火星探査機インサイトのソーラーパネルを広げる作業員。2018年1月。
NASA
- NASAの火星探査機インサイトは11月26日午後(東部標準時)、火星に着陸した。
- インサイトは火星の地震(火震)を観測し、45億年に及ぶ火星の成り立ちを解明する手がかりを探る。
- インサイトの探査の全貌を見てみよう。
7年に及ぶ準備の末、NASAはようやく探査機を火星に送り込んだ。
探査機の名前は「インサイト(InSight)」、Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transportの頭文字を取って名付けられた。
重さ794ポンド(約360キログラム)のインサイトは11月26日、7カ月近く宇宙空間を飛行した後、火星に着陸した。
火星でのインサイトの目的は主に3つ。火星の温度を測り、サイズを測り、火星の地震(火震)を観測する。
NASAの科学者は、火星を「検診」するようなものと語った。
約8億2800万ドル(約940億円)を費やしたミッションを見てみよう。
カリフォルニアから火星までは約3億100万マイル(約4億8000万キロメートル)、7カ月近くかかった。
NASA via AP
NASAは2018年5月5日、カリフォルニア州にあるバンデンバーグ空軍基地からインサイトを打ち上げた。
インサイトは、2機のトースターサイズの小さな、キューブ型衛星と一緒にアトラスVロケットに搭載され、火星を目指した。2基のキューブ型衛星は「マーズキューブワン(MarsCubeOne)」と呼ばれ、インサイトの着陸時に地球へのデータ送信をサポートした。
火星表面を目指す旅は最後の数分間が最も困難だった。時速約1万2500マイル(約2万キロ)から時速5マイル(約8キロ)まで、わずか7分で減速しなくてはならない。
NASA-JPL Caltech-Lockheed Martin
インサイトはパラシュートとスラスターを使って減速。また探査機の脚も衝撃を吸収した。
インサイトはエリシウム平原に着陸。火星の赤道に近く、比較的平坦な場所。長さ約20フィート(約6メートル)のインサイトは、ローバー(探査車)と違って動き回らない。
NASA/JPL-Caltech
着陸後、すぐに写真を撮影。観測機器とエリシウム平原が写っている。
代わりに、無人の研究所のような役割を果たす。科学者たちは地球を含めた岩石系惑星の成り立ちを解明する手がかりが得られることを期待している。
NASA-JPL Caltech-Lockheed Martin
インサイトはデータ収集のためのさまざまな観測機器を搭載。NASAによると、それらの機器は「火星表面に静かに、慎重に設置しなければならない」。
インサイトは火星の地面に最大16フィート(約5メートル)の深さまで、温度を測定するための探針を打ち込む。作業は約2カ月かかる。
NASA
最終的な深さに達するまで、2万〜3万回の打ち込み作業が必要。NASAはこの機器を「セルフ打ち込み型の熱探針」と呼んでいる。
熱探針は火星の地下の温度を測定、火星が誕生した時の温度を知る手がかりとなる。
NASA-JPL Caltech-Lockheed Martin
火星の地震も観測。
火星へのミッションに向けて殺菌のためにオーブンの上に置かれたNASAの探査機バイキング。2機のうちの1機。
NASA
地球には地震があるのだから、火星には火震(火星の地震)があるはず。しかし、火震は地震よりも謎が多い。
地球の地震は通常、プレート(地殻)の移動が原因。一方、火震は火山活動、火星の地殻のヒビ、隕石の衝突といった、地球とは違ったタイプの地殻活動が原因と考えられている。
科学者たちはインサイトを使って、数百回までは行かなくとも、数十回の火震が観測できることを期待している。
NASAは1970年代後半に一度、探査機バイキング(Viking)で火震の観測を試みた。しかし、観測機器は探査機の上部に取り付けられ、しばしば風で揺れた。
「我々は火星では地震学の研究を行ったことはない。火星の3フィート上空で行ったと冗談を言ったものだ」とインサイトの主任研究員、ブルース・バーナード(Bruce Banerdt)氏は語った。
インサイトは約7フィート(約2メートル)のロボットアームを使って、火震探知機(地震計)や熱探針を火星表面に置く。
NASA
もう1つ、重要な機器がある。アンテナと送信機だ。火震と火星が軌道を周回する際の揺れを記録する。
送信されたデータは、火星の鉄の多いコアの解明に役立つ。具体的には、コアのサイズ、液体なのか固体なのかを解明することが狙い。
「太陽系の内側の惑星は同じ基本構造を持っている。高密度な鉄のコア、岩石のマントル、そしてより軽いケイ素でできた岩」とバーナード。
彼はこれら3つの基本構造の厚さ、サイズ、成分に関する新しいデータによって、火星の姿が地球と大きく違っている原因の解明が進むと考えている。
NASAは約10年前にも今回と似た火星探査ミッションを行った。2008年の探査機フェニックス(Phoenix)だ。
探査機フェニックス。
NASA-JPL Caltech-University of Arizona-Texas A&M University
フェニックスは暗く、極寒の火星の冬に耐える設計になっていなかった。フェニックスは冬の訪れとともに太陽電池の電力が低下し、5カ月で活動を停止した。
しかしインサイトは寒さに耐えられる。気温が華氏マイナス数百度になっても問題ない。
(翻訳:Yuta Machida、編集:増田隆幸)