「霞が関で働きたい人はいなくなる」官僚の長時間労働は“機能不全”な国会のせい

国会

官僚へのアンケートの結果、9割が政治家からの要求が働き方に影響していると回答した。

写真:今村拓馬

森友・加計問題や財務省のセクハラ事件を機に官僚のあり方や働き方が改めて注目されている。

Business Insider Japanが2018年3〜4月に官僚の働き方のアンケートを実施したところ、9割の職員がほぼ毎日残業し、その大きな原因の一つが「国会対応」にあることが明らかになった。

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一方、現役の与野党国会議員は、官僚の長時間労働は国会の「構造的な問題」が原因だと語る。

議員の質問が出そろうのは平均21時近く

長時間労働の原因とされる「国会対応」で大きいのは、国会議員からの質問通告待ちだ。国会会期中、各省庁の職員は議員の質問通告が届くまで待機し、議員から質問が届き次第、担当の職員が答弁書作成に取り掛かる。

国会対応

ある若手官僚は上記画像④の答弁を作成する局・課を決める「割りもめ」が最大の無駄だと語る。

出典:内閣人事局

委員会の数日前までに質問が届けば、あまり残業せずに業務を終わらせることができるかもしれないが、内閣人事局が2016年12月に発表した調査結果によると、全ての議員からの質問通告が出そろうのは全省平均で前日の20時56分。通告を受けた質問について、担当課・局の割り振りが確定するのが平均22時36分。その後、答弁を作成する。当然ながら、退庁する頃に日付が変わっていることも珍しくない。

こうした現状に対し、現場の官僚からは「質問通告を前日の正午や2日前までにしてほしい」(30代の経済官庁勤務男性)、「AIを導入して過去と重複した質問への答弁を自動で作成したり、効率化を進めてほしい」(20代の経済官庁勤務男性)と、質問通告の早期化や効率化を求める声が聞こえる。

2014年には厚生労働省の女性官僚ら有志が「持続可能な霞が関に向けて」と題する提言をまとめ、内閣人事局長に提出。国家公務員に女性の占める割合は急増、このままでは子育てなどを抱える職員が働き続けられない、という危機感からだった。議員には質問通告時間の前倒しを求めたが、全議員に徹底されたとは言い難く、根本的な解決にはつながっていない。

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“無駄”になる答弁作成も

一方、政府の一員として答弁に立つ政治家は別の課題も指摘する。

「一部の議員が(質疑時間の)20分では絶対に聞き得ない量の質問を出してきて、せっかく職員が夜を徹して答弁を準備しても『ごめんなさい、時間切れです』と言われることがある。副大臣や政務官も答弁に備えて待機し、1日中座ったままということもある。それって膨大な労力の“無駄”ですよね」(牧原秀樹厚生労働副大臣)

今国会では、4月20日から野党6党が審議拒否をする状態が続いており、答弁の用意をしていたにもかかわらず、質問者が現れない事態に陥っている。

衆議院委員会

野党6党が集まらなかったことにより環境委員会は「流会」となり、厚生労働委員会は野党議員が提出した法案(「生活保護法等の一部を改正する法律案」)の審議も進まなかった。

写真:室橋祐貴

希望の党(取材した4月20日当時、現在は無所属)の細野豪志衆議院議員はこうした事態に対し、「残念だ」と訴える。

「本当は今日(4月20日)環境委員会で質問に立つ予定で、昨日質問の通告もしていた。しかし結局開かれていない。官僚の方々も不満を感じていると思うが、国会議員である我々もフラストレーションを感じている」

こうした状態は官僚に余計な労働を強いるだけではなく、政治家の時間を生産的に活用できていないという意味でも改善の余地は大きい。

ただし、これは今の野党のせい、というわけではない。今の与党、自公が野党だった時(2010年頃)にも同様に審議拒否が起きており、あくまで「構造的な問題」(与党若手国会議員)であるということを留意しておく必要がある。

長時間労働改善できない「構造的な問題」とは

こうした問題が起きる原因は国会の日程闘争。与党内での法案の事前審査制と党議拘束がある中で、日程闘争せざるを得ない状態になっている」(与党若手議員)

事前審査とは:内閣が提出する法案は与党内の部会で事前に審査され、総務会で決議される。

党議拘束とは:党の決定に従い、法案決議の際に自分の意思で自由に投票することを拘束される。結果的に議席の過半数を与党が占めている場合には法案の修正が起こることは少なくなる。

