ライバルは@cosme、広告収入ゼロの美容雑誌が表参道駅を広告ジャック

商品を独自の視点と方法でテストし、その結果を公表する商品テスト雑誌『LDK』。コスメに特化した『LDK the Beauty』はこれまで隔月の発行だったが、4月から月刊誌になった。月刊化を記念して4月30日から表参道駅の柱広告11本を使った大々的なキャンペーンが始まった。

表参道駅

表参道駅に展開された『LDK the Beauty』の広告。2017年に本誌がベストコスメに選んだ商品が紹介されている。

提供:晋遊舎

魂を売らなくとも広告はできる

『LDK』『LDK the Beauty』はともに出版社・晋遊舎の発行。Business Insider Japanでは広告収入に頼らないそのビジネスモデルを報じ、大きな話題を呼んだ。

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今回の表参道駅の広告には、「世界でただひとつ、コスメを本音で評価する雑誌です」というキャッチ。『LDK the Beauty』が2017年にベストコスメに選んだ商品とその理由も掲載されている。

例えばオールインワンジェルは「これ1つで3時間後も保湿力196%!」、ミルククレンジングは「肌に優しくてファンデの落ちは50製品中ナンバーワン!」、日焼け止めなら「真夏の紫外線にも滝汗にも負けない!」という具合だ。表参道駅の広告費は他に比べても高価だそうだが、それでもこの場所を選んだ理由を編集長の木村大介さんはこう説明する。

木村大介

『LDK』『LDK the Beauty』編集長の木村大介さん

提供:晋遊舎

「表参道は一流のファッション・コスメ誌や大手ブランドの新商品が広告を出す場所です。読者はもちろん、こうした業界のトレンドに敏感な人たちにも届けたいと思って企画しました」

広告を入れないことが媒体の特徴だが、今回は商品のメーカーに「協賛」というかたちで費用のいくらかを出してもらった。ただし、テスト誌としての「魂を売らない」方法で。

商品も広告のデザインも編集部で決めた上で、メーカーには「こういう風にプロモーションしたいんですが協賛しませんか?」と相談。通常、広告とは化粧品に限らず、メーカー側が時期も方法も全て決める。

「『ちょっと頭おかしいんじゃないか』と思われそうなやり方ですよね。でも賛同してくださる企業が意外と多くて。 広告のあり方や風向きは変わってきていて、上から目線の押し付けは通用しないと、みんな感じています。読者も消費者も何がどう良いのか、使った感想はどうなのかを知りたがっている。だから我々が愚直にテストした結果を自信を持ってプロモーションするという今回のやり方が、商品開発や広告の参考になるからと協力してくださったようです」(木村さん)

月刊13万部支える“狂気の”テスト、自社でラボも

『LDK the Beauty』は隔月で15万部を発行していた。月刊誌化にあたり約13万部に減らすそうだが、それでも雑誌不況の中でかなりの支持を得ていることがわかる部数だ。読者層は20〜30代の女性がメイン。ライバルは日本最大のコスメ・美容の総合サイトと言われる「@cosme(アットコスメ)」(木村さん)というが、@cosmeが口コミ中心なのに対し、本誌のウリは「狂気を感じる」とツイートされるほどの緻密な検証だ。

例えば、ベストコスメの日焼け止めは、UVカット率や水に濡れた後も効果が続くか、皮脂に強いか、また使い心地の良さなどを試験機関で測定するとともに、編集部員が日焼けサロンで肌を焼いてみるなど二重に検証して選ばれている。

木村さんは「コスメを取り巻く環境はすごく閉鎖的」だと言う。付録や広告がメインの美容雑誌は商品の良さにしか触れない。芸能人がSNSで商品を宣伝する“インフルエンサーマーケティング”や口コミサイトもどこまで信頼できるのか不透明だ。

そんな中、『LDK the Beauty』は検証者やその過程まで明らかにして商品の良さも悪さも書く。多くの時間とコストがかかるため、利益率は低い。雑誌の知名度が上がるにつれタイアップなどの申し出もあるが、それだけはしないと決めている。テストは外部の機関に発注するか、編集部員や専門家が行っている。後者のクオリティーを上げるため、今後は専門家に入社してもらい社内にラボを開設する予定だ。

記事が「外圧」になれば、コスメ業界のクオリティーも上がる

LDK the Beauty

LDK the Beauty6月号の総力特集は「デパコスVSプチプラ」。他にも「まつげ美容液2カ月使ってみたら、○○○でした」など長期間の検証企画もあって読みごたえあり。

撮影:竹下郁子

月刊化特大号となる2018年6月号の特集は木村さんが「テッパン企画」だと言う「デパコスvsプチプラ」だ。デパコスは百貨店の化粧品売り場にあるような高価格帯の大手ブランド、対するプチプラはドラッグストアで手に入る比較的安価なコスメだとイメージしてもらえばいいだろう。

有名メーカーの広告収入で成り立つ美容雑誌にとっては「コスメ=デパコス」で、広告費をかけないプチプラコスメを取り上げること自体が少なく、その実力は分からなかった。

「商品のクオリティーは価格に比例するという印象を持たれがちですが、質やトレンドに保守的な面もあるデパコスよりもプチプラの方が良いこともあるとテストで分かりました。それを掲載したらすごく反響があったんです。デパコスを使うと(気分が)アガる。そういう喜びや価値観は否定せずに、『でもプチプラも良かったよ』と検証結果で示す。暮らしの中の一つ一つを少しでもいいものに変えていくことで生活の質を向上させたい、という LDKブランドの根幹のような特集ですね」(木村さん)

LDK the Beauty

リキッドリップではトレンド感・質感・ムラのなさなどで高評価を得たのはプチプラばかりという結果に(LDK the Beauty6月号より)。

撮影:竹下郁子

雑誌で取り上げたメーカーの社員からは、これまでは自社製品については社内で意見を言いにくかったが、『LDK the Beauty』の記事を「外圧」として改善の提案などもできるようになったという声も上がっているという。

「昔はイメージだけでできていたビジネスが、本質にも踏み込むようになると商品開発のやり方も変わるかもしれない。ちょっとうるさいメディアがあるから気をつけなきゃね、と。我々がちょっとかき回すようなことをするだけで、業界全体のクオリティーも上がるんじゃないかと思っています。しっかりテストすることで、商品の購入に失敗したり後悔する人を少なくしたりして雑誌の満足度を高めたいというだけでなく、ものづくりの底上げでも読者の幸せにつながればと思っています」(木村さん)

(文・竹下郁子)

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