残念すぎる「月9」——立て直しに苦しむフジテレビに必要なものは

フジテレビ社屋

画像:Shutterstock / stocker1970

テレビ朝日の夜は、警察官ばっかりだ。水曜9時が「特捜9」、木曜8時が「警視庁・捜査一課長」、9時が「未解決の女」。「未解決の女」に「警視庁・捜査一課長」の一課長(内藤剛志)が登場していた。テレ朝、横連携バッチリだな。 あとは誰かが誰かを捕まえてた。

って、見てんじゃん。と、自分で自分にツッコミ。

そんな人が、たくさんいたのだろう。4月スタートの民放ドラマの初回視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)ランキングを見たら、1位「特捜9」(16.0%)、2位「未解決の女」(14.7%)、4位「警視庁・捜査一課長」(12.7%)。テレ朝強し。

未解決の女ウェブサイト

画像:テレビ朝日ウェブサイトより

フジテレビの月曜9時「コンフィデンスマンJP」は長澤まさみ、東出昌大、小日向文世の3人の詐欺師のドラマ。初回視聴率は、9.4%で9位。今回も「月9、1桁発進」。3回まで放映済みで、2回7.7%、3回9.1%と低迷中。全部見た。感想を書くなら、「もったいないよ、フジテレビ。やりようがあったのにーー 」だ。

テレビ局の仕事の進め方は知らないが、番組を始めるのに「企画書」が必要だとしたら、それはすごくちゃんと書けているドラマだ。

まず、コンセプトが明確。アカデミー作品賞の名作映画『スティング』(1973年)を、今どきのドラマにする。構成要素は本家にならい、「大義ある復讐」「大掛かりな詐欺」「観客も騙す」。その3つを軽く、明るく、毒を入れつつ作る。

『スティング』とは:舞台は1936年のシカゴ、詐欺で稼ぐある若者が、親同然の師匠を殺害したギャングに復讐するために伝説的な賭博師と協力し、相手組織を徐々に追い詰めていく様子を軽快に描いた名作。

脚本家は古沢良太氏。名前だけで企画書的にはOKみたいなものだが、念のため、「リーガルハイ(シーズン2&スペシャル2本も作られた)」で実績あり、月9では「デート 恋とはどんなものかしら」(2015年)で2桁視聴率(平均12.5%)、と書く。

さらに企画書には不可欠な「ターゲット」は、長澤&東出ファンの多いF1、M1層はもちろん、『スティング』を懐かしく感じるF3、M3層にもウィングを広げる、で完成。

荒唐無稽すぎる展開、「いくらなんでも」

画像:フジテレビウェブサイトより

長年仕事をしていて思うが、企画書は大切だ。明確に書ける→コンセプト、ターゲット等が明解→伝わる→売れる。だから、企画書を想像すると、「コンフィデンスマンJP」は売れる、はず。少なくともテレ朝の刑事ドラマの企画書より、ずっと弾んで読めると思う。

初回は90分の拡大版で、ゲストは2人。まずは未唯演じるホストクラブのオーナーを騙す。「これ、映画と同じパターンなんだけどね」と東出に言わせる騙し方。F3の私(57歳っす)、ニヤリ。が、そこから驚きのダメっぷりに。メインゲストは江口洋介。裏社会のボス。彼の巨額の裏金を「LCCの飛行機」で騙す。今っぽい。が、どんどん荒唐無稽に。

バードストライク→トランクを地上に捨てる→江口、「俺の金だー」とパラシュートで落下→砂丘に着陸、トランク回収→中身は紙くず。

これも相当「?」だが、最後の「観客を騙してのオチ」はもっとずっと「?」。空港は詐欺のための偽もの、飛行機はチャーター機。そう明かされる。えーー。

いくらなんでも、いくらなんでも。太田理財局長になってしまった。勝手に空港、そこからチャーター機の発着陸。日本の航空行政、そんなですか?

社員の体質が深刻なことになってませんか?

ここで見捨てる人が多数出たことは、2回目の視聴率の急降下が証明している。でも初回よりよかった。3回目は、ヒロイン長澤の達者さもあって笑えた。古沢らしい「毒」も入り、視聴率が回復したことは、ひとまずよかった。

それにしてもフジテレビ、深刻だと思う。年間視聴率が在京民放キー局5社中4位とか、減収減益続きだとか、そういうことではなく、社員の体質が深刻なことになっているのではないかなあと思うのだ。

冒頭近くで「コンフィデンスマンJP」の感想を「もったいないよ」と書いた。初回がああでなければ、もっと評判になって、視聴率を上げていけたのに、と思うのだ。

想像するに、初回はどーんとスケール大きく、派手に。そういうことだったとは思う。でも、途中で誰も言わなかったのかな、「荒唐無稽感、ないですか」と。

立て直しに「立派な上」は必要ですか?

私は1983年以来、活字メディアで働いてきた。21世紀に入ってからは右肩下がりの業界だ。このところのフジテレビと同様、「低迷→立て直さねば」の局面も多かった。立て直せないときもままあったが、立て直せたときもあった。成否の分かれ目は、いろいろある。だけど、関わる人間全員が自分の頭で考え、対等に意見を言い合えるかどうか。案外、それが大きいと思う。

それで言うなら、まず月9を何とかしよう、このドラマを成功させようと全員が思うこと。そこから上下関係にとらわれず、意見を言い合うこと。それが肝心だ。そうなっていれば、初回の脚本に疑問を持ち、口にする人が一人くらいはいたはずだ。だけど、いなかった。結果、初回視聴率9位。そう見える。

どうしてかなあ、と考えるに、「立派な上」がいるのが問題なのではないかなあ。実績があって、地位を得た、立派な人。立て直し局面で、そういう人が上にいると、あまりよくないことが多い。

フジテレビ会長・日枝久氏。

フジテレビ相談役の日枝久氏。1988年にフジテレビ社長に就任以来、トップに君臨してきた。2017年に会長を退任したが、取締役相談役、フジサンケイグループ代表として残る(写真は2005年当時のもの)。

Reuters / Toru Hanai

なぜかと言えば、得てしてそういう人は、よく頭が回る。下の意見をちょっと聞くと、瞬時に何手も先を読み、ズバッと結論を言ったりする。豊富な勝ちパターンをもとに言われると、反論しにくい。その人の意見が正しいとは限らない。だけど、説得に労力を取られる。すると、どうなるか。その人を突破することが目的化する。ハンコをもらって、それで終了。プロジェクトはそこから始まるのに、以後の努力や工夫はないがしろに。

フジテレビの実態を知っているわけではない。だけど、なんだか風通しが悪そうなのだ。「コンフィデンスマンJP」の初回も、2回続いたニュースキャスター選びの不手際も、意見を言い合うことが当たり前な人たちで構成されていたなら、違うことになっていた気がしてしょうがない。

フジテレビの「上」は、長く日枝久さんだった。30年前、50歳でフジテレビの社長になり、「楽しくなければテレビじゃない」で会社を大きくし、創業者一族の鹿内家を追放し、ホリエモンもやっつけた。亀山千広社長(月9の立役者)を抜擢したが、業績回復せず、交代させた。自分も取締役相談役に退いた形だが、フジサンケイグループ会長の肩書きは残したまま。

あまりにも立派すぎる「上」が、今なお存在している。

フジテレビの立て直し、大変だと思う。


矢部万紀子(やべ・まきこ):1961年生まれ。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、「AERA」や経済部、「週刊朝日」などに所属。「週刊朝日」で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長を務めた後、2011年退社。シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に退社し、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』。

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