「AIが変える社会」に本気のマイクロソフト、ナデラCEOが語る“矜持と責任”:Build 2018

BUILD 2018

今年もマイクロソフトの開発者会議「BUILD」が開催された。

出典:マイクロソフト/Facebookページ

マイクロソフトはアメリカ・シアトルで5月7日(現地時間)より、開発者会議「Build 2018」を開催している。同社が強調したのは、AIとクラウド、それを前提とした「インテリジェントエッジ」への傾注だ。

かねてよりマイクロソフトは、「Windowsから収益を得る会社」という体制からの脱皮を鮮明にしていた。今回基調講演で語られたのも、まさにそうした戦略の一環である。

だが、それは「Windowsが不要になる」という意味ではない。 WindowsというOSの位置付けを巧みに変えつつ、価値を「AIとそれを活用するプラットフォームの構築ビジネス」へと切り換えていくことを示している。

クラウド「Azure」が成長の軸になるマイクロソフト

マイクロソフトの2018年第3四半期決算

マイクロソフトの2018年第3四半期決算。

出典:マイクロソフト

現在、同社の業績は好調だ。4月26日に発表された第3四半期決算は、売上高268億ドル(約2兆9235億円)・純利益74億ドル(約8072億円)という高水準だった。

マイクロソフトと言えばWindowsの会社であったが、現在同社の成長を支えているのは、すでにWindowsではなくなりつつある。

オフィスサービスである「Office 365」がもっとも大きな収益をあげているが、今の成長株は、クラウドインフラ事業である「Azure」だ。前年同期比で売上は93%上昇しており、同社の部門のなかで最も成長している。

ここで軸になるのが、昨年以降、同社が将来戦略の軸に据えている「インテリジェントクラウド/インテリジェントエッジ」という考え方だ。

3月29日には、この戦略に基づいた組織変更も発表、Windows事業部門は分割され、それぞれデバイス部門とクラウド+AI部門の傘下に再編された。

それに伴い、2013年よりWindows事業を統括してきたエクゼクティブ、テリー・マイヤソン氏が同社を去ることになった。一方で、4月4日には、IoT関連の事業と研究について、今後4年間で50億ドル(約5450億円)を投じる、と発表した。

Build 2018ではこの方針を受け、同社がどのように「インテリジェントクラウド/インテリジェントエッジ」を具体化し、加速しようとしているか注目されている。

「データであふれる未来」を支える技術に注力

「いま、世界全体がコンピューターになりつつある。あらゆる人・場所・モノにコンピューティングが埋め込まれるようになってきている」

マイクロソフトCEOのサトヤ・ナデラ氏は、5月7日(米国時間)午前に開催されたBuild 2018の基調講演でそう語りかけた。

マイクロソフトのサトヤ・ナデラCEO

マイクロソフトのサトヤ・ナデラCEO。

出典:マイクロソフト

世の中には多数のカメラやセンサーがあり、そこからは日々、大量の生データが生み出されている。今後、その量は増えることはあっても減ることはない。ナデラCEOは「2020年までに、300億デバイスが接続され、毎日1人あたり1.5GBのデータを生成する。自動運転車は1台で1日に5TB、工場は1PB(1024TB)、街全体では250PBのデータが生成される」と予想している。にわかに信じられないほどの量だ。

だが、増え続けるデータをすべて「クラウド側」に渡して処理するのは現実的ではない。高速化しているとはいえ、インターネット回線の帯域には限界があるからだ。そのため、「エッジ」側で処理し、結果や必要な情報だけを扱わないと、効率は上がらない。インテリジェントエッジは、そうした状況に対する同社のアプローチに関する考え方である。

※エッジとは

ユーザーや現実空間に近い、センサーや端末などのこと。

「去年初めてインテリジェントエッジの話をしたが、いまやあらゆるところで見ることができる。インテリジェントエッジが、クラウドを構成する本物の存在になっている」そうナデラCEOは言う。

クラウドにAIが入るのは大前提。その上で、ユーザー側に近い「エッジ」にもマイクロソフトが開発したAIを広げ、データであふれる時代のコンピューティングモデルを作り、そのインフラ提供や開発者支援を収益源とする。これが、同社の戦略だ。

まず、インテリジェントエッジを作るための環境である「Azure IoT Edge Runtime」がオープンソース化された。開発の透明度を上げて、開発者の支持を得るための施策だ。

BUILD 2018のスライド

IoT機器開発技術「Azure IoT Edge Runtime」をオープンソース化。自由な技術開発の促進が狙いだ。

出典:マイクロソフト

同時に、Azure IoT Edge上で画像認識AIである「Custom Vision」が動くようになった。従来、画像認識には画像をサーバーに転送する必要があったが、今回発表された仕組みを使うと、その必要がなくなる。