細野豪志衆議院議員

国会改革の必要性を長年訴えてきた細野豪志衆議院議員。

「なぜ日程闘争が起こるのかと言うと、与党と野党の立場が分かれていて、与党の側は事前審査をしているから、国会の中身にあまり関心がなく、法案を通すことだけに関心がある。一方で野党の側は、問題がある法案をできるだけ先延ばしにして廃案に追い込みたい。与党も野党も日程闘争にものすごいエネルギーを割いていて、委員会の日程が前日まで決まらないことがほとんど」(細野氏)

結果的に現場の職員や議員が非効率的な国会運営に付き合わされており、「根本的には国会を改革しないと官僚の長時間労働も解決しない」(細野氏)

日程闘争にエネルギーを割かざるを得ない非効率な国会運営のあおりを食らうのは、結局国民である。本来時間を割くべき、本質的な法案の議論が置き去りにされかねない恐れがあるからだ。

「自由投票」「通年国会」の導入

では具体的にどう国会を改革すれば良いのか。

牧原氏は、まず「質問通告の遅い議員や明らかに(質問時間に比して)質問の量が多い議員など、質問通告や資料請求の実態をより透明化すべき」だとした上で、「党議拘束の一部緩和(自由投票)を導入しても良いのではないか」と語る。

同様に、細野氏も自由投票の導入を訴える。

諸外国を見ていると、だいたい1〜2割は自由投票にしている。自由投票が全くない日本は異常。一番良いのは1年に何本かは党議拘束を外すと決める。そうすれば各党自由に議論ができる。今国会だと例えば、受動喫煙防止法案。与党内でも意見が分かれており、安全保障や憲法といった基本政策とは違う部分で、それぞれの価値観を問うもの。そういう時に党議拘束を外して、自由に議論して採決も自由にするということが出てくれば、与党も野党も柔軟になる」

国会審議

党首討論もない事実上“機能不全”の国会が続いている。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

2000年以降自由投票が導入されたのは、2009年の臓器移植法案のときのみ。与野党の国会議員が口をそろえて、「あの時は議論が活発だった」と振り返る。

「あの時は何度も勉強会を開いて、採決の前は与野党関係なくエレベーターでも議論していた。生命倫理に関わる問題だからみんな真剣に議論して、緊張感があった採決だった。あのような機会は議員の質を高めることにもつながる」(細野氏)

また細野氏は日程闘争をなくすために、通年国会の導入も訴える。

「国会の会期をもっと長くするか、もしくは『会期不継続の原則』を廃止する。これができれば、日程闘争をなくすことができる。ただし、与党も法案を通すだけではなく、修正に柔軟に応じるべき。法案に問題があったら一度撤回する。『とにかく法案を通すのだ』という姿勢を変えてもらわなければならない」

会期不継続の原則とは:国会の会期が終わると採決の終わっていない法案は廃案となり、また一から審議となる。

なかなか進展しない国会改革

牧原秀樹厚生労働副大臣

官僚の長時間労働をなくすには永田町・霞が関の意識改革が必要だ、と訴える牧原秀樹厚生労働副大臣。

こうした国会改革の議論は今に始まったことではない。2011年には河野太郎議員(現外務大臣)ら超党派議員が「党議拘束の緩和」など提言を行った (超党派国会改革勉強会「通常国会に向けた具体的提言」)。しかし、5年以上経った今でも実現には至っていない。

国会改革は与党だけで進めることもできず、与野党が一緒になって進める必要がある。今国会は2017年に続き、党首討論も行われておらず、「機能不全」と言っても過言ではない。国会改革の進展に大きく関わる野党第一党の立憲民主党に対して、国会改革の必要性等について取材を求めたが、「調整がつかない」と回答を得ることができなかった。

「何のために国会議員になったのか、国民のために何をやらなければいけないのか、一度立ち返って考えなければいけないんじゃないか」(細野氏)

牧原氏は、国会を改革しなければ、官僚の長時間労働の抜本的な改善につながらない現状に危機感を表す。

「民間企業に過労死をなくしてください、と言っているにもかかわらず、(霞が関の)職員の長時間労働を前提に仕事の発注をしている。今までは『そういうもんだ』と許されてきたが、そろそろ『そういうものではない』と国会議員・霞が関みんなで意識する必要がある。このままだと霞が関で働きたい人がいなくなるんじゃないか」

(文・室橋祐貴、取材・室橋祐貴、木許はるみ、写真・木許はるみ)

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