあえて「もうちょいスピード出ないの?」「こういうところに立てない?」「細かいことを言うようだけど、あの時のあの態度はないよね」と、彼のできないところにフォーカスして具体的に伝えていたんです。

ラグビー以外の話もたくさんしました。彼は知的欲求も高いので、私が持っているコンテンツから右脳と左脳を使い分けるためのワークも引っ張り出して話したり。

一人ひとりに対して「こういう特徴がある」と具体的に書き出せるくらいの情報を持たなければ、これはできないと思います。

西村:やる気スイッチが見つかりにくいときのテクニックは?

中竹:自分一人で見定めようとせずに、本人にストレートに聞く。「自分の強みと弱みは何だと思っている?」と質問攻めにするんです。

ダメ上司の下では頑張らず違う環境に移ろう

中竹竜二さん

撮影:今村琢馬

Q5 :マネジメントを頑張って組織をよくしたいと思っているのですが、上司とそりが合いません。会社の上層部とどうしても方向性が合わないときのアプローチ法はありますか?

中竹:最低限の努力はするべきですが、どうしてもダメなら環境を変えた方がいいと思います。残念ながら、世の中にはどうしてもダメなリーダーは存在します。能力的にも圧倒的に不足していて、会社としてもそのポジションを変えようとしない。そういうダメリーダーの下で頑張ろうとする行為は、実は長い目で見た時に組織にも本人にもいいことにはならない。

なぜなら、それで成果が出た時に会社はそのダメリーダーを評価して、そのダメリーダーは昇進してしまうわけですから。ダメリーダーは部下の手柄を自分のものにしますから、悪循環が続きます。思い切って違う環境に移る方が、能力の発揮の仕方としては正しいと私は思います。

西村:中竹さんの本の中で「なるほど」と思ったのは、「要望を質問に変えるといい」と。例えば、「チームの生産性が低いので、こうしてください」と上司に言うと、上司のプライドを逆撫でするリスクがあるけれど、「チームの生産性を高めるには、どうしたらいいと思いますか?」と質問形に変えると、上司も一緒に考えてくれるようになる。これはすぐに真似できるテクニックだと思いました。

「知らない」「できない」と言えるリーダーになろう

Q6 :部下を成長させることができるリーダーとできないリーダーの決定的な違いとは何ですか?

職場

優れたリーダーの口癖は"I don't know"。

shutterstock

中竹:正直であることだと思います。相手のことと同じくらい、客観的に自分を見つめ、それをさらけ出せるかどうか。何を武器にしてチームに貢献できるのか、背伸びせずに正しく自分の“スタイル”を見極めていることが重要です。

面白い研究があって、世界で勝ち続けているコーチや指導者の口癖は「I don’t know」「I can’t do it」なのだそうです。優れたリーダーは全てを理解している者だと思われがちですが、実は「知らない」「できない」と言えるリーダーのほうが結果を出している

なぜかというと信頼と深く関わるからだと思います。普段から背伸びせずに「分からない」と言っていると、部下も「この人は自分が分からないことを正直に言える人だ。だから、自信を持って言うときには本気で信じているときだ」と認識しますよね。

すると、本当に伝えたいことがすぐに浸透しやすいチームになる。

西村:「言ったほうがいい」んですね。プレイヤーとして優秀な成績を出したエースが、急にマネジャーになって戸惑うという例もよく見られますが、そういうときも正直に言ったほうがいいんですね。

中竹:プレイヤーとマネジャーは全く別の能力が問われますから、ゼロから学ぶ姿勢に徹したほうがいい。スポーツの世界でも優秀なプレイヤーだった人ほどコーチになったときに苦労するというジレンマはあります。

なぜなら、(優秀なプレーヤーは)スキルを言語化できないし、できない人の気持ちを経験していないから。でも周りは「あの人はすごかった」と尊敬して偶像化して、結局、失望する。マネジャーとしてはビギナーなのだから仕方ないですよね。本当は会社も「プレイヤーとして優秀だったからマネジャーにする」という考え方を変えたほうがいいと思いますが、組織がそうなっていなければ、とにかく学ぶしかないですね。