中国のドローンメーカー・DJIとの提携、「AIドローン」に向け一歩

BUILD 2018のスライド

ドローンメーカーの「DJI」と提携。ドローンを「インテリジェントエッジ化」し、画像認識機能を提供。監視業務の変革が狙いだ。

出典:マイクロソフト

そうした観点で大きな価値を持つ提携として発表されたのが、中国のドローンメーカー・DJIとマイクロソフトの提携だ。DJIのドローンの中に画像認識機能を組み込めるようになる。

基調講演では、パイプにある欠陥をドローンが検知し、ネットの向こうには「特定の場所に問題が存在する」という情報だけを即座に知らせる、というデモが行われた。この技術を応用すれば、様々な監視・管理業務を改善することが出来るだろう。

画像認識IoTデバイスを開発するためにクアルコムと共同開発したカメラデバイスが年内に登場し、奥行きを含めた高度な空間認識を実現する「Project Kinect for Azure」も発表されている。音声認識を活用するための「Speech Devices SDK」の提供も開始される。

Project Kinect for Azureのカメラセンサー

公開されたProject Kinect for Azureの深度カメラモジュール。

出典:マイクロソフト

こうした技術によって、現実世界の持つ情報が、コンピューターで容易に扱える形に姿を変えていく。そのための基盤技術を提供し、工場やオフィス、家庭の姿を変えられる「システムの開発」を支援することこそ、同社の現在のビジネスの主軸なのである。

AIの介在で企業システムが変わっていく

結果的に、我々がコンピューターに触れる時の接点も変わる。

会議室では、音声認識や画像認識、翻訳機能を使うことで、視覚や聴覚に関するハンディーや言語の違いを乗り越えられるようになる。

スムーズな会議を実現するだけでなく、自動的に誰が話しているかを認識し、議事録まで自動作成される。人と人との間にコンピューターとAIが入ることで、「会議」という当たり前の日常にある困難を解決することができるわけだ。

また、ナデラCEOは「あらゆる企業は、『ブランドエージェント』を持つようになる」とも予言する。

チャットボット

ナデラCEOが基調講演で見せたチャットBotのスライド。こうした存在が端緒となって、様々な情報との連携がAIで強化されると、「ブランドエージェント」と言えるような存在になっていく。

AIを使い、人の要求に応えて働くソフトウェアである「エージェント」は、企業のカスタマーサポートや宅配便の再配達案内などで使われるようになった。「Bot」とも言われるものだが、その価値はさらに高まる、と同社は主張する。

より賢いものになり、消費者との接点になっていき、企業のブランド価値そのものを支えるものになることを、ナデラCEOは「ブランドエージェント」と称しているのだ。

ブランドエージェントが構築されるには、AIの技術が必須。企業の求める要素に応じ、個性を持って役に立つAIを構築するフレームワークの提供も、同社が狙う市場のひとつだ。

何か素人目にわかる新しいハードウェア製品が出るわけでもないし、目新しいキーワードがあるわけでもない。

だが、「組み合わせるとこう変わる」「変わる過程にビジネスチャンスがある」ことをビジョンとして示すことで、デベロッパーに対して説得力のある主張を行うことが、今の同社のやり方なのだ。

技術企業としての「責任」を打ち出すのがサトヤ・ナデラ流

ナデラCEOのプレゼンの最後に発表されたのは、ある社会貢献プログラムだった。「AI for Accessibility」は、AIの力を使って様々な人々の持つハンディを克服し、能力を増幅することを目的としている。この活動に、マイクロソフトは5年間で2500万ドル(約27億2700万円)を投じるという。

BUILD 2018のスライド

マイクロソフトはこれから5年間に2500万ドルを投じ、AIの能力で人々のハンディを克服する技術の開発に取り組む。

出典:マイクロソフト

なぜこのようなことをするのか? それは、ナデラCEOがプレゼンのなかでたびたび使った「責任」というキーワードに由来する。

「プライバシーは人間の権利であり、人権。コンプライアンス重視がスターティングポイントであり、終わりはない」

「セキュリティーにもアクションをとらなければいけない。世界の市民がサイバー攻撃から守られるようにしていくことが重要」

「コンピューターでなにができるのかも重要だが、コンピューターがなにをするのかも重要。ファーストクラスの規律が必要であり、倫理的なAIが必要だ」

どれも正論だ。昨年のBuild 2017でも、プライバシーに関する考え方の説明に長い時間を割いたことが印象に残ったが、今年もこのメッセージは変わらなかった。

ビジネスチャンスを繰り返すだけでなく、巨大プラットフォーマーとして、開発企業としての「責任」を明確にするのがサトヤ・ナデラ流、ということなのだろう。

(文・西田宗千佳)


西田宗千佳: フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。

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