オリックスは訪日外国人(インバウンド)向けの情報配信事業をスタートする。
オリックスは、訪日外国人向けの多言語ガイドサービスを4月18日に開始した。同社によると、全国規模でのこのような多言語ガイドサービスを展開するのは、日本で初めての試みになるという。
金融サービスやリース事業などを中心に展開するオリックスはなぜ、情報配信事業に進出したのか。それは、旅行者の“お悩み解決”のためだけではない。真の狙いは「訪日外国人の行動データ」にある。
訪日外国人に母国語で観光情報
プレートの例。中央のステッカーが貼れれば、形はどんなものでもいい。
サービス自体は、非常にシンプルだ。同社は自治体や外郭団体と連携して街の案内所などに特製のプレートを設置する。プレートには、*NFCタグとQRコードが貼り付けてあり、ユーザーがそれらを手持ちのスマートフォンで読み取ると、ポータルサイトが表示され、そこから観光地情報にアクセスできる。
※NFCとは:近距離通信の標準規格で、Near Field Communicationの略。ICカードやスマートフォンなどに搭載され、アンテナ同士を近づけることでデータ通信が可能になる。
国内で販売されているAndroid端末であれば、かざすだけでサイトが表示される。
iPhoneやNFCに対応していないスマートフォンの場合は、右側にあるQRコードで同じサイトにアクセスできる。
観光情報は、自治体などが公開しているサイトにリンクするものと、オリックスが独自で収集・編集したデータの両方が存在する。
従来、自治体などのページは訪日外国人が検索して辿り着くだけでも困難であったり、辿り着いたとしても、日本語で表示されてしまい、日本語を読めない人はそのままページを閉じてしまうなどといった弊害があった。
スマートフォンの言語設定が英語になっている場合、ポータルサイトは元から英語で表示される。
しかし、今回の取り組みで表示されるポータルサイトは、スマートフォンのOS設定に応じた言語で表示されるので、既存の問題は解消する。ただし、対応言語は各地域の自治体が提供しているものに依存する。もし、その地域でサポートしていない言語の設定でアクセスした場合は、英語で表示される仕様になっている。
狙いは個人手配旅行客。課題は収益化
オリックス オープンイノベーション事業部管掌補佐の石長浩之氏。
今回の取り組みは、開始時点で鎌倉市や大阪府など26の地域で展開。9月末には72の地域まで拡大させる予定だ。
また、収益化については現時点では未定。主に観光地で展開する企業の表示広告や、レストランなどへの送客課金などでの実現を想定しているが、今後検討していくという。
オリックスが訪日外国人にターゲットを絞った情報配信事業は、今回が初めて。同社のオープンイノベーション事業部管掌補佐である石長浩之氏によると「2年間半前から実証実験を続けてきた結果、ストレスフリーな体験を提供できる目処がついた」と自信を見せている。
検証段階では、NFCタグ/QRコード以外の方法も検討された。しかし、特別なアプリが不要であることや、プレート1枚あたりのコストが低いことから、現在の形に落ち着いた。
実験実験は鎌倉や奈良で行われたが、例えば空港やバスターミナルなど、人が滞留する場所での利用率が最も高かったという。
オリックスは、訪日外国人の数自体も増えているが、その中で個人手配旅行で日本を訪れる人の割合も増加していくと予測。訪日後に現地で情報収集をする人のニーズに的確に応える形だ。
真の狙いは「行動データ」による関連事業の活性化
オリックスの真の狙いは何か。情報配信事業を新たな収益源とするだけではない。
石長氏は「利用者のデータを他の事業に活用するために、情報配信事業を始めた」と述べている。
オリックスは幅広い事業展開を行っている。
出展:オリックス
同社は自動車や各種機器のリース事業以外にも、宿泊事業、水族館やプロ野球チームなどの運営も行っている。また、関西国際空港や大阪国際空港を運営する関西エアポート社の株主でもある(所有株式は全体の40%)。
今回のプレートを読み取ると、プレートの場所(NFCタグやQRコードに紐付いている)と時間、調べたコンテンツのジャンルなどが収集される。それらを統合すると「どの場所にどのぐらいの訪日外国人が集まり、どんな情報に興味を持ったか」といったことが分かる情報になる。
この情報をもとに、同社は既存事業を改善、または新しいキャンペーン施策などを検討できるというわけだ。
同社では今後、NFCタグ/QRコードでの集客だけではなく、スマートフォンのカメラを用いたAR機能での案内手段などを検討しているという。少なくとも東京五輪の2020年までは増え続けるであろう訪日外国人のニーズを、どこまで的確につかむことができるのか?インバウンド市場における今後の変化に注目が集まる。
(文、撮影・小林優多郎)