アフリカの貧困をわずかでも減らすために、ブロックチェーンでなにができるだろうか。少しずつではあるが、この問いに取り組む動きが出てきた。
アジスアベバの街なかでは、道路脇にさまざまな露店が並んでいる。
ブロックチェーンでコーヒーの「品質」を証明
2018年5月3日、アフリカ大陸北東部にあるエチオピアの首都アジスアベバ。中央省庁のひとつ科学技術省で、「初めて」とされるブロックチェーンのイベントが開かれていた。
エチオピア政府を代表してあいさつに立ったのは、大臣のゲタフン・メクリア氏だった。
「わたしたちは、とくにコーヒーなどの農産物の取引にブロックチェーンを活用する可能性を検討しています。ブロックチェーンは、最高品質のコーヒーに余計なものが混ざっていないこと、さらに消費者に対しては、ハラー、イルガチェフェ、シダモなど飲みたいと思うコーヒーを飲んでいることを証明できるのです」
スピーチで大臣が触れたハラー、イルガチェフェ、シダモは、エチオピアの中でも高い品質のコーヒーを市場に送り出している産地だ。こうしたコーヒーはシングルオリジン(単一の産地)と呼ばれ、日本でもほかの商品より高い価格で販売されている。
ブロックチェーンのイベントであいさつするゲタフン・メクリア科学技術大臣。
イベントを仕掛けたのは、日本円換算で1兆円を超え(5月5日時点)、仮想通貨全体でも6番目の規模となっている仮想通貨ADA(エイダ)を開発する多国籍企業IOHK(Input Output Hong Kong)だ。ADAの基盤となるブロックチェーン・プラットフォーム「カルダノ」の活用を推進するため、CEOのチャールズ・ホスキンソンさん(30)らが、世界各地を回っている。
ホスキンソンさんは「エチオピアでエンジニアを育てることで、雇用機会の創出につなげたい。政府も非常に前向きに受け止めてくれている」と話す。
改ざんができない形態で取引を記録できるブロックチェーンは、多くの分野への応用が期待されている。
コーヒーの流通でのブロックチェーンの活用法としては、農場を出発点にどのような経路をたどって、スーパーなどの店頭まで届けられたかを記録する。コーヒーのパッケージに貼られたQRコードを、スマートフォンのカメラで読み取ると流通の履歴を確認できる仕組みなどが考えられる。
エチオピアは人口が1億人を超え、ナイジェリアに次ぐアフリカの大国だ。世界銀行によれば、2016年までの10年間、平均で10%を上回る成長を遂げた。一方で、農村部の人たちの多くが、極めて貧しい生活を送っている。
経済成長が続く首都アジスアベバでは、街のあちこちでビル建設が進んでいる。
ブロックチェーンは「コーヒーの価値を高める」
エチオピア側の期待は、高い。
イベントの出席者のひとりで、商品の取引に詳しいエレニ・ガブレマドヒンさん(53)は「余計なものが混ざっていないことを証明できれば、コーヒーの価値を高めることにつながり、生産者にとっては生計を向上するチャンスになります」と話す。
IOHKは、アジスアベバに専従の担当者を置いており、プログラミングやブロックチェーン技術の研修プログラムを開く計画だ。研修を通じて200人を目標に技術者を育成し、ブロックチェーンの普及を目指す考えだ。
同社は、IT産業の育成に力を入れるルワンダでも、同様の研修を実施する。このところ仮想通貨間、ブロックチェーン間での競争が激化しているが、いちはやくアフリカへの進出を進めることで、カルダノの優位を確保する狙いもある。
アフリカの農村に動画配信で収入を
シンガポールに拠点を置くiiino(イーノ)は、YouTube(ユーチューブ)とブロックチェーンを組み合わせるプラットフォームの開発を進めている。
1本の動画につき100万回以上の閲覧回数で、高額の収入を得るユーチューバーもいるが、ほとんどの人が投稿した動画の閲覧回数は限られている。
ユーチューブから分配される広告収入が送金の手数料を下回っていれば、受け取る意味がないため、多くの投稿者は分配金を受け取っていないという。
こうした問題に対応するため、iiinoは、ユーチューブ上に一つのチャンネルを設けて、ユーチューブ側からまとめて分配金を受け取る。世界中からチャンネルへの参加を募り、iiinoが受け取った広告収入を、投稿者に仮想通貨で分配する。仮想通貨は送金手数料が少額であることから、閲覧数が限られる人に対しても、広告収入を分配できる仕組みだ。
アフリカやアジアなどの農村部で、徐々にスマートフォンの普及が進んでいることから、動画配信を現地の人たちの新たな収入源とする狙いもある。
エチオピアでは、たきぎを集めて運ぶのは、女性たちの仕事だ。
モザンビークの農村でバイオ燃料の生産や電子マネーの普及に取り組む日本植物燃料の社長、合田真さん(43)は、iiinoに共同創業者として参加している。合田さんは、途上国での仮想通貨の活用に注目している。
例えば、同じニンジン5本を売ったときに、農家に入ってくる収入は、日本とモザンビークでは数倍の違いがある。物価水準に違いがあり、日本円とモザンビークの通貨メティカルの間には通貨としての力に差があるからだ。
しかし、東京の人とモザンビークの農村の人が、それぞれ動画を投稿して100万回ずつ視聴された場合、受け取る仮想通貨に違いは生じない。
合田さんは「現地通貨のしばりを抜けて、世界中の人たちが対等な立場で、動画の質やおもしろさを競い合うことができる仕組みだと考えています」と話す。
iiinoは今後、アフリカの内戦や自然保護といった、資金調達の難しいドキュメンタリーを手がける制作者の支援や育成のためのプラットフォームとすることも目指すという。
ブロックチェーンで気軽に支援
ブロックチェーンで、気軽に支援に参加できる取り組みもある。
国連児童基金(UNICEF、ユニセフ)オーストラリアは、”The Hope Page”(希望のページ)と名付けられたウェブサイトにアクセスすることで、自動的に仮想通貨を寄付できる取り組みをはじめた。
マイニングに参加して寄付ができる”The Hope page”。
ユニセフが利用しているのは、仮想通貨のマイニング(採掘)の仕組みだ。ビットコインのブロックチェーンを維持する仕組みでは、計算にコンピュータ−の処理能力を提供し、計算に貢献した人に報酬が支払われる。
「希望のページ」にアクセスすると、コンピューターの処理能力が提供され、マイニングに参加することができる。マイニングで集まった仮想通貨は、子どもたちに安全な水やワクチンを提供するプロジェクトの資金になるという。
(文、写真・小島寛明)
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