孫正義に「スプリント経営統合」決意させた“5G問題”、Tモバイル接近の背後にあるもの

ソフトバンクグループの孫社長

2018年2月の決算会見でスプリントについて語る孫正義社長。

撮影:小林優多郎

ソフトバンク傘下で米国第4位のキャリアであるスプリントと第3位のTモバイルが経営統合に合意した。

TモバイルのCEOであるJohn Legere(ジョン・レガー)氏はビデオメッセージで「AT&Tやベライゾンは気をつけたほうがいい」と語るなど、経営統合によって、上位2社に肩を並べ、徹底的に攻めていく姿勢を見せた。

狙いは2019年に導入する「5G」での巻き返し

ソフトバンクのリリース

4月30日付けで公開されたソフトバンクグループのリリース。

出展:ソフトバンクグループ

スプリントとTモバイルの統合話は実に3度目で、ようやく決着した。

1度目はアメリカ連邦通信委員会(FCC)の反対で頓挫。2度目は孫社長が、経営権を譲らないと誇示したために破談に終わった。

今回の経営統合では、新会社はTモバイルとなり、CEOにはTモバイルのJohn Legere氏が引き続き就任。持ち株比率はTモバイルの親会社であるドイツテレコムが41.7%、ソフトバンクが27.4%で、これによりソフトバンクの子会社ではなくなる。

つまり、孫社長は独占的な経営権を諦めた格好だ。

Tモバイルの店舗

Shutterstock.com

孫社長が心変わりした背景には、直近に迫った5Gへの移行が少なからず影響していることだろう。

日本では東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年に5Gがスタートする予定だが、アメリカでは2018年にもサービスが開始される予定だ。

2018年の段階ではベライゾンやAT&Tが固定インターネット網の代わりに5Gを導入するとみられている。

しかし、2019年には大手4社で一斉に5Gが始まることから、設備投資などにかなりの資金が必要となる。アメリカの複数都市で5Gサービスを提供するには、3位と4位のキャリアがそれぞれ設備投資をしていたところで、競争力は限定的だ。

ここで経営統合すれば、規模の経済により、5Gの設備も大量発注で安価に調達できるようになる。ベライゾンとAT&Tと互角に戦うには、このタイミングを逃してはならないと、スプリントもTモバイルも思っていたはずだ。

米国での中国ZTE規制が大きく影響か?

ZTE

Jauhien Krajko / Shutterstock.com

ソフトバンクグループとしてはもうひとつ、5Gに向けて背に腹は変えられない厄介な問題が浮上してきた。

中国のメーカーであるZTEが、米商務省から7年間の輸出規制を受けることになったのだ。これにより、ZTEは、米国企業であるグーグルやクアルコム、インテルなどから部材の調達ができなくなるとされている。

ZTEはスマホで高いシェアを持つが、一方で、基地局ビジネスでも世界的に存在感を出している。特にソフトバンクとは、5Gの実証実験を東京都・芝大門エリアなどで実施中だ。

ZTEはMassive MIMOなどの技術を持ち、ソフトバンクのネットワークには欠かせない存在。当然、アメリカでもスプリントはソフトバンクと近いネットワーク技術を導入しており、ZTEにかなり依存しているものとみられている。

Massive MIMO(マッシブ マイモ)とは

大量のアンテナを用いて通信を多重化し、高速通信を行なう技術。10Gbps以上の速度をうたう5Gを実現するのに活用される技術のひとつ。

今後、5Gのネットワーク構築に向けて、ZTEのネットワーク機器を一切使えなくなるとなれば、スプリントにとっては大打撃となるはずだ。

いまから、ZTE以外の基地局ベンダーと組み、機器の選定などを行うには時間があまりに足りない。

そこで、スプリントとしては、Tモバイルに助けを求めたのではないか。

孫正義社長

孫社長は経営統合後も経営権を握るべきと語っていた。

撮影:小島寛明

実際のところ、2度目の経営統合が話し合われ、破談となった際に孫社長は「経営権を手放してまで合併するべきではない」と、スプリントの経営権に強いこだわりを見せていた。今後、5GやIoT時代が本格到来する際に、アメリカで通信事業を持っていることが重要になると力説していた。

それからわずか5カ月しか経っていない今回の経営統合。孫社長が経営権をあっさりと諦めた背景には、自社単独での5Gネットワーク構築に限界を感じた、という可能性が少なからずありそうだ。

(文・石川温)


石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。

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