人を成長させたかったら一度“破壊”が必要

Q7:ひと回り年上の部下に関して悩んでいます。知識は豊富なのですが、今求められているスキルには乏しく、学んで身につけようという意識も見られません。1年以上かけて私なりに一生懸命教えてきて毎日のように面談もしたのですが、成果が出ませんでした。「倍の給料もらっていて、どうして……」と不満を感じてしまう自分の小ささにも苛立っています。

中竹竜二

撮影:今村拓馬

中竹:これは今後増えていくであろう「年上の部下に対するマネジメント」の問題ですね。コーチとして必要になってくるのは、いかに本気で本人の心をざわつかせるフィードバックをするかということ。全員がニコニコ心地よく成長できるなんてことは幻想です。むしろ安易に褒めるのは危険です。

筋肉を増強させようと思ったら、一度トレーニングによって筋肉繊維を破壊して、睡眠と栄養を入れながら修復させるというプロセスが必要になりますよね。

それと同じで、人を本当に飛躍的に成長させたかったら、一度“破壊”を起こす必要がある。言い方は注意深く、でも大胆に。「正直に言わせてもらいます。あなたはこの1カ月間、何も貢献していないし、メンバーもあなたにはもう来てほしくないとさえ思っています。どうしますか? 僕はあなたと一緒にやっていきたいんです。プライドを捨てるのは難しいと思いますが、本気で頑張ってみませんか?」と。

「何だ、お前は」と相手を真顔で怒らせたら勝ちですよね。その発火点がなければ成長が始まらないので。笑顔で相手を持ち上げて「成長してください」といっても、全く意味がありません。

Q7の質問者:なるほど……。実は僕はすでに見切りをつけて退職するんです。結果、僕の後輩がその人の面倒を見ることになるのですが、後輩に申し訳なくて。引き継ぎの面で、僕から何かできることはないでしょうか?

中竹:今までやってきたトライアルについて全て話してあげたほうがいいです。同じことを繰り返して遠回りをするのはもったいないので、「僕はこれだけのことをやったけれど、ダメだった。多分、このアプローチは効かないと思う」と。で、「他の方法でもダメなら、君も環境を変えてもいいんじゃないか」と(笑)。

能力低ければ一生懸命行動している姿勢を見せる

Q8 :「できないリーダーを公言して全員を奮い立たせるリーダー」と、「本当に何もしないリーダー」の違いを知りたいです。部下の力を信じて全て任せた時に、部下が奮い立たなかったらどうしよう?と不安になるのですが。

中竹:たとえ能力が低かったとしても「一生懸命行動している」という姿勢を示すことは大事です。技術や戦略の指示は下手でも、1人30分ずつみっちり面談していて、「この人、寝ずに資料作ってるんだな」「飯食う時間を惜しんでまで面談してるのか」と伝わる行動をすること。結局、選手や部下は上に立つ人の姿勢や行動を見ているんですよ。

「できないやつだから、頑張ってやるか」という同情だけでは人は動きません。それに見合う努力と、そのコーチらしいスタイルを見せること。そういう意味では、能力が低いコーチこそ、努力さえすればチーム全員の力を引き出すチャンスがあるということ。ぜひ活かしていただきたいと思いますね。


中竹竜二:1973年生まれ。早稲田大学人間科学部在学中、ラグビー蹴球部選手として全国大学選手権で準優勝。英レスター大学大学院を修了後、三菱総合研究所に入社。組織戦略に携わる。2006年、清宮克幸氏の後任として早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。“日本一オーラのない監督”と言われるが、翌2007年度より2年連続で全国優勝。2010年、日本ラグビーフットボール協会初代コーチングディレクターに就任し、全国のコーチ育成に力を注ぐ。2012〜2014年にはU20日本代表ヘッドコーチも務める。企業のグローバルリーダー育成を独自のメソッドとして提供する株式会社チームボックスを設立。一部上場企業をはじめとする組織のリーダートレーニングを提供している。

(文・宮本恵理子、撮影・今村拓馬)

